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【産学連携と技術移転の話】発明の質と営業

 今回は、技術移転目線での発明の分類とそれに基づく営業方針について思った切り口を雑文にて。

 まず、技術移転の基本形とされる『研究者から発明が生まれる→それを営業しに行く』という業務フローを考えたときに、その発明を、発明が生まれた際の「事業化までの計画の明確さ」と「技術の注目度」の2軸で切ってみる。

①導出計画が不明確 × 技術の注目度は高い

 技術移転担当者冥利に尽きる発明。発明者としては明確にどこの企業といつまでに何を作る、といったところまで検討出来ていないが、明らかに性能がいい技術である場合。強気に営業をかけ、新規に産学連携のプロジェクトを技術移転担当者が作り上げることが出来る。まだ大御所でないが研究力の高い先生というケースが多く、いずれはキラキラ先生になっていく。キラキラ先生に近づけば近づくほど、有力企業やその他サポート的な人員が周りに増えていくが、技術移転担当者はこういった先生といち早く交流機会を持てるため、その先生の右腕となるくらいの勢いで臨みたい。
 逆に、こういった発明の営業に力を割かなかったり、結果を出せなかった場合、発明者自身が産学連携に興味を失い、「The・研究者」となっていったり(決して悪いこととは思わない)、そうでなくても技術移転担当に対する期待が無くなり、次からは任せてもらえなくなるパターンが想定される。


②導出計画が明確 × 技術の注目度は低い

 発明者がビジョナリーのケースや、VB設立を検討しているケース。この場合に技術移転担当者に必要になるのは場数的な営業力よりも、広報力。技術の注目度を高めてキラキラ技術にしていくのが理想の勝ちパターン。
 また、周りからは注目されていないにもかかわらず、導出計画を明確に持っている発明者というのは、いい意味で変人だがビジネス的なアンテナも持ち合わせているということでもあるため、大事にしたい。発明者のビジョンに共鳴してくれる企業担当者がいると、結構なスピード感で進んだりするため、技術自体を宣伝するよりも発明者の人となりやそのビジョンを打ち出して営業していくのがよいか。


③導出計画が明確 × 技術の注目度も高い

 いわゆるキラキラな技術。こういった技術は最初から有力企業が付いていて、技術移転担当者が特になにも考えなくても技術移転に至る。技術移転担当者の関わりどころは主に「その発明になるべく高値をつけること」。こういった発明の場合、発明が生まれた段階になってから技術移転担当者が「この技術は素晴らしいから値段は高いですよ」なんてノコノコと出て行けば、その発明を生んだプロジェクトの参画者から(技術移転先の企業はもちろん、大学の発明者からも)敵視されること必至。このため、最初からプロジェクト自体に首を突っ込んで、友好関係を築いておくことが大切。発明の価格設定や交渉力が問われる。


④導出計画が不明確 × 技術の注目度が低い

 あまり技術移転の成功が期待できない発明。ただし、発明を出してくれたことには敬意を払うべき。そもそも発明がなければ技術移転は成立しない。決して上から目線で評論などしないように。それに、そもそも技術移転担当者は基本的にどの産業分野のプロでもないのだから、市場に行って売ってみないと分からないではないか。幸い、こういった技術は技術内容的には分かりやすいもの(簡単な構造の工夫やプログラム等)が多いため、大学であるという強みを生かして企業担当者を捕まえ、意見をもらおう。この意見をしっかりとまとめて発明者にフィードバックするだけでも、ひとつの価値であり、信頼につながる。
 とはいえ、売れないものは売れないのも事実。一つの卑近な方法としては、早期に特許審査請求をかけてしまうことが思い当たる。こういう発明はそもそも特許性がないパターンもあるので、早めに結果を得ることで無駄に活動時間を引き延ばすことを防げる。発明者としても、3年後の忘れた頃に審査結果が来るよりも、出願後すぐに結果が得られた方が、「ああ、こういう発明ではダメなんだ」と感じてもらいやすいのではないか。


導出計画の明確さと技術の注目度には相関があるのでは?

 言わばあたりまえ。技術の注目度が高ければ、その周りに集まる人も増えるため、導出計画を考え、これら周辺の人も含めた共通認識として明確にしやすくなる。
 さて、そうやって検討した2つの軸が1軸に吸収されていくと、技術移転の基本形とされる『研究者から発明が生まれる→それを営業しに行く』などというパターンがそもそも無くなっていくことに気づく(売れない発明と、営業不要なキラキラ発明に二極化)。
 そうなると、技術移転担当者が営業をするケースは「売れない発明」についてのみになるという矛盾が生じ、だとするとその目的は上述の通り、その技術を売ることではなく、マーケット情報を集めること(さらにその目的は発明者へのフィードバックという一点)になるのではないだろうか。
 実際に、「基本形」に尽力して成功した例がいくつあるのか思い出してみてほしいし、全技術移転担当者に聞いてみたいもの。技術移転担当者として結果を出している人は、この基本形からは離れて行っているようにお見受けする。この基本形は分かりやすいフレームワークだし、努力量が目に見えやすいので当人もその上司も心地いいものだろうが、基本形と位置付けることに甚だ疑問がある。つまり、この基本形を習得することが、将来技術移転担当として成功していくことに役に立つのだろうかという大きな疑問。まあ、寿司を握るための修行が掃除から始まるというのと近いのだろうか(ごめんなさい、寿司の修行全然知らず適当なこと言っています。)。
 いずれにしても、技術移転のための営業、というのはその目的を思考停止して「発明を売るため」とするのは危険だと思うし、そういった観点からも大学技術移転協議会UNITTには是非この点、再考頂きたいと思う次第。


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