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声でシャッターを破壊する💥

気まぐれにはじめた
ホーミーの練習は
気がつくと
声を使うならなんでもオッケー
になってきた。

紙コップに入れたコーヒーの粉を声でダンスさせる。

ボウルと黒いビニールで太鼓を作り
塩をばら撒く。声で塩が動きだし、模様が変わる。

大きな声で音階を下げていくと
震える背骨の場所が下がる。
おそらく私の出す音と骨が共振しているということだ。

尾てい骨まで震わせてみよう。
大きな低い声を出す練習を始めた。

そのうち、

お坊さんみたいな声が出るようになった。

どうしよう。
面白い。
私はこの声を持て余した。

歌が歌えたら
披露できるのに
歌は歌えないままだ。

高い声も出してみた。
胸、口、鼻どこでも
共鳴させることができるようになってきた。

しかし歌うとこの共鳴は
消失する。

演劇か?
歌舞伎のセリフを
読み上げてみる。

けっこういける。

私は迷走し続けていた。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

ある日の昼下がり電話が鳴った。

「今、家にいらっしゃる?見て欲しいものがあるの。家に来て。」

またか。
私が心のシャッターを下ろしているクッピーラムネのおばあちゃんである。シャッターは経年劣化で壊れかけている。

私は良識ある隣人モードのスイッチを押して
習い事の送迎時間を気にしながら
おばあちゃんの家の玄関まで向かった。

玄関を開けるとそこには大量の荷物があった。

「生協の荷物が届いたの。ジュースを1本頼んだつもりだったけど1箱届いた。パンもこんなにたくさん食べきれない。もらってくれない?」

5個入りのクリームパンとアンパンが合わせて6つある。
何をどう間違えたんだ?

「いただいていいんですか?子どもが喜びます。」
私は答えた。

おばあちゃんは気をよくして、おしゃべりをはじめる。

これは形を変えたクッピーラムネだ。話をしたいのだ。

今日はダメだ。
習い事の送迎時間が気になる。

私はいったいどうしてこの人の話を聞いてばかりいるのだろう?
私だってこの人に何か喋ってもいいのではないか?

頭の中でそんな声が聞こえた。

おばあちゃんをみると
そんな私の脳内にはおかまいなしに
喋り続けている。

「歳をとるとだんだん声も出なくなってきてね。なんだか心細いの。せめて主人にお経をあげる声だけでもいい声出せないかと思っているのだけれど。


「私お坊さんの声出せますよ。」

勝手に口が動いていた。
すらすら続く。

「せっかく玄関あがらせてもらったんで聞いてもらっていいですか?」

「ええお願い。」
キョトンとしたおばあちゃんは
いった。

それでは失礼します。

私は最大音量で
お坊さん風
般若心経を
一節披露した。


長きにわたり活躍してくれた
私の良識人のシャッターよ
さらば!

私は自分の声で
シャッターを破壊した。

意外なことに
おばあちゃんは
立ち上がって
両手をたたいて喜び
かなりの高評価であった

「よかったら教えますよ。
コツはホーミーです。」


私は息子の送迎の為、
おばあちゃんの家を
すぐに去った。

なんのはなしですか

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