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点と点のつなぎ方

点と点をつなぐ、という表現がよく使われる。無関係だと思っていた点と点も、つなぐと線になるということだ。クリエイティヴ、創造性の話になるとよくそれが出てくる。

スティーヴ・ジョブズの有名なスタンフォード大学でのスピーチでもそれが語られている。

大学時代、単位と関係なくカリグラフィーの授業を履修した。そこで学んだことが将来マッキントッシュの美しいフォントをつくることにつながったという話だ。

彼はまた、日本の電化製品にヒントを得て、マグネットで着脱可能な電源も自分の製品に取り入れた。

では、どうやって点と点をつなぐのか?

ところで、ずいぶん前の話になるが、増子浩介さんというダンサー/振付家のコンテンポラリーダンス作品「Hyphenation」に曲をつくった。

英語で、たとえば「Japanese-American」のように、別々なふたつを結びつけるときに「-(ハイフン)」が使われる。これがアメリカの国民のアイデンティティをよく表すという田中宇さんの記事を当時我々二人がたまたま読んでいて、それをヒントにつくった作品だ。

 アメリカは国民のアイデンティティに関して「ハイフネーションの国」であるといわれる。ハイフネーション(hyphenation)とは「ハイフン(横棒)でつないだ」という意味で、たとえば日系アメリカ人を「Japanese-American」と呼ぶように、外国系アメリカ人を表現するときにつく「-」がハイフンで、これは日本語の「系」にあたる。

 ハイフンでつないでいるのは、言葉の上の特徴というだけではない。アメリカに住む移民は、アメリカ人としての意識(アイデンティティ)と、もともと属していた民族(日系人なら日本)を愛する意識の両方を維持してかまいません、という政策をも表している。移民が2つのアイデンティティを持ち続けることを認めるのは「無理やりアメリカに同化させない方が、むしろアメリカに対する愛国心を持ってもらいやすい」という意図がある、と英語の本に書いてあった。(Myron Weiner: The Global Migration Crisis) 

移民大国アメリカを実感する(上) 田中 宇

「Japanese」も「American」も両方のアイデンティティを維持していいですよ、というのがハイフンで示されているという。

上にある曲「Hyphenation」は、音のルーツが、佐渡、インド、長岡、片貝、アイルランドにある。それらを半ば無理やり「ハイフン」でつないだような楽曲だ。きれいにつなごうとは考えていない。1つの楽曲の中でそれらがそれぞれの「アイデンティティ」を保っている。

上記の質問に戻ろう。点と点をどうやってつなぐのか。

私は、それらを「きれにつなごう」とか「画期的なかたちでつなごう」とか考える必要はないと思っている。

それらが「-(ハイフン)」によって、無理やり、あるいはゆるやかにつながれるだけでいいのではないか。

現在やっている展覧会でも、水彩画と写真が、そしてアートとコーヒーとカフェと六本木という街が、ハイフンによってゆるやかにつながっている。

どうつなげるかより大切なのは、それぞれの点が、しっかりとした点であることだと思う。

Japaneseのしっかりとしたアイデンティティがなければ、おそらくハイフンでAmericanにつなごうと思わないのではないか。

創造性においても、日々のクリエイティヴな生活のなかで、そのジャンルそのジャンルで、その作品その作品で、しっかりとした点を描く、深く点を打つことが大切なのだと思っている。なにかの拍子にそれらがたまたまつながるだけのことである。作者が意図的にできるのは、点と点を同じ場に放り込むことくらいでいいんじゃないだろうか。

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