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[物語]グレースと伝令者テオリア(ラーナの地より愛を込めて)

昔、ハイノンという国のラーナという街に1人の娘がいた。
名はテオリア。
娘は少し変わったところはあったが両親に愛されすくすくと育った。

そうしてテオリアは15になる頃には、ラーナの街の他の娘と同じようによく働く娘となった。

17になった時のことである。テオリアは連続して不思議な夢を見た。

枕元に立った大きな白い牡鹿が毎晩のように話しかけてくるのだ。

「テオリア。やらなくてはいけないことなどありません。好きなこと、やりたいことをするのです。」

「テオリア。偶然というものはありません。まもなくお前は知るでしょう。全てが必然なのです。」

およそそんな意味のことであった。

テオリアはこの夢を無視した。

というのも、テオリアの住むハイノンという国では勤勉の国で努力が強く奨励されていたからだ。
この国では変わった振る舞いはもちろん、こんな馬鹿げた夢を見ることも禁じられていた。

そしてとうとう7日目の夜
夢枕にたった白い牡鹿は
しびれをきらしたように言った。

「テオリア。わからないようですね。私はあるお方の使いです。
そのお方はお前に伝令の役目を授けています。
そのためにはお前は私の言いつけを守らなくてはなりません。」

テオリアは白い牡鹿に心底うんざりした。やることは毎日たくさんあるのだ。意味のわからないことを言わないで欲しい。

テオリアは失礼のないよう言った。
「牡鹿よ牡鹿。私にはできません。どうか他の方を探してください。」

牡鹿は怒ったように言い放った。

「私にできないとは何事か?あのお方ができるとお前を指名したのです。良いでしょう。好きなようにするが良い。しかしお前はやりたいことをする事で必ず役目を果たすことになります。」

そして少し冷静になって
「全ては必然なのです。」
とため息まじりに言い残すと
白い牡鹿は夜空に駆けていった。

テオリアは呆気にとられたが、
これでもううるさい牡鹿の夢を見ずに済むと安心した。

そして今までと変わらず勤勉に毎日を過ごし、牡鹿のことなど綺麗さっぱり忘れてしまった。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

それから長い時を経て
テオリアは母親となり、子ども達の世話を焼きながら、相変わらず勤勉であろうと努力していた。

ところが、である。
テオリアはある日突然
大きな声を出したくなってしまう
衝動に駆られた。そしてその想いは日に日に強くなる。

これはハイノン国ではあるまじき行為である。下手をすれば異端の烙印を押されてしまう。

まずいことになったと思った
テオリアは
牡鹿の言い残した言葉を突然思い出した。

「必ずやりたいことをやることになるだと?」
これは予言だったのだろうか?

テオリアは散々我慢したが、
日に日に強くなる声を出したい衝動を抑えきれなくなって
ついに誰にも見つからないように
夜中にこっそり歌を歌いはじめた。

ラーナの夜に不思議な音が響き渡るようになったのはこの頃である。

テオリアの口から出るのはそれは歌とはいえぬ何か音のようなものであったのだ。

こうしてテオリアは夜な夜な声を出すことで昼間は何食わぬ顔で、勤勉な母親でいることができた。

ここで、気の毒なテオリアにもう一つの衝動が襲った。

こんなことになってしまっていることを誰かに聞いて欲しい。

声を出したい衝動の時と同じようにこの想いは日に日に強くなる。

何か方法を探さなければ。
テオリアはあたりを見回した。

そこで目に留まったのが
古めかしい一冊の帳面であった。
こんなものが今まであったことに
気が付かなかった。

テオリアは藁にもすがる思いで
この帳面に日々の出来事を
書き綴った。
こんな役に立たないことを書き綴るのはテオリアの人生で初めてであったが、とにかく書くとすっきりするのだ。

ところが、この帳面には魔法がかかっている。
はじめテオリアは目を疑った。
字が浮かび上がってくるのだ。
読んでみると、どうやら他の誰かが同じように書き綴っているものが読める。

テオリアは危険を承知で
この魔法の帳面に夢中になった。
日々書き綴る。
そして他の人の独り言を読む。

そしてある日この帳面に備わる新たな特性を知るのであった。

返事が来る。

「とうとう私は気が狂ったのではないだろうか?」
夜な夜な声を出し、帳面を綴る
掟破りの毎日を繰り返していた
ことが少し怖くなってきた。

牡鹿の言い残したことも気になる。

そんなある日、テオリアは帳面に
素晴らしいメッセージを発見した。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

それはハイノン国のうんと北方にある街カドゥーホイに住む
貴婦人グレースからのものだった。
レディグレースはテオリアの歌に賛同し、歌を歌う決心をした。

テオリアは全てを察知した。
「牡鹿の言ってた通り、私は伝令の役目を成し遂げた。」

そして決意した。
これからはラーナの地から
レディグレースをお支えすることにしよう。

ちなみにレディーグレースはまだご存じない。

何故、動物に囲まれた暮らしをしているのか。
何故、ラーナの帳面を見てしまったのか。
何故、彼女の連れ合いが
演奏する者を選ぶ楽器を奏でることができるのか。

大地を震わせ、大気を操り、あらゆる偶蹄類を使役して数多の邪悪を葬り去ることになるのは本当は誰なのか。

全ては必然なのです。

その晩、テオリアはウミウシの形をしたオカリナの夢を見た。


なんのはなしですか。

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今回の物語のインスピレーション
の源になった
どの記事もとても素敵な
めぐみティコさんの
作品です🩷。
1日遅れましたが、めぐみティコさんお誕生日おめでとうございます🎉


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