2021年の音楽など
今年もよかった作品を振り返ってみました。
なかなかに忙しくて、本を読んだり映画を観たりが捗らないときにも、音楽は聴けるのでありがたいです。
ところで、自己紹介などするとき「音楽が好きです」というのが最近なんだかしっくりきません。
「音楽」だと言葉の指す範囲が広すぎて、イメージを正しく共有できない感じがするんですよね。サッカーが好きな人は、サッカーが好きって言うよな。スポーツが好きって言わないよな、ということです。
かなりの雑食だと自認しているのですが、ここに並べた作品を見ると、「UKラップとアメリカのインディーフォークが好きです」となるのだろうか…。なんだか嫌味な感じがしますね…。
自分の好きなものが上手く伝わらないというのは、それこそ思春期の頃から感じてきたもやもやです。とはいえ、さすがに大人になると伝わる人もたまに現れて、それが思いもよらないつながりを生んだりすることもある。そういうときって、とても嬉しい。
仕事じゃないので、別にみんなに伝わる必要はないんですよね。偶然、誰かに伝わったり、興味を持つ人がいたりしたらそれで十分。だからこそ、年に1回くらいは自分の好きなものをただ表に出すのも悪くないのでは、と思って今年もやってみます。
◆2021年の30曲
1.Little Simz / Introvert
様々なメディアでも軒並み高評価だったLittle Simzの最新作冒頭を飾る1曲。勇壮なホーンが響く幕開けのイメージに相反して、タイトルが「Introvert=内向的な人」であることにも興味を惹かれました。歌詞の内容も深く読みたくなる曲ですが、何と言っても楽曲のアレンジが素晴らしいです。少々大仰かなとも感じる力強いイントロから、ミニマムなドラムとギターリフに乗せたラップパートへの移行はメリハリが利いていて心地よく、再びのホーンパートから、2回目のドラム&ギターにはコーラスが彩を添える。曲が展開する中で常に変化があり、6分という長尺ながらまったく飽きさせません。NPR Tiny Desk (Home) Concertでのライブもめちゃくちゃかっこよかった。圧倒的1位。
2.Rostam / 4 Runner
元Vampire WeekendのメンバーであるRostamの2ndより。各楽器に、そしてボーカルに存在感がありつつも角がない録音?音の処理?が好みでした。リヴァーブの利いたギターが特に良い。鳴っている音のひとつひとつが耳を楽しませてくれます。「Changephobia」(変化嫌い)というアルバムのテーマにも共感するところが多かった。これ、変化を否定しているのではなくて、変化に向き合うことを歌っていると捉えてます。アルバム全編通して秀逸でしたが、メロディの良さが際立つこの曲がイチオシ。
3.Mooment Joon / DISTANCE feat.Gotch
切実な音楽、切実な言葉というのはこういうものを言うんだろうな、というMoment JoonとGotchのコラボ曲。トラックのピアノを弾いているのは坂本龍一。時に攻撃的で、告発するような言葉遣いの他の作品も魅力的だけど、これは言葉がやさしく感じます。悲しみを共有し、共にトンネルの出口を探すような1曲。<アベノマスク、大坂なおみのマスク、でも「早く外したいよね」と言ったら、誰もがうなづく>というラインは、今年いちばん印象に残ったライン。コロナ禍のアンセム。
4.Arlo Parks / Caroline
黒人女性シンガーというだけでR&B/soul的な歌唱をイメージしてしまうのは偏見でしかないのだ、と気づかされた1曲。ギターを弾き語る佇まいはシンガーソングライター的であり、インディーポップ的な音像は、出自に囚われない彼女のようなアーティストが世に出始めているのだという、なんというか未来の兆しのようなものを感じさせてもくれる。やわらかい響きで、アルバムまるごとホームリスニングにぴったりです。
5.NOT WONK / spirit in the sun
動画が公式でないのが残念ですが…。苫小牧のパンクバンドの最新作より。既に「パンクバンド」という言葉で括れる像には収まらなくなっていると感じてましたが、改めてその念を強くする1曲でした。ループせずにずっと展開し続け、さらに各テーマがどれも耳に残るものになっていて驚かされます。ギターのカッコよさにとにかく痺れますが、4:00あたりからのアコースティックギターと手拍子、静かなコーラスが繰り返されるパートがいちばん好き。
6.Cassandra Jenkins / Hard Drive
ニューヨークのシンガーソングライター、Cassandra Jenkinsが今年1月にリリースしたアルバムから。語りかけるようボーカルに、幾重に重なる音が心地よい。ヘッドホンをかけて、目を瞑って聴きたい音楽。静かな導入部から、前半はやさしく音に包まれる癒しを感じるものの、後半に進むにつれて音もボーカルも力強く熱を帯びていきます。それは、友人の死がこのアルバムをつくるきっかけになったという、作者の心持の推移とも重なっているのかも、と思ったり。
