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2019年の音楽・本・映画

年末は必ずその年に聴いた音楽を振り返って良かったものをまとめているのですが、今年は本と映画についても書き残しておこうと思います。


いつでも熱狂していた音楽にのめり込めない時期があって、その分映画を観ることにハマり、気づいたら音楽への探究心も戻ってきていました。今年は日本の音楽にピンとくるものが多かった。100曲くらい「この曲について1時間ずつ語り合いたい」というものがありますが、10曲くらいに留めます。


① Answer to Remember「RUN feat. KID FRESINO」

自分にとってそれを「良い音楽」と判断する大事な基準の1つは「これまでに聴いたことがない新しさがあるか」とか「未来を感じさせるかどうか」ということで、石若駿やKID FRESINOの作品を聴いていると、まさにそういう感覚が全開でわくわくする。そしてそれは、リズムによるところが大きいんだろうなぁ。でも、難しいことを何も考えなくても伝わるかっこよさがあるし、この2人が関わっているものは本当に全て良い。


② Billie Eilish「bad guy」

久しぶりに「これはヤバい!」という感覚を中高生世代と共有できたビリー・アイリッシュ。彼女の大きな魅力の1つは、ジェンダーレスな感覚をもった存在であることだと思うんだけど、この曲もそういう空気をまとっている。"bad guy"は男性ではなく曲中の「I」、つまりビリー自身のこと。ユーモラスな響きのコーラスをもち、突然トラップ調へ移行する不思議なつくりの音楽も魅力的です。


③ 崎山蒼志「むげん・(with 諭吉佳作/men)」

日本の若き2人の才能によるコラボレーション。歌詞の言葉選びや曲のつくりにある歪な感じは、CINRAで紹介されていた共作の過程にも関連するのかもしれない。もっともそれは悪いことではなく、フックがたくさん散りばめられているということ。抽象的な歌詞が崎山と諭吉佳作/menの透き通った声にとてもよくハマっている。


④ maco marets「Blu (CIFI pt.2) 」

多くの日本語ラップの聴きどころは言葉そのもの(とフロウ)だったりするわけだけど、maco maretsの曲においては、言葉はあまり重要ではない。トラックとフロウでつくられるチルな空気感こそが曲の核であり、「Blu (CIFI pt.2)」はこれまでの曲以上に内向的な感覚が強い。クールダウンしたい時に聴きたい曲であり、アルバム。


⑤ Rex Orange County「10/10」

ウェルメイドでオーセンティックな2分26秒の佳作。ヴァースもコーラスもブリッジも、すべてがメロディアス。昨年は(トイ・ストーリーの曲を歌ってる)ランディ・ニューマンとのコラボが話題になったけど、ポップソングの伝統を受け継いで、真っ当に発展させていく人なんだと感じます。教育の仕事をしている人間としては、彼の母校であるBrit Schoolへも興味が。


⑥ 角銅真実「Lullaby」

ceroのライブやレコーディングのサポート、または石若駿のsongbook projectへの参加などから、じわじわとその名が知られてきている角銅真実。2020年発売のアルバム『oar』からの先行配信曲がこれ。音楽的なルーツはよくわからないけれど、旋律からは異国情緒を感じます。南米っぽい?しかし、石若駿といい角銅真実といい、藝大出身者の音楽が本当におもしろい。


⑦ GRiZ (ft. Wiz Khalifa) 「Find My Own Way」

明け方のクラブ・アンセム。大丈夫だ、と明日を信じて祈るその歌がもつ明るさは、現在の苦境と表裏一体である。歌詞も相まってどこか感傷的なラップと歌唱を、力強いコーラスとホーン・セクションが盛り立てている。フューチャー・ファンクを掲げるDJであり、サックス・プレイヤーでもあるGRiZらしい曲だと思う。なんだか勇気がじんわり湧いてくる1曲。


⑧ 蓮沼執太 「CHANCE feat. 中村佳穂」

蓮沼執太と中村佳穂が一緒にやったら間違いないよね…、という期待を500%の仕上がりで上回ってきた名曲。曲中盤、中村佳穂によるポエトリーリーディングのようなパートから、スキャットでどんどん高揚していく展開がハイライト。小林うてなのスチールパンも全編を通していい仕事してます。蓮沼ファンなので、曲を出せば必ずベスト10に入れてしまう…。


⑨ 狭間美帆「Dancer In Nowhere」

デンマーク国営ラジオ局のビッグバンドの首席指揮者に就任した、というニュースでも話題になった作曲家・狭間美帆。ビッグバンドって、正直ちょっと古くさいイメージがあったんですよね。でも、彼女の存在が現在進行形のビッグバンド・ジャズの面白さに気づくきっかけになった。この曲の緊張感漲るダイナミズム、何度聴いても興奮する。クラシック好きにも聴いてほしい。


⑩ Kan Sano「Stars In Your Eyes」

この曲に限らず、アルバム全体がよかった。アルバム単位ならベスト3に入るなぁというKan Sano。コーラス部分、4小節目のコード進行がとても美しい。3音目まで順当に音階が上っていって、4つめの音で少し外す感じが最高です。クール。いい意味でBGMにもなる、平熱の音楽。こういうのを今年は求めて聴いていたような気がします。


