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[エスの教育]課題図書

一杯のお茶から始まった
エスとの付き合いは
ゆるやかなペースで続いた。

ゆるやかはありがたい。
いくら優美ごっこが面白いとはいえ
私はいつも優美でいるわけにはいかないのだ。

そのゆるやかなペースを保つ
エスの秘策が「課題図書」である。

「本好き」という共通項を確認してしばらくたったころ
エスはお茶の帰りに私に本を持たせるようになった。

「ミルコさんこれ持っていって。多分好みだと思うの。急がないでいいの。帰すのはいつでもいいわ。」

課題図書…それは宿題。
私は本は好きだが、読む本は自分で選びたい。

わが家の読まれる日を待ちわびている積読が脳裏をかすめた。

しかし、しかしだ。

私が深掘りしようとしている女が
私が好むであろうと思っている本

それはどんな本か?

むむむ…

気になる。

こうしてまんまと私は
課題図書を手に取った。


面白いんだなこれが♬


人に本を貸すというのは
次にまた会うことを意味する。
数冊の本を貸しておくと
程よいペースでまた会える。
会話も楽だ。
特に変わったことがなければ
本の感想を述べればよい。

前から思ってた以上に
エスは頭が良い。


私はエスのペースに完全に身を委ねた。

何度会っても今でもエスは相変わらず優美であり、
琴をたしなむ、短歌をよむなどといった話をしては相変わらず私を驚かせるのであったが、
彼女が私に与える課題図書のおかげで、私にとってエスとの会話はいつしか純粋に楽しいものとなっていった。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「同じ人から借りた本を読み続ける」

この本当の意味を
私が知るのはそれから
ずっと後のことである

エスは本当に頭が良い。

なんのはなしですか


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