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エッセイ

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2022年2月の記事一覧

文学の値段

文学の値段

文学の値段(越川芳明)

 キューバのハバナへの旅は長期滞在になってしまうが、旅の目的が特殊なだけに仕方ない。二〇一三年にアフロキューバの信仰のひとつ、サンテリアのババラウォ(最高司祭)になるための修行をしてから、その技を磨くべく自分の師匠のもとに通っている。

ところで、最近になって師匠がハバナの中心街から遠く離れたマリアナオという地区に引っ越ししてしまったので、僕もそちらに寄宿することになり、

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どんな大樹でも

どんな大樹でも

「どんな大樹でも、一本だけでは森にならない」とは、アフロキューバ宗教の占いに出てくる格言である。

 大樹といえば、2016年4月に武道館でおこなわれた明治大学の入学式のさいの、土屋恵一郎学長の告辞が思い出される。

通常、こういう儀式の挨拶などは、聞いていて退屈なものだ。

だが、土屋学長のそれは一味も二味もちがっていた。

まず挨拶の前段で、グローバル時代における明治大学の建学の精神「権利自由

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「見ているだけでは」

「見ているだけでは」

「見ているだけでは、鳥は殺せない」とは、アフロキューバの占いの中に出てくる格言だ。

じっと見ているだけでは鳥(獲物)は捕まえられない。矢を放つとか罠を仕掛けるとか、なんらかの行動を起こす必要がある。

いま、懸案(けんあん)事項になっているプロジェクトがあり、皆であれこれ意見を交わしたり、メリットやデメリットをめぐって議論を重ねているとしよう。

あるいは、あなたが恋愛中の相手と結婚するかどうか

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象は強いが

象は強いが

「象は強いが、風には勝てない」とは、アフロキューバの占いにでてくる格言である。

アフリカの百獣の王は象である。一般に言われているようにライオンではない。さすがのライオンも、巨体の象には勝てない。

とはいえ、その象でさえも万能ではない。弱点はある。

もちろん、われわれ人間だって同じだ。そのことを忘れずに、謙虚になりましょうという教えである。

あるとき、僕は師匠と一緒にハバナ市街からバスに乗り

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「吠える犬は噛まない」

「吠える犬は噛まない」

「吠える犬は噛まない」とは、アフロキューバ信仰の占いにでてくる格言である。

吠える犬は、怖いが、実際には人間を噛んだりしない。本当に怖いのは、吠えずにいきなり襲ってくる犬のほうだ。

人間だって、同じかもしれない。うるさいと思うかもしれないが、あれこれ忠告してくれる人が、案外、あなたのことを思ってくれていることだってある。

あるとき、キューバの東部の町サンティアゴで、私の守護霊のためのベンベを

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