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母の死、疫病、春の雪

母が亡くなった。

「いよいよ日本もロックダウンか」と騒がれ始めた頃に、感染症とは全く関係ない事故で、突然に。倒れる数秒前まで元気そのものだったから未だに信じられない。今も我が家から少し離れたあの家で生活している気がしてしまう。
その上、疫病? 桜が咲いたのに雪? 私はどこか並行世界に飛ばされてしまったのではないか。

突然「母がいない世界」に放り出されることは、日頃それほど母にべったりではなかったとはいえ、精神的にはかなり堪える。心理職の端くれなので、このあとどんな経過をたどって心身が回復していくのかの臨床的な知識は少なからずある。けれど、それが自分の精神を今すぐに楽にしてくれるわけではない。3ヶ月も経てば楽になるって言われたって、私は今すぐ楽になりたい、のだ。


父は12年前に亡くなっている。

父は長年患った持病による死だったので多少覚悟は出来ていたけれど、それでも初めて迎える親の死だったので、精神的にはかなり堪えた。私はまだ起業したばかりでとにかく忙しい毎日だったが、父が亡くなった日から3日間だけスケジュールがなぜかぽっかりと空いていて、父を見送ることに集中できたのは不幸中の幸いだった。
その後、時々来る悲しみの波を、仕事をすることで紛らわせながらやり過ごした。
少し気持ちが落ち着いたかなと思ったのは、確かに3ヶ月後くらいだったか。徐々に父のいない世界に体がなじんでいき、「父親」というものが概念になる。
そして、良い思い出しか思い出せなくなった頃に、夢に父親が登場するようになる。出てくる父親はいつも笑っていて、「あれー死んだんじゃなかったっけー」なんて会話をするのだ。


人生は残酷だ。取り返しがつかないことばかりで、時間は決して元には戻らない。
失われた命は返ってこない。
死んだ人には、もう、2度と、絶対に会えない。
覆ることのない「絶対」の、その「絶対」さが、私を散々に打ちのめす。


それでも人生は続くし、私は生きなければならない。
時間は多少かかっても、きっと立ち直ってしまうだろう。私は、申し訳ないほどに逞しい。


そういうあれこれも含めて、なんだか空しいな。
全部、夢ならいいのにね。

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