Love-tuneのオタクになった話。

「私はさぁ、ちゃんと授業をしたいんだけどさぁ。」「だったら注意なんてしないで勝手に進めりゃいーじゃん!」すうっと教室上空を飛ぶ紙飛行機、窓側の一番後ろと廊下側の一番前の対角線で会話「あのさぁ!静かにしてよ!」「うっさいなぁ。」「先生!俺トイレ行ってきまーす。」しゃべっていない生徒のほとんどはうつ伏せで寝ていて、2、3人が不自然にうつむいてスマホをさわっていて、1、2人が困り顔でこちらを見ている。ふっとため息を漏らして黒板に文字を書いた瞬間はちょっとだけ静かになる。そのわりにノート提出をしないから、ちゃっかり点数は引いている。

あー、毎日嫌だなぁ。もう教師なんて辞めたいなぁ。

何度かめそめそと泣いてしまったせいで、生徒から「あー、先生もう泣いちゃうよ。」なんて泣き虫いじりをされる時がいちばんみじめで、なけなしのプライドが、私は高校生にバカにされるために教師になったんじゃないんだけどな、なんてぐずぐず言ってくる。出口のない暗闇を歩いているみたいで、相談した時のお決まりの言葉は「そのうち転勤できるから」で、生徒まで「先生来年はいないでしょ。この学校嫌でしょ。」とか言ってくる。だからそんなことないよって言う。嫌じゃないよ、来年もきっといるよ。良かったぁって喜んでくれる子もいて、その時は胸がチクリと痛む。だって学校辞めたいし嫌だし、辞めんなよって慰められるのも、悔しいし。もうどん底で毎日グダグダしている。学校の先生は激務だってよく言われるけど、もう全然、適当に授業しちゃうし、ほとんど聞いてくれないから別にいいやって思っちゃうし。部活もそんなにやってないから大変じゃないし、何なら定時に帰る日もある。全然ある。休日出勤ゼロだし、優しい管理職からいいよいいんだよ早く帰ってゆっくり休みなよって言われたりもする。

でも、あれ?これはなんか違うなって、自分で言うのもアレだけど、クソ真面目な私は思っていて、以前は結構激務だった時もあったけど、まぁ好きで働いてたから。全然、寝る暇もないくらいガムシャラにやってた時期もあったし、私がんばってんなー!っていうの、まぁまぁ好きだったし。生徒にすべての理由を押し付けてダラダラして、病気になんないってだけで毎日学校に行く。これって違うなーって。職員室で同僚と「最近口が悪くなってきちゃって嫌なんですよね。」って、うんうんって頷いて、うんうん、心がじわじわと腐っているなと感じる。私は私の嫌いな私に、もうすっかりなっちゃってる。

息も絶え絶えで夏休みに入ると、しばらくは成績不振者の子と過ごすことになる。もちろん受験に向けて学力向上を目指す子もいるけど、あいにくその2倍くらいの生徒が進級に向けての学力向上を目指す。さすがに茶髪は不自然な黒に染めてくる。ピアスは教室で外すし、スマホの電源は注意されると消す。タイミングが悪いと「今やってんじゃん!」ってキレられることもある。つらい。やることは単純で、授業に出て試験に合格する、これだけ。試験は一切ひねらない。ひねらないどころか、ちゃんとここから出すって3枚くらいのプリントを渡して、ちゃんとそこから出してる。それだけ。それだけなんだけど、どうもうまくいかない。こっちはおとなしく受けに来てやってんだよ、髪も黒く染めてピアスも外すしスマホ触ってねーだろ、俺の都合でやらせろよ教師だからって偉そうにすんじゃねーぞ、という圧をごくごくごく(大事)一部からビシバシ感じる。もうすごい、この期に及んでの意地の張り合いがすごい。心理戦とかじゃない、意固地になってる、お互い。いやあのさ、さすがにこの授業は黙って受けようよ。あ?ここまでしてんだろ、これ以上何すればいいって言うんだよ、バチバチ、みたいな。もう一回書くけど、やることは単純。授業に出て試験に合格する、これだけ。でもうまくいかなくて、詳細は省くけど、私はまた泣いてしまった。あー、嫌だなぁ、教師辞めたいなぁ。試験はほぼほぼ不合格だった。あー、悲しいなぁ。プリント作って、試験問題にして印刷して、やっぱりちょこっとだけ予習して、まぁお仕事なんですけど、お仕事やってるだけなんですけど、全然、こうも全然、何にも実らないし伝わってないと、何だこの作業は、世の中に意味のないことなんてたくさんあるけど、何だこの、みんな嫌な気持ちになる不毛な作業は。あー、辞めたいなぁ。成績会議の後の予定はがら空き。「私8月、ほぼニートなんですよ。」「いいんじゃない?ゆっくり休んで休んで!」優しい管理職は、大量の有休申請をあっさり通してくれた。

