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2018年の10曲+α

2018年も素晴らしい音楽が山ほど、本当に山ほどあった。Spotifyをはじめとするストリーミング・サービスによって、無限とも言えるライブラリーに気軽にアクセスできるようになったものの、同時にその膨大さゆえ、知ってはいても聴けていないものが多数目に付くようになった。

当たり前だが、一人で全ての作品に触れるのは不可能だ。すべての音楽の魅力を感じられるわけでもない。だからこそ、たくさんの人やメディアが選ぶ「今年はこれがよかった!」という作品を知りたいと思うし、何よりそういう話が好きである。

そんな話のきっかけとして、まずは自分にとっての「今年はこれがよかった!」という曲を、ランキング形式で10位から並べてみたいと思う。音楽好きのみなさんの好きな曲も、何かの折に教えてもらえたら嬉しい。


10. Tom misch「Water Baby(feat.Loyle Carner) 」

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サウス・ロンドンを拠点に活動する23歳の若きプロデューサー/シンガーソングライター、トム・ミッシュのデビュー・アルバムから、盟友ロイル・カーナーを迎えた1曲。シンプルなビートに乗って繰り返されるテーマは、ギター、ホーン、コーラスと、少しずつその姿を変えながら進んでいく。最後までメロウな空気は一貫しているものの、トラックに緩急をつけるセンスは抜群で、その上でトムの甘い声とロイルの重心の低いラップがとてもよく映えている。お得意の流麗なギターは鳴りを潜めているが、それでもトム・ミッシュらしさを感じることができる上品な佳作。今年のサマーソニック、ビーチ・ステージへの出演は、今年最も待望したライブのひとつだったが、フリーセッションばりにギターを弾きまくるトムには驚かされた。本当に多彩な、これからが楽しみな人。


9. iri「Corner」

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神奈川県逗子市在住のシンガーソングライターによる2作目、『Juice』のリードトラック。そのルックスとは裏腹に、スモーキーな声とリズムよく韻を踏んだHipHop的な歌唱がiriの持ち味だ。ブラックミュージックからの影響を感じる彼女の歌はデビュー前から高く評価され、NIKEやAppleといった大企業のキャンペーンソングにも抜擢されてきた。今作には複数のプロデューサー/トラックメイカーと共につくり上げた曲が並ぶが、「Corner」でタッグを組んだのは、今年ソロデビューを果たし、宇多田ヒカルがその才能を絶賛したことでも話題となったOBKR(小袋成彬)。打ち込みと生演奏が自然と混ざり合うようなトラックの中、ベースがボーカルの抑揚に寄り添うことで、クールな中にも熱を帯びた、力強さを感じさせる楽曲展開を演出している。


8. Tove Styrke「Mistakes」

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今年、クリーン・バンディットのようなポップアクトの客演でその名前を見ることも多かったトーブ・スティルケの3作目から。北欧スウェーデン出身で、オーディション番組『スウェディッシュ・アイドル』からキャリアをスタートさせた彼女は、今作に並ぶ多彩なトラックを自由に乗りこなすボーカルで、エレクトロ・ポップ・シンガーとしての実力の高さを示している。「Mistakes」は、チープなシンセとスネアが強調された軽快なビートを軸に作られたトラックと、トーブの脚韻を踏んだ歌い回しが小気味よい、北欧らしいエレポップ。時にシンセと溶け合うようなボーカルは、とても中毒性がある。


7. 羊文学「1999」

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ボーカル/ギターの塩塚モエカを中心とするスリー・ピースの配信限定シングル。羊文学が他の多くの「邦ロックバンド」と異なる個性を確立しているのは、その音像と、少ない音の響きを活かしたアレンジによるところが大きいと思う。歪んだシングル・コイルを軸にした非常に簡素なアンサンブルは、エフェクトによる揺らぎや「ぼくはどうしたらいい?」という歌詞とも相まって、聴き手をどこか不安にさせる。しかし、ブレイク後、徐々に手数を増やすドラムとベースによって曲の推進力がグッと増し、「夜が明ける頃迎えに行くよ」という最終行に向けて力強く突き進んでいく様には、堂々たるロックバンドのダイナミズムが宿っている。バンドの音楽ばかり聴いていた10代の自分は、きっとこの曲を何度もリピートするはず。10代に響く曲というものには、今でもどこか惹かれてしまう。