7.High Pulp / Motel Money feat.黒田卓也
シアトルのジャズ/ファンク/フュージョンバンド High Pulpによる、トランぺッター黒田卓也をフィーチャーした1曲。基本的に黒田卓也関連作品はいつもかなり高い確率でヒットするのですが、これも例に漏れず。中盤のトランペットソロも文句なく最高!というものなのですが、全編を通してずっとドラムに耳をもっていかれます。
8.Robert Glasper / Shine feat.D Smoke & Tiffany Gouche
来年リリース予定のアルバム『Black Radio 3』からの先行配信という位置づけの曲。グラスパーはバッキングに徹していて、D SmokeのラップとTiffany Goucheの歌がフィーチャーされています。Rythm+Flowを観て以降、すっかりD Smokeファンになったわけですが、改めて良い声に痺れます。グラスパーも認める才能、といったところでしょうか。しかし、今年はやさしい音像の曲に心惹かれたなぁ。「輝くことを忘れないで」というコーラスの歌詞も、なんだか勇気づけられます。
9.Tyler,The Creator / WUSYANAME
Little Simzの作品と同様、批評的にも高評価ばかりだったアルバム『CALL ME IF YOU GET LOST』より。90年代のR&Bグループ、H-Townの曲をサンプリングしたレトロなトラックが心地よいのだけど、短くてあっという間に終わってしまうので何度も繰り返し聴いてました。Tylerの作品はあまりハマったことがなかったのですが、これは肌に合う感じ。コーラスで「君の名前は何て言うの?」と尋ねるラインがなんかかわいいです。
10.DYGL / Half of Me
ロックバンド、DYGLの最新作より。00年代のロックンロール・リバイバル以降のUS/UKバンドに強く影響を受けた曲のイメージが強かったですが、このアルバム、この曲はそういった印象から離れてとにかくポップです。音像も若干チープな感じ。個人的には前身バンドであるYkiki Beatの方が好きだったので、今作の路線は大歓迎。はじめてしっかりDYGLを聴いた気がする。中高生にもウケそう。というか、ウケてほしい。また、ことロックバンドについては、英語詞のバンドの方が歌っている内容に共感できるな…、と感じることが最近多いです。
さて、11位以下はさっくりと。
11.slowthai / feel away feat.James Blake,Mount Kimbie
個人的なことを歌うことが社会的なことを表現することにつながる。slowthaiの今作はそういう側面を強く感じるものだと思う。というか、そういう作品多いですよね。2021は内省的な作品が多い気がする。MVが不気味。トラックが好き。
12.Jazmine Sullivan / Girl Like Me feat. H.E.R.
H.E.R.との歌唱の掛け合いが最高です。バッキングはこの上なくシンプルなのですが、それでここまで聴かせるのは本当にすごい。遅れて知ったので、もう少し聴きこみたいアルバムでもある。
13.GRAPEVINE / ねずみ浄土
GRAPEVINEファンとして唸った1曲。ディアンジェロっぽさを感じました。脱帽。いつまでも進化できる。
14.Julien Baker / Faith Healer
弾き語りのイメージが強かったけれど、今作では力強いバンドのサウンドが聴ける。インディーのアーティストとがこれまでよりもポップに振った時の作品が好きなのですが、これはまさにそういうやつ。
15.諭吉佳作/men / ムーヴ
とんでもない才能を感じる諭吉佳作/menの1stより。鋭い言語感覚とリズム、歌唱まですべてに驚かされました。歌詞の内容はよく聴くと音ゲーのことのようですが、そのテーマでここまで書けるか…。
16.Park Hye Jin & Nosaj Thing / CLOUDS
気怠いラップが癖になりますね。くぐもった感じのトラックとベースラインもよい。K-POP以外でも韓国のアーティストは本当に面白い人が多い。
17.Hiatus Kaiyote / Chivalry Is Not Dead
以前は「ネオソウル(ギター)」的な文脈で聴けて、もちろん今作にもそういう曲はあるけれど、全体的にもっとカオスな感じに仕上がってます。この曲は特に。
18.折坂悠太 / 爆発
アルバムの完成度がめちゃくちゃ高かった。折坂悠太、二作続けてすごいの出しましたね。冒頭の1曲は演奏も歌もダイナミックで引き込まれます。
19.The Weather Station / Tried to Tell You
インディーフォーク / インディーロックが好きならばみんな好きだろう、と思ってしまうような曲です。こういうのを日々聴いていたい。
20.Big Red Machine / Phoenix feat.Fleet Foxes & Anaïs Mitchell
スーパーグループに豪華なゲストも加わり、ちょっとずるい感じもするこの曲。アルバムにはテイラー・スウィフトも参加。アーロン・デスナー周辺の近作は本当によい。
21.ゆうらん船 / Bridge
最近の日本のバンドでいちばん好きかも。こちらは12月リリースのシングル。ライブもめちゃくちゃいいです。
22.Big Thief / Little Things
今年は本当にインディーフォークの良作が多いですね。Big ThiefのEPより、ずーっと同じコード進行でも飽きずに聴かせる1曲。
23.Pino Palladino + Blake Mills / Chris Dave
録音がすごい。これがブレイク・ミルズの技なのか。楽器の重なりもとにかくおもしろい。ピノ、もう大御所なのにこんな革新的な作品出せるんですね…。
24.Puma Blue / Opiate
ロンドンの俊英Puma Blueの最新作より、映像も美しい1曲。ベールにくるまれたような音像で、夜に聴きたいです。
25.Samia / Show Up
ヴァース、コーラス、すべてがフックな感じが良いですね。メロディがツボをついてくる。数多の女性SSWが大活躍してますが、もっと目立ってもいいように思います、Samia。
26.KM / Filter feat.JJJ & Campanella
KM、他のアーティストでの仕事がめちゃよいと思ってましたが、自作も最高でした。Campanellaの、ヨレずにリズムにバシッと言葉をはめるMumy-Dばりのラップもかっこいい。
27.環ROY / Protect You (KENSINGTON AND HAUS Remix)
昨年リリースされた環ROYのアルバム、『Anyways』収録曲のリミックス。ダブにしてもこんなにハマるかと。原曲より好み。KENSINGTON AND HAUSによる他曲のダブミックスも聴いてみたい。
28.Dave / System feat.WizKid
意味を解しながら聴きたい作品。でも、それを置いて踊れる感じもよいです。slowthaiが偽悪的な感じだとすれば、こちらはまっすぐで熱を感じるラッパー。
29.TENDOUJI / I don't need another life
誤解を恐れずに言えば特になんてことのない曲なのですが、このなんてことないのないポップな曲に乗る、地に足の着いた感じの前向きな歌詞に勇気づけられました。MVも日常の風景。
30.スカートとPUNPEE / ODDTAXI
今年はアニメ「ODDTAXI」にドはまりしたのですが、このオープニング曲によるところもかなりあったと思う。年末に公開されたファーストテイクも何度も観てしまった。
以上、Spotifyならまとめて聴けます。
◆その他のよかったもの
1.若林恵『週刊だえん問答第2集 はりぼて王国年代記』
元WIRED編集長、若林恵のニュースコラム集。1篇ずつわくわくしながら読みました。内容はもちろん、各コラムのタイトルもすべてフックがあって興味をそそられます。
2.NPR Tiny Desk(Home)Concert
Youtubeで最も観たのはNPRのこのシリーズ。日本のラジオとかでもこういう企画をやってほしい…。
3.大和田俊之『アメリカ音楽の新しい地図』
2010年代以降のアメリカ音楽の現在地、過去から連なる文脈を知るのに最適な1冊。年末に良い本が出た。
4.ODD TAXI
アニメはODD TAXIにめちゃくちゃハマった。本編に加え、Youtubeの音声ドラマまで全部追っかけました。実写でもいけそうなミステリーだなと思いながら観て、ラストで「これはアニメじゃなきゃ描けなった…!」と気づかされるという。
5.ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから
これは2020年の作品ですが。アメリカのティーンムービーが好きなので、例に漏れず楽しめました。このジャンルで主人公がアジア系というのは初めて見ました。今っぽい!
6.シン・エヴァンゲリオン 劇場版
これはもう言うまでもないかな…。感動の完結。
7.超相対性理論(ポッドキャスト)
コテンラジオによって深井さんファンになったため、関連ポッドキャストもいろいろと聞きました。その中でも特に好きなのはこちら。Takramの渡邉さんのポッドキャストもよく聞くので、安心のクオリティ。一見小難しそうな話をめちゃくちゃ楽しそうにするのがよいです。
8.アメリカン・ユートピア
映画館で観てこそというこちら、本当は爆音上映で観たかった…。コンサート・フィルムの金字塔。
上げだすときりがなくなるので、以上。
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