予定のない私は、ひとまずテレビを見ていた。その時の私はキスマイのオタクだったので、まずアイドルに癒されることを最優先にした。冷房の効いた部屋にお菓子とジュース。有意義すぎる時間。しかしさすがに有り余りすぎる。そこで私は撮りためていただけで手を付けていなかった少年倶楽部を見ることにした。ジュニアを全然知らなかった頃の私にも「茶封筒の安井くん」はキスマイのオタクとしてあまりにも有名だった。千賀くんと仲がいいことも知っていた。安井くんは25歳らしい。職業柄10代の子を応援するのははばかられるものの、25歳なら仕方ない(?)安井くんは見た目が10代だけど、25歳なら仕方ない(?)かわいい。安井くんかわいい。だから私はジュニアの中ではLove-tuneだなと、それだけは決めていた。2016年にドリボで共演して以来、キスラジで宮田くんがちょこちょこと話題にあげてくれていたし、何より強火玉森担の長妻くんには尊敬の念すら抱いていた。Love-tune推せるな。そのくせグループの人数が何人かも知らなかった。美少年がたくさんいるな、Love-tune推せるな、としか思っていなかった。たまに買っていたドル誌も、ジュニアの中でLove-tuneのページだけは見ていたくせに、安井くんかわいい、Love-tune推せるな、としか思っていなかった。かかわる生徒の名前を覚えるのに最近は12月くらいまでかかっちゃうから(もうクラス替えしちゃう)それは仕方ないのだ。少年倶楽部で安井くんが踊っていた。かわいかった。次にレコーダーの容量の関係で、Love-tuneのところだけを残す作業をし始めた。ここでようやく、ん?毎回CALL歌ってるわけじゃなかったのか、とか、美勇人くんはTravis Japanと兼任だったのか、とか、当たり前のことを知っていく。メンバーの名前もやっと覚え始める。萩谷くんのことを荻谷くんと間違えないようにしなくちゃな、などと思う。萩と荻は島根と鳥取並みにデリケートだと勝手に思っている。諸星くんのダンスが全身全霊で楽しいよ!って言っててめちゃくちゃかわいい。金八オタクとして金八第8シリーズ出のデビュー組がいないことにもやっていたから真田くんのことをチャラと呼ぶ。アベアランさん顔がつよいとうわ言のようにつぶやく。CALL意味は分からんがパッションがすごい、若さの圧とか思っていたけど、今見るとすげーーーーーーーーーーーーかっこいい!!!あれっ!?すげーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーかっこいい!!!

Love-tuneかっこいいな!!!!!!!!!

急転直下、もうごろごろと転がっていた。パウロの目からうろこが落ちたみたい。新しい世界が見える。すっげーーーーキラキラしてる!!!その興奮とは裏腹に語彙力を失っていた私は「やば。」くらいしか言ってなかったような気がする。とにかく衝撃だった。急に新しい世界が広がった。ぱあっと世界が輝いていくのを感じた。

それから私は夏休みをLove-tuneの勉強に費やすことにした。エイベに従順なキスマイのオタクなので、ドリボはもう9月に届くことになっていた。そのためまずはSLTを即注文した。安井くんかわいい。かわい……かわ……か……。もろほしくんかわいい……………………………………………………。気づいたら諸星くんを目で追っていた。好きになったアイドルをすぐに自分のクラスの生徒にしたがるクセ(何それ)があるので、高校生の諸星くんがクラスにいたらロッカー整頓しろって注意したいとか妄想してた。ちなみに長妻くんは去年まで高校生だったけれど、わりとそんな迷惑かけないタイプだし若い男の先生にいじられ倒されるのをほほえましく見るくらいで、たぶんあんまりしゃべんないななどと失礼な妄想をしていた。ドルオタがバレたときに男子高校生のことどんな目で見てるんですか?って言われることが億が一あったとしたら、アイドルとDKは別物だからDKが勘違いすんなって叱ろうと思った。1日に1回は下ネタを言わないと死ぬような世界に生きているDK(偏見のかたまり)とアイドルは別の世界線にいるんだと確信した(知らんけど)だから私はあっさり職業柄10代の子を応援するのは……、と思っていたところを解禁した。素早かった。その素早さに、久しぶりに自分に感心した。

