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タイムレスサウンドの故郷BEARSVILLEへの旅路

以前
ある時期労働していたレコード屋さんで書かせてもらったコラムの下書きをG〇〇LE DRIVE整理中に発見したので…放流させて下さい。

(…そして、
フィジカルの書類も整理していて気付きましたが…
未だ社員証を返却していませんでした…
これから以下の駄文を
お読みになっていただく元同僚並びに上司諸氏
各位
この私の怠惰具合…
お許しいただけますと幸いです。
早めにご返却致します。)

以下、コラムの下書き(加筆済みの…)です。
↓  ↓  
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このコラムを読んでいただくみなさまの中には
既にご存知の方も多数いるかと思うが…
どうかこのnoteでは私と一緒に
タイムレスサウンドの故郷
"BEARSVILLE"への旅路にお付き合い願いたい。

BEARSVILLE RECORDSとは
NYC郊外のウッドストックを拠点としたレーベル兼レコーディングスタジオである。

今回はここにあなたと一緒に行きたいのだが、
残念ながら2006年に彼の地からは失われてしまった。

それならば
先人たちの記録を
いつでも辿ることのできるタイムマシンという名のターンテーブルのダイアルを"1967"に合わせてウッドストックへ向かおう。

「あゝ
ウッドストックの木々の間から
原っぱでオートバイに跨って遊ぶボブ・ディランやフットボールに興じるザ・バンドのメンバー達が見えてきた。」

当時のウッドストックは、
このように彼らが住み着いたのをきっかけとして
ミュージシャンたちで形成された一種の音楽村であった(1)。
当時のウッドストックの雰囲気を東京に見立てて想像するならば…
小熊秀雄や長谷川利行らをはじめ詩人や画家たちが多く集っていた武蔵野の面影のわずかに残る1930年代の椎名町周辺といったところであろうか(2)。

さて
ここにBEARSVILLEという地名をそのまま冠したレーベルの立ち上げとスタジオ建設にやってきたのが…

そう

ニューポート・フォーク・フェスティバルの立ち上げやピーター・ポール&マリーのマネジメントを足がかりとして
ボブ・ディランやジャニス・ジョプリンetc
錚々たるミュージシャンたちの名マネージャーにしてアメリカ音楽史に燦然とのその名を刻む
「アルバート・グロスマン」その人である。
(N◯K「その時歴史が動いた」風に笑)

【…ちなみに
私が洋楽で最も影響を受けたアルバムのひとつである「THE BAND」のファースト・アルバム「MUSIC FROM BIG PINK ("サイケ"隆盛極まるあの1968年リリース‼︎)」や、その他「BOB DYLAN & THE BAND / BASEMENT TAPES」が制作され世に出て日の目を見たのは、この時アルバートがウッドストックに来ていたことが極めて重要な事柄なのである。(3)】

アルバートのことまで追い始めると文字数が大幅に超えてしまうので割愛するが…

BEARSVILLEの作品と私が出会った時の話も少し聞いてほしい。

私がはじめてBEARSVILLEの作品に接したのは
何年も前の年明けに聴いた「BOBBY CHARLES / SAME TITLE」だった。

針を盤に落とした一曲目のその瞬間から
まるで木洩れ日を浴びたウッドストックの木々の葉脈を伝って、ひと雫落ちてきたような瑞々しい音像と伸びやかに歌うボビーや美しく編み込んだ音色を奏でるミュージシャンたちの演奏に夢中になった。

特にSIDE Aの
3曲目"I Must Be In A Good Place Now"は、
その歌詞と相まって録音した瞬間の
"幸せな空気"
そのままを写しとったような音像に心奪われて、私自身の居場所ごと彩られて夢見心地だったことを今でも鮮明に思い出すことができる。

話を戻すが
勿論この作品だけではなく、
ここにあげ始めるとキリがないが
他にもTHE ISLEY BROTHERS、
HUNGRY CHUCKやTHE BAND / Cahoots、TODD RUNDGREN(彼はこのレーベルのプロデューサー兼エンジニアでもあった(4)など名作の数々が生み出されたレーベルでありスタジオだ。

私は、BEARSVILLE特有のこのタイムレスで
しかしはじめて聴いてもどこか懐かしく暖かみを感じさせるサウンドの秘密をいつも不思議に思っていた。

私の長話しはこれまでにして…

「ほら、
あのBスタジオの防音扉の硝子の向こうを見てっ‼︎」

プロデューサーであるマイケル・カスクーナが
コントロール・ルームからスタジオのマイク前で準備をしているボニー・レイットらに録音開始の合図を出してエイモス・ギャレットはトロンボーンを手にし、エンジニアのケンドル・カシオスはフェーダーを操作しながら
「Give It Up」その一曲目が今まさに吹き込まれているBスタジオの機材を目を凝らし
よ〜く眺めてみると…

どうやらこの当時では最新鋭のクォードエイトのコンソールが入っているようだ(5) 。

この録音風景を目の当たりにすると
滋味深い演奏と歌の結晶の数々は言うまでもなくミュージシャン達に依るところではあるが、
森の中にある古ぼけたログハウスのような
外観からは想像もできない最新鋭のコンソールと、演奏しているその場の空気を適度な温度感でテープに収める高い技術を持ったエンジニアやプロデューサー、そしてマネージャーたちの"仕事"すべてが見事に溶けあったからこそ、
"ここ"で数々の名作が生み出されたことに改めて気づかされる。

ずっとここに留まっていたいほど名残惜しいが…
タイムマシンの"針"も削られ燃料が尽きそうなので2023年現在に戻ることにしよう。

今では
彼の地からも失われてしまった
愛しのBEARSVILLE。

だが、
そこで生み出された豊穣な名作の数々は
真のタイムレス・サウンドであり
音楽史に今なお燦然としている。

これら名作を聴いたあなたの耳元に、
その空気の振動が伝わったとき

あなたが立つ

そこには

その音が録られた瞬間のBEARSVILLEが
いつでも甦り色づいているだろう。

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さてさて
この駄文を…
ご清聴
もとい
ご清読していただきありがとうございやした。

みんな
んな、またね

参考文献:
 (1) LEVON HELM. 補筆:STEPHEN DAVIS. 訳: 菅野 彰子(1998) .「ザ・バンド 軌跡」. 音楽之友社.
 (2) IKE-CIRCLE(2022). 「池袋モンパルナスとよばれたまち」. 豊島区役所HP.
https://www.city.toshima.lg.jp/ike-circle/culture/spot/montparnasse.html ,
(参照:2022-6-23)
 (3) JORDAN RUNTAGH. (2018).「The Band’s ‘Music From Big Pink’: 10 Things You Didn’t Know」. rollingstoneHP.
https://www.rollingstone.com/feature/the-bands-music-from-big-pink-10-things-you-didnt-know-666161/amp/ ,
(参照:2023-7-6)
 (4) ROBBIE ROBERTSON. 訳:奥田祐士(2018) .「ロビー・ロバートソン自伝」.  DU BOOKS.
 (5) 高橋 健太郎(2015). 「スタジオの音が聴こえる」. DU BOOKS.

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