以上、次点をあげだすときりがないですが、VIDEOTAPEMUSICのアルバム、the chef cooks meのアルバム、Ezra Collectiveのアルバム、ロイル・カーナーのアルバムも良かったなぁ。チャーリーXCXとLizzoがコラボした曲とかもね、最高でした。同じく最高だった星野源とスーパーオーガニズムの「Same Thing」なんて、紅白で歌われるらしいですよ。マジかよ!って感じですよね。紅白でサビが「Fuck you」の歌を歌っていいんでしょうか。


さて、本と映画は3つずつです。


①井庭崇 編『クリエイティブ・ラーニング 創造社会の学びと教育』

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2011年に先輩の先生から「これからの教師はファシリテーターなんだ」と言われ、ほんとその通りだなと思って働いてきましたが、この本で「ジェネレーター」という新たな在り方に出会って衝撃を受けました。子どもと一緒に面白がれる人、自らの好奇心でプロジェクトを加速させる存在。こういう教師像が未来の当たり前になるかはわかりませんが、ジェネレーター的スタンスを活かした実践は少しずつでも確かに生まれてくるはず。自分もこうありたいし、ここには、めちゃくちゃ可能性を感じる。


②ブレイディみかこ『ぼくはイエローで、ホワイトで、ちょっとブルー』

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筆者の息子が通うイギリスの「元・底辺中学校」での生活を通して、労働者階級やアンダークラスの人々にフォーカスを当てつつイギリス社会のリアルを描くノンフィクション。ここには人種差別も貧困もいじめもドラッグある。間違いなく困難な環境だけれど、そんな様々な問題を目の当たりにしても、自分の頭で考え悩みながらタフに成長していく息子の姿を見て感じるのは、絶望ではなく希望だ。「多様性は、うんざりするほど大変だし、めんどくさいけど、無知を減らすからいいことなんだと母ちゃんは思う」と息子に語るブレイディさんの言葉が好き。


③佐宗邦武『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』

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職場のみんなでABD(Active Book Dialogue)をしたことでも印象に残っている一冊。論理思考、システム思考、デザイン思考など、思考法を説く本は数あれど、いちばん腹落ちし、実践してみたいと思ったのはこの本の考え方かも。大きな理由は、ヴィジョン思考が内発的動機を重視しているから。私は起業家でもなんでもないですが、プロジェクト型の学びにはとても関心があるので、子どもたちが自分が本気で取り組めるプロジェクトを構想するときに非常に参考になるなと思った次第です。あと、思考法のプロセスや具体的な方法に対する名づけがいちいちおもしろい。


以上。今年は村上春樹の『騎士団長殺し』が文庫化されたので、いちばん没入したのはそれだったりします。年末に友人がFacebookで紹介していた川上美映子が村上春樹にインタビューする『みみずくは黄昏に飛び立つ』も最高におもしろかった。2019年の読書は50冊ほど。『被抑圧者の教育学』とか、教育学の名著に改めて触れたのもよい経験でした。


最後は映画です。触れた本数はさして多くないですが、その中で特に良かったものを。


①ボー・バーナム監督「エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ」

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「レディ・バード」とか「ウォールフラワー」とか、思春期~青年期の葛藤と成長を描いた作品が好きなのですが、「エイス・グレード」もまた15歳、中学卒業間際の少女の友人関係や父子の関係を中心に据え、まさに葛藤と成長を描く映画です。中学生のリアルは学校だけじゃなく、InstagramとYoutubeの中にもあるわけで、生身のつながりとSNSのつながりが重なり合いながら立ち上がるリアリティは非常に現代的。物語が進むほど、心の底から主人公のケイラを応援したくなります。焚火の前で父親と語るシーンは、今年いちばんあたたかく感動的だったかも。


②アンソニー・マラス監督「ホテル・ムンバイ」

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インドの大都市ムンバイで2008年に実際に起きた同時多発テロを描いた、スリリングな傑作。銃声が絶え間なく響き、罪のない人々が次々と殺されていく惨劇のさなか、身を挺して宿泊客を守ろうとするホテルマンたちの姿に感動を覚えずにいられません。テロリストはまだ少年のような面影の若者たちで、貧しい地域に生まれ、この襲撃、そして自らの命と引き換えに家族への送金を約束されている。そんな背景が見え隠れするいくつかのシーンを経ると、自分はいったい何を願ってこの映画を観ればいいのかわからなくなってきます。これを評して「奇跡の脱出劇」では少し軽すぎる。


③ジョシュ・クーリー監督「トイ・ストーリー4」

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大感動の前作に勝るとも劣らない傑作となった人気シリーズ4作目。4作すべておもしろいってすごいことですよね…。作品終盤のウッディの決断に私はもうすっかり感動してしまって、スクリーンが歪んでしまいました。これはまさに、自分のアイデンティティを乗り越える、更新する物語。でも、それはウッディひとりで成し遂げられたことではないんですよね。ウッディを揺さぶる新たな仲間の存在、新たな仲間との関係性が、今作ではとても重要なんだと思います。トイ・ストーリーには人生のヒントが詰まってる。


この3つ以外にも、つい先日観た「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」に、上記の3つをぶち抜く勢いで圧倒的に感動させられたり、話題の「ジョーカー」に引き込まりたりと、素敵な映画体験が多い1年でした。


細野晴臣のドキュメンタリー「No Smoking」や、Blue Noteのドキュメンタリーもよかったなぁ。映画館に行きたくなる作品が多かった。


以上、2019年の音楽・本・映画の個人的なまとめでした。「この作品がよかったよ!」という話をしたり聞いたりしてるのが、いちばん楽しい時間かもしれない。

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