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「倒れている樹は、道端の占い師」とは、キューバのアフロ占いの運勢に出てくる格言だ。


実は、この格言には前段がある。「強い風は大空の占い師、弱い風は地上の占い師」とあって、その後に、この句がつづく。


いまは、宇宙に飛ばされた気象衛星が地上にさまざまなデータを送ってくるが、昔の人たちだって、外に出て風の向きや強さ、雲の動きなどを見て、明日の天気がどうなるかぐらい、予想することができた。

身近なところに、貴重な情報が隠されている。いや、隠されているのではなく、わたしたちが気づくのを待っている。

あるとき、ハワイのオアフ島でゴルフをしたことがある。それは、ミリラニ・ゴルフ・コース*(註)というところだった。そのコースで2度目にプレーしたときのことだった。


わたしたちは名物の谷越えの2番ホール(パー3)を終えて、パー5の3番ホールへカートで移動した。カートを降りると、なんとティ・グランドの脇に、10メールを超える大樹がばたりと横になっていたのだ。


幸い、フェアウェイを遮らないように倒れていたのでプレーには支障がなかった。


大樹のわりに、根は短く、えぐられた穴も小さく浅かった。
強風が吹いたときに、自分の重さに耐えきれなくなって倒れたのだろう。


その木は、アルビジアの樹(albizia trees)というらしかった。調べてみると、日本語では「合歓木(ねむのき)」と呼ばれているという。古来、漢方の世界では、幹の皮を乾燥させて、利尿剤や強壮剤として利用されてきたようだ。


この木は成長がおそろしく早く、1年で4メートルも高くなるという。わたしがゴルフ場でみたのは、大樹とはいえ、おそらく植えてからたったの3,4年しか経っていなかったのだ。


成長が早いのは、いいことばかりではない。 幹の成長が早く樹が大きくなる分、根っこの成長が追いつかず、風に弱くてすぐに倒れる。


ハワイではこの樹がいま問題になっているという。
ハイウェイの脇に植えられたこの木が倒れて道路をふさいでしまったり、住宅の屋根を壊したり、ワイキキビーチの高級ホテルの脇に植えてあったこの木からいきなり大きな枝が落ちてきて歩行者がケガをしたり・・・。


ハワイには100年ほど前に、牧場や住宅地の急激な開発で、傾斜地になだれが生じないようにという考えで、この東南アジア原産の木が持ち込まれたらしい。

しかし、繁殖力が高く、在来種も駆逐してしまうため、いまでは「ハワイ侵略種(外来種)委員会」の眼の仇にされている。動植物のエコ環境を変え、市民やインフラへの影響も甚大であるため、今後できるかぎりその数を減らそう、という考えのようだ。


大空の風や倒れた大木は、人間の言葉をしゃべらないかもしれないが、今後わたしたちがどうしたらいいかを教えてくれる「占い師」なのである。


とはいえ、わたしたちの身近なところでは、嵐でもこないかぎり大木が倒れているような事件はめったにないかもしれない。


だから、この運勢が出てきたときは、風や大木というより、身のまわりのできごとや人の仕草に注意を向けて、少しの兆候も見逃さないように! と注意をうながしてあげることにしている。

(2022.1.16)

*(註)ミリラニ
オアフ島の二つの火山に挟まれて、「中央ヴァレー」とも呼ばれる、島の中央部に位置する町。二つの火山とは、西に約三百万年に噴火したワイナエ山、東に二百万年前に噴火したコオラウ山で、いまは両者とも死火山。ミリラニは、ホノルルからハイウェイ2号線を使えば20,30分ほどでいけるベッドタウンである。標高はホノルルより200メートル高い。気温は100メートルごとに0.6度下がるので、ワイキキビーチより1.2度低い。体感では、2,3度低いかもしれない。

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