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ニューヨークで出会った、最初で最高の友達

彼とは、僕がニューヨークに移動して、大学生活がスタートした最初の週に出会いました。

金曜日夕方5時。
社会学の授業で、20人ほどの教室に生徒が集まりはじめて顔合わせ。

授業がはじまって5分後。
ひとり男の子が遅刻してきました。彼が僕の横を通り真後ろの席に座ろうとしたとき、耳に安全ピンのような形をした、クセが強すぎるピアスをしていることに気がつきました。すかさず、「そのピアス、めっちゃイケてるじゃん!」と声をかけました。この彼が、僕がニューヨークで出会った、最初で最高の友達です。

彼は同じ大学の芸術学部で写真科を専攻しているフォトグラファー。韓国出身で、英語を第二外国語とする人が英語圏で大学生活を送る難しさも共有できる友達でした。

2週間後の昼下がり。
彼にランチに行こうと誘いました。公園で待ち合わせると、彼はタバコを吸いながら片手に大きなカメラケースを持って立っていました。近くに好きなラーメン屋があると教えてくれて、ふたりで「世田谷」という名前のラーメン屋に行きました。

彼はモノクロ写真を好んで撮る写真家でした。ラーメンをすすりながら、どうしてよくモノクロで写真を撮るの?と聞くと、「色があると気が散るときがあるんだよねぇ。」と教えてくれました。なんてかっこいいのだろうか。

3月になりました。
日本の方から、リモートで取材を受け、Web記事になることが決まりました。記事で使う写真が必要と言われ、彼に写真を撮ってもらえないか、勇気を出してお願いすると快諾してくれました。

撮影の日。
撮影スタジオで数枚、街中で数枚写真を撮りました。

撮影が終わり、彼からもらった写真のデータをみて驚きました。彼が捉えた、誇張のない、まったく自然な自分が写っていました。

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大学生活がスタートした最初の週の金曜日に、彼とはじめて会ったとき、僕が声をかけたのには理由がありました。

その週の、月曜日朝8時。
人生初の大学の授業。4人がけテーブルが6つある教室で、空いていた席に座りました。隣の席の人は、僕と同じ専攻(Major)でした。11時から、同じ専攻のひとだけが集まる授業があったので、彼女と僕は、次の11時からの授業も一緒に受けると知っていました。

授業終わり。
次の場所がわからず、彼女に「一緒に移動しない?」と声をかけると、彼女は僕を無視して教室の反対側へ歩いていきました。歩いていった先には、彼女と同じバックグラウンドを持つラテンアメリカ人の生徒がいました。

月曜日11時。
同じ専攻のひとと顔合わせ。8時からの授業で隣に座っていた彼女もいました。授業中に仲良しグループが生成されるのを見て、同じバックグラウンドを持つ生徒同士は仲良くなりやすいのではと気がつきました。大学で日本人は見かけたことがありません。最初は、クラスメイトと自然に友達になれるものだと思っていましたが、どうやら違うのかもしれない。周りの生徒と異なるバックグラウンドを持つというだけで、友達をつくるのも難しい環境に苦しい想いをしました。

でも、、、
日本でたくさんの友達に背中を押してもらって到着したニューヨーク。しょげている場合じゃないと、考え方を変え、自分から声をかけていこうと決めました。そして、その5日後に、安全ピンのようなピアスを耳につけ、授業に遅刻してきた彼にはじめて出会うことになりました。

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高校を卒業してから、自分の思い描く理想が身の丈に合わないがゆえに、自分の無力さに苦しんだり、自分は何者なのかを問い詰めることがよくあります。それでも、険しい自問自答の道を歩くといつも、ふとしたことがきっかけで偶然の出会いに恵まれる自分は幸せなのだと思います。人との出会いが、この世は生きるに値するのだということを、いつも思い出させてくれるのです。

彼が撮ってくれた写真には、他人に見てほしい理想の自分ではなく、新しい環境に悩みながらも不器用に前に進もうとする素の自分が写っていた気がしました。(おわり)


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