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シノちゃんは、小学生に面接のコツを教える

小学校最後の一年。黒板に大きく形の整った漢字をなんの気になしに書いてから、その横に二頭身の自分の似顔絵を描くような先生だった。そして、大きくハッキリとした声で音読をするように先生は自己紹介をした。

「先生の名前は、こう書きます。シノちゃんと呼んでください!」

シノちゃんの好感度は跳ね上がった。四角い顔で黒縁の眼鏡をかけた国語の先生は、この日から私の担任になった。

シノちゃんの教え-その1-

「これから毎日日記を書きましょう。一行でもいいから」

小学6年生初日からシノちゃんの指導は始まった。放課後にお題を出されて、お題に沿った日記を書く。最近の家族の話。今周りを見渡して思ったこと。この後の委員会で起こりそうなハプニング。この先生へ一言。何だこれは?!な出来事。先生の口からお題が尽きることは、一度もなかった。

最初の頃は、拙い言葉を綴っていく何とも不器用な日記だった。クラスメイト全員が。しかし数ヶ月も経つと、日記の書く速度、量、分かりやすい説明の仕方などが目に見えて良くなった。

さらに、何かに気づくこと、疑問に思うこと、上手い伝え方が身についてこのクラスの勉強に取り組む雰囲気は目を見張るものがあった。

シノちゃんの教え-その2-

「ちゃんと、しっかり、といった言葉は曖昧だからなるべく使わないこと。使っても、次の行で必ず具体的なちゃんと、しっかりの説明文を書きましょう。」

何を言ってるのか分からなかった。でも、シノちゃんは私たちの疑問を必ず嗅ぎとってくれる。

「ちゃんと勉強しました。ではなく、1時間勉強しました。とか3ページ自学をしました。とか、内容のある文章を書こう。」

シノちゃんの言葉通り、抽象的な文よりも具体的な文を大切にするようになった。説明することが上達していく感覚を覚えて、楽しくて仕方がなかった毎日。これは今後も役に立つと、ぼんやりと分かっていたのかもしれない。

シノちゃんの教え-その3-

「自学ノート1冊終わったら、カードを1枚あげよう。10枚貯まったら大きいスペシャルカードと交換だ!」

そのカードは、シノちゃんの似顔絵や動物が描かれたもので、私たちのやる気をアップさせる魔法のカードとなった。1日1ページの自学は当たり前!1日に5ページもやって、スペシャルカードを3枚もゲットする子も居たほど…!!

シノちゃんは似顔絵描くのが上手だった。色んな先生の似顔絵も手がけて、「これ〇〇先生にそっくりだよね?」と自慢してきては、キャラクターが増えていく。

シノちゃんの教え-その4-

「皆で討論大会をしよう!」

それは定期的に行われた。お題に対する意見の賛成と反対に別れて、意見を言い合う。審判は2人の意見を聞いて勝敗を決める、というもの。

学校は制服?私服?   服は兄や姉のお古がいい?新品?  この物語の主人公はこの人?それとも別の人?   兄弟はいたほうがいい?それとも一人っ子?   小学生は携帯を持ってもいい?ダメ?etc.....

大人顔負けの意見が出るほど白熱する討論大会!密かに強い人のランキングが出来上がっていた。この大会にはシノちゃんも参戦!シノちゃんに勝てる人は、残念ながらいなかった(´・ω・`)ショボ-ン

シノちゃんの教え-その5-

「ふざける時はおもいっきり!!」

ハロウィンパーティやクリスマスパーティーなどイベント事には必ずクラス会が開かれた。その時シノちゃんは、必ずこれを言う。

「ふざけることは悪くない。今は、ふざけていい時だ」

空気を読むとか、周りの雰囲気とかいろんな意味があったんだろうけど、私たちにとってはお祭りが始まる合図なんだ!!(b`>▽<´)-bイエーイ☆゛

面接のコツはね…

「面接では、予想もしてない質問がくる。そこで焦ったらダメ。そうですねーとか、質問を繰り返して言って間を開けないように。そして、すぐ答える!これが肝心」

中学受験をする人が私の学校には何人かいた。いい機会だからと、シノちゃんは礼儀作法から質問の返し方まで丁寧に教えてくれた。

「僕も予想してない質問を何回もされてきた。例えば、『君には弟さんがいるみたいだけど、弟と自分の明らかに違う点は何かな?』ってさ。準備してない質問!えーってテンパリまくり。でも僕は間を開けないようにしてすぐ答えた。『そうですねー。弟は気さくでコミュニケーションをとるのが得意ですから、明らかに違う点は、そういった柔軟性でしょうか。』ってね。僕は合格した(灬ºωº灬)フフフ~ン♪」

やっぱり凄いんだなー、シノちゃん。

「目を逸らすのもいい手だよ。考え中だなって分かってくれるから。まあ、皆には今まで沢山文章について教えたから問題ないね!パッと文を思いつく力も構成する力や速さも全部、突き詰めたからね(ơ ωơ)✧」

その時、あっと口が開いた。シノちゃんは、全部計画してたのかな?

誰かに質問や疑問を投げかけられた時、間髪入れずに自分の考えを言えるようになったこと。読書感想文を終わらせるのに困らなかったこと。日記を書くのが楽しくなったこと。このクラスが一番写真も笑顔も多いこと。

何だか感動したなとか、そういえばもうすぐ卒業だなとか、先生大好きだなとか、急にいっぱいいっぱい溢れてきた。そんな日。

ありがとう

シノちゃんへ

本当にありがとう。スペシャルカードも日記もノートの端に真似して描いた似顔絵もまだ残ってるよ。国語の授業はいつもオール5で読書感想文とか論文とか、文章を考えることに困ったことなんてない。私の一部を作ってくれてありがとう。一生忘れないよ(*^^)v

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