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[エスとの付き合い]

カラクリがわかってしまえば、怖いものはない。

エスは自分が浸かる予定の、話し相手という名のミルコ沼を自分の手で作り出してきたのだ。
立派なもんである。

私はエスという沼に心地よく浸かりながら沼から出る方法を考えた。

エスとなんら共鳴しない、確固たる私が必要である。

ホーミーだな。
何も知らない彼女にいきなり私がホーミーをきかせたら
両耳を塞いで泣き出すかもしれない。
まるで神話みたいだ。

しかし私は別にエスを泣かせたくはない。

私は沼が嫌いなのではない。
好きで浸かりたいのだ、どの沼も。
脱出するかどうかは別として、脱出方法を知っておきたいだけなのだ。

せめて彼女との最小公倍数が大きくなる素数を私から取り出そう。

私は私のリズムを刻みはじめた。
彼女のリズムは彼女のものだ。
2人は対等な立場である。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆なんのはなしですか。
ついてこれてますか?
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「一度このお店に入ってみたかったの?ミルコさんどう?」
エスが言う。

なんだか敷居の高そうな店だ。

散歩の途中に喉が渇いて
抹茶飲むのー?

でもまぁ他の人と入ることもないから行ってみるか。

「いいけど。エスが先入ってよ。扱いが良くなるから。」

こういうところに入る時、エスに先に行かせるのは最高だ。
なにしろ教養あって身のこなしも優雅なので、知らない扉がポイポイ開く。
私はといえば黙って後ろでニコニコ真似をしてれば良いのだ。

「ご予約の方ですか?」

「いえ予約はしていないのですが。」

「少々お待ち下さい。」

奥の間が用意される♡
見たかこれがエスの力だ。

メニューが届く。
エスの真似して ペコー

菓子を選ぶ。
エスは私も目を奪われたカラフルなそぼろがかかっている錦秋。

私はあれをこぼさずに黒文字だけで食べる自信はない。
栗の入ったお饅頭にしておこう。

エスが私のぶんも注文してくれる。ふふふん♬。

届いた和菓子を食べる。

なんてことだ!
栗が丸ごと入っている

お饅頭を黒文字で割ったら
栗の破片が皿に広がった。

焦った私を面白そうに眺めながら

エスはすまーした顔で
そぼろを一つもこぼさずに食べてゆく。

お前は魔女か?

私は黒文字を操り
あんこに栗の破片をくっつけて、
食べ終えた皿を美しく見えるよう苦戦した。
うまくいったと思う。

店の中ではエスは完全にお嬢様モードに入っているので、ボヤキ厳禁だ。

これでいいのか?

エス?

私はエスのおかげで
普段は行かない場所に気軽に首を突っ込める。とても楽しい。

エスも私が付き合いが良いので楽しんでいるだろう。

唯一気になるのは、私の名前の頭文字がエムであることくらいだ。

なんのはなしですか

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