そうこうしているうちに9月がやってきてしまった。長いほぼニート生活もあっさりと終わりを告げ、病気になんないからというだけでやっぱり私は遅刻もせずに学校に来た。ごくごくごくごく(大事)一部の生徒が初日から茶髪ピアス遅刻のため怒られていた。彼らは始業式とテストのためだけに学校に来るので、まだ学校のことを気にかけているのだというメッセージが伝わる。だったらこちら側としてもアクションを取らねばならない。そのための注意だった。何だか、不思議なものを見るような感覚だった。嫌だな、とは思うけれど、夏休み前とはなんか違っていた。みんなが嫌な気持ちになるだけの不毛な作業なんて本当はなくて、より良いものを得ようともがいているのかもしれなくて。思春期特有のモラトリアムな気持ちなんてもうとっくに分からなくなってしまったけれど、その吐き出し口が「学校生活」とは噛み合わないのかなぁなんて、ちょっとセンセイらしいことを思ったりもした。教壇から見る景色は夏休み前とそう変わらない。せいぜい慌てて黒染めした髪がずいぶん茶色くなったなぁと思うくらいで、それをモグラたたきみたいに注意していく。舌打ちされて「ウザ。」と言われるよりは、愛想笑いでごまかされる方が多い。しかめっ面で「だる。」と思うよりは、愛想笑いのごり押しで注意し返すことが増えた。私の世界がちょっと変わっていることに気づいた。あんなに辞めたいと思っていたのに、もう随分と、そんなことは思わないようになっていた。教室の宙を飛ぶ紙飛行機、1日に1回は下ネタを言わないと死ぬ男子がちょっとバツが悪そうに立ち上がって拾いに行った。そういえば今までもバツが悪そうにしていた。やっちゃいけないんだなぁとちょっとでも思っていたんだと、ようやく気付いた。せめて席について授業を受けてよ、その言葉に対してちょっとはそうだなぁと思う気持ちがあることに、私はようやくほんのりと気付くことができた。それを実りとか伝わるとか単純に言い換えることはできない。でも、私はどこかで実るとか伝わるということを勘違いしてたんじゃないだろうかと思った。私は私のモノサシで、私にとって都合のいい世界が訪れることを、心待ちにしていただけだったんじゃないだろうか。

Love-tuneはいつもキラキラしていて夢に向かっていてステキで、ひょっとしたら彼らも、DKの時は1日に1回は下ネタを言わないと死んでしまうたちだったのかもしれないけれど、そんなことはどうでもよかった。彼らを見ると毎日元気をもらえた。かっこいいなぁ、好きだなぁって思うだけで、世界はぐんぐんと輝きを増していく。目からうろこが落ちたので、たくさんの見えなかったものが見えるようになっていた。相変わらず授業の準備は適当にして行くし休日出勤ゼロの定時退校のくせに愚痴を言いまくる。うんうん、こっちだな、あともう一歩世界を変えるのは、やっぱりこっちだな。そういう風に素直に思えるようになった。世界が広がったので余裕ができたからだと思う。Love-tuneがLove-tuneでいてくれるだけで、いつもどこかで救われている。あぁすごいな!アイドルってすごいな!!今でも毎日そう思っているし、今日も元気をもらってる。「先生来年もいますか?」って優しい女子高生から声をかけられたとき、するりと「うん、いると思う。やっぱりね。」なんて言っていた。びっくりした。不安は今でもあるけれど、うん、腐った自分を浄化するためにもここは頑張りどころだなと思っている。辞めんなよ、なんて声をかけられないようになれるかもしれない、というのは、ちょっと大げさな期待だけれど。

Love-tuneありがとう!大好きだよ!去年も大好きだったけど、今年も毎日大好きだよ!!だから私は毎日幸せなんだよありがとう!!!

どうしてもどうしてもどうしてもこれが言いたくて!初めてブログを書きました!!!!!ほんとーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーにありがとうね!!!!!

私の勤める学校は上記の通りまぁちょっとヤンチャですが、先生も生徒も保護者もいい人めっっっっっちゃたくさんいますので!!マジですべての子どもたちの未来に幸せが待っててほしいと思っているんですよマジで。Love-tuneのおかげ、ほんと。

Love-tuneが好きすぎて、大好きをたとえ世界の片隅でももっともっとたくさん発信したくて書きました。これからもちょこちょこ書けたらいいなぁって思っています。



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