6. Saba「Stay Right Here (feat.Mick Jenkins and Xavier Omär)」

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チャンス・ザ・ラッパーやノーネームら、シカゴの新世代アーティストと交流の深いラッパー/プロデューサー、Sabaが11月に発表したシングル曲。今年リリースしたアルバム『CARE FOR ME』の中にも、シリアスなテーマを歌いながら、聴き手を包み込むようなあたたかなフィーリングを持った曲があったが、この「Stay Right Here」もまさにそうした空気を纏った曲である。全てのリリックの意味を理解することはできないし、私の解釈は間違っているかもしれないが、何といっても胸に響くのは、コーラス(サビ)部においてSabaが繰り返す「Look at all the love around me」という一節だ。『CARE FOR ME』は、シカゴの街で何者かに殺害された従兄との思い出が滲んだ作品であり、タイトル通り、それはSabaが自分自身をケアするための音楽だったのだと思う。「Stay Right Here」において、彼は自らが置かれた厳しい境遇を乗り越えて、自分の周囲にある愛と希望に目を向けている。シカゴの仲間と共に、悲しみを超えて愛を歌うsabaの姿は感動的ですらある。


5. ROTH BART BARON「HEX(Chicago Mix)」

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ROTH BART BARONの3rdアルバム『HEX』は、間違いなく彼らの最高傑作だ。今年リリースされた数多くの作品の中でも、最も良い作品のひとつだと思う。本作に収録されたタイトル曲「Hex(Chicago Mix)」は、ボーカル三船の荘厳な空気を湛えたハイトーンが、豊かな低音と、生のドラムとエフェクト処理されたドラムが混ざり合うオケに支えられながら魅惑的に響く1曲。シングルバーションでは遠くで鳴っていたピアノが前面に押し出され、ゆったりとした曲に鋭い緊張感を与えている。バスドラムからもエフェクトが薄れ、生演奏の手触りに近づいたこのバージョンの方が、彼らの持ち味を最大限生かしているように思う。ライブを観ればすぐにわかるが、彼らは非常に身体性の高いバンドである。ここから彼らのさらなる快進撃が始まることを期待せずにはいられない、名盤であり名曲。


4. Chris Dave And The Drumhedz「Black Hole (feat.Anderson .Paak)」

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ロバート・グラスパーをはじめとする新世代ジャズのリズムを担い、アデルのようなポップ・スターとも共演するドラマー、クリス・デイブのリーダー作から、ラッパー/ドラマーのアンダーソン・パークと共作した1曲。ピノ・パラディーノら豪華なバンドメンバーと演奏するファンクナンバーに乗る、アンダーソン・パークのリズム感抜群のラップが最高にクールだ。反復するフレーズは徐々に熱を帯び、すべての音が混然一体となってグルーブを生んでいる。ドラマーの曲らしくリズムのアプローチは凝っているのだが、派手なインタープレイは存在しない。注目すべきは、クリスが用いる特殊なセットから繰り出される多彩な音色と、上物的なドラムの響きだろう。ドラムが曲を支えるのではなく、曲をつくり、他の楽器に負けず彩(いろどり)を添えている。


3. Tempalay「どうしよう」

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シンガーソングライター/トラックメイカーのAAAMYYY(エイミー)を正式メンバーに迎え、新体制となったTempalay新作のリード曲。彼らの持ち味であるサイケデリックな曲調はそのままに、海外のHiphopのごとく低域が強化され、カバーする音域が格段に広がっている。「どうしよう」においては、引きずるようなリズムと重低音のベースの上で、ふわふわとしたボーカルが自在に漂っている。トレンドに目くばせしつつも自分たちらしさを失わず、むしろ際立たせることに成功したこの曲は、彼らの新たな代表曲だ。今年、アジア人アーティストではじめて全米チャート1位を獲得したBTS(防弾少年団)にTwitterでフックアップされたというのも、新生Tempalayの実力を示すエピソードだと思う。余談だが、8曲入り(オープニングトラックを含んでおり、実質7曲)というアルバムの尺は、カニエ・ウェストの「ye」(7曲入り)を意識したものなのかと勘繰ってしまう。


2. Meshell Ndegeocello「Tender Love」

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90年代前半から名を馳せる女性ベーシスト/シンガーソングライター、ミシェル・ンデゲオチェロが今年発表したカバー集から。「Tender Love」はアメリカのボーカル・グループ、Force MDsが1985年に発表したヒット曲。原曲は煌びやかな80年代AORサウンドだが、ミシェルはこれをアコースティックギターによる弾き語りを軸に、ミニマルなバラッドとして再構築している。すべての楽器が狭い空間で鳴っているような、密室的な雰囲気のある録音も相まって、ボーカルは聴き手の近くで囁いているようである。元々の尺から1分以上を削った2分41秒の小品は、ミシェルのスモーキーかつ優しげな声の魅力が堪能できる傑作となった。「わたし」から「あなた」に愛を伝える(求める)この曲のメッセージの表現としては、こちらのバージョンの方がぴったりだと思うが、どうだろう。


1. STUTS「Changes(feat.JJJ)」

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今年は星野源「IDEA」への参加とMV出演でも話題となったトラックメイカー/MPC奏者の2作目より、ラップにJJJを迎えた1曲。前作にはPUNPEEをフィーチャーした「夜を使い果たして feat.PUNPEE」というアンセムがあったが、「Changes feat.JJJ」は今作においてその位置を占める曲だ。ピアノを生かしたトラックは少し感傷的で、JJJのラップも彼自身の曲よりグッとエモーショナルである。具体と抽象、交差するリアルな描写と詩的な表現が描き出すのは、現在の悲しみを抱きしめながらも、それに捕らわれずに未来へ進もうとする意志だ。どことなくSabaの「Stay Right Here」にも繋がるテーマだと勝手に思っているのだが、どうもそういう曲に惹かれてしまう。メッセージもさることながら、何よりSTUTSのトラックメイクとJJJの言葉選びが素晴らしい。これからの日本のポップ・ミュージックにおいて、一層重要な役割を担うようになるであろう二人が組んだ、2018年の最高傑作だと思う。


次点①. 中村佳穂「そのいのち」

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11月にリリースされた中村佳穂の2ndから。この曲を聴いたのは12月に入ってからで、一聴して耳を奪われ、そこから何度リピートしたかわからない。アルバム全体としては非常に多様かつ現代的、クロスオーヴァーな音楽が並んでいるのだが、「そのいのち」はシンプルなリズムと叩くようなピアノに乗せて、中村がエモーショナルに響かせる、渾身の「歌」である。中村の母は奄美の出身であるというが、そういったルーツとも繋がるのか、言葉や節回しにどこかフォークロアな雰囲気を感じさせる。最初から最後まで力強い声で歌われる、生命の、人生の賛歌。はっきりとした意味は分からないが、私はそう受け取ったし、勇気をもらった。


次点②. Superorganism「Everybody Wants To Be Famous」

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2018年、最も話題をさらった8人組多国籍グループの記念すべきデビュー・アルバムから。8人のルーツはイギリス、オーストラリア、ニュージーランド、日本、韓国とバラバラで、楽器ではなく映像制作を担当するメンバーがいるなど、既存の「バンド」のイメージとは大きく異なり、「クリエイター集団」という方が彼らを現す言葉としては適切なように思う。とはいえ、これほど大きなバズが起きたのも、彼らの音楽そのものに大きな魅力と個性があればこそである。ギュワーンと変調されるギターは強い記名性を持ち、オロノの脱力したヘタウマボーカルはとても癖になる。「Everybody Wants To Be Famous」は、ゆるくポップな楽曲とメロディセンスも相まって、多くの人にアプローチする曲となった。ところで、肩の力が抜けた雰囲気の彼らの楽曲だが、ライブでは意外にもえげつないほど重低音が鳴り響き、フィジカルな音楽に変貌する。今年のフジロック、レッドマーキーを埋めた観客は(私も含め)そのエネルギーに狂喜乱舞していた。


【Spotifyプレイリスト】

https://open.spotify.com/user/22hrdlafc3ny6b75xhe4xzqui/playlist/045GfKbzchxUw9A1clipjk?si=oDzMJpV8SO6tfQQtyS1aTg

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