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前回、「倒れている木は道端の占い師」という、アフロキューバ宗教の格言について触れたが、今回はその続きである。


1917年にジョゼフ・ロックという生物学者によってインドネシアのモロッカ諸島からカウアイ島に植えられたアルビジアという木が、嵐や風などで簡単に倒れて、ハワイ諸島の民家や自治体に甚大な被害をもらしている。


前回はそういう話をした。確かに、人間から見ると、厄介な木である。


だが、物事を人間の都合だけ見ていいものだろうか。今回は木の立場から考えてみよう。


この木が倒れるには、木なりの都合があるのだ


急がずに、順を追ってみていこう。


まず、どうしてこの木はそんなに成長が早いのか? 


それは、この木の能力とかかわっている。アルビジアという木は、植物の成長には欠かせない肥料のひとつであるチッ素を大気中からも取り込む能力があるという。それで、1年に4メートルも大きくなる。

そうした能力というか、この木のやっていることは、マーケティング理論でいう、「ブルーオーシャン戦略」(W・チャン・キム教授)である。


誰もが血みどろの戦いを繰りひろげる分野(レッドオーシャン)で戦うのではなく、誰もが使わない資源を使っているのだから。ひとり勝ちするわけである。

大きく育ったアルビジアの木の下の土壌は、アルビジアが取り込んだチッ素がたくさんあるにもかかわらず、在来の植物は育たない。


在来の熱帯種はたくさんの日光を必要とするからだ。それで、アルビジアの葉が作る大きな日陰を嫌う。


そうした悪環境でも生きられるのは、たくましい外来種だけである。

有害種とされている外来のクリデミア・ヒルタとか、ストロベリー・グアバといった植物だけが繁茂する。


アルビジアの木の根は、幹の高さや大きさに比べて、とても浅い。これは人間から見て、欠陥に映る。根が浅いから、すぐに倒れて、人間社会に被害をもたらすからだ。


だが、アルビジアが地中深くまで根を張らないことには、おそらくそれなりの理由がある。さきほど、私はこの木が倒れるには木なりの都合がある、といった。


もったいぶらないで結論をいおう。


アルビジアは倒れるために、わざと根を浅くしているのだ!


この木は4年で大人になるそうだ。大人になって種子を作る。種子は風で飛ばされたり、鳥によって運ばれる。土の上に落ちた種子は芽をだす。そして、成長を始める。


大人の役目は何か? 
それは次の世代の子供たちを育てることである


大木のアルビジアは、中途半端に折れてしまったら、日陰ができて、子供が十分に育たない。


子供たちがすくすくと育つためには、自分がばたりと倒れて死ぬのが一番だ


こういう死と再生のサイクルを繰りかえして約100年前にカウアイ島に植えられたアルビジアは、この島を覆うほどに繁茂した。ハワイ島やオアフ島にも進出した。これがアルビジアの都合である

ところが、これで話が終わらないから面白い。


木が次世代の子供たちことを考えて生きているように、人間たちもようやく次世代の子供たちのことを考え始めるようになったようだ。


たとえば、2015年にカウアイ島にできた「グリーン・エネルギー」の会社は、バイオマス発電工場を作り、アルビジアの木を活用しているらしい。

それで島民が使っているエネルギーの12パーセントをまかない、1200万ドル(12億円)の節約をしているという。それだけでなく、重機の運転手から植物技師まで、地元の雇用も生み出している。


この島では2045年までに、このバイオマスによる燃料だけでなく、太陽エネルギー、水力発電など、再生可能なクリーンなエネルギーだけでまかなうことを決めたという。


これは、「倒れた木」という「占い師」の言葉を、人間たちが聞いて上手に活用した例といえるかもしれない。

*この文章を書くにあたり、以下の資料を参考にさせていただきました。
“Albizia FAQs,” Big Island Invasive Species Committee. https://www.biisc.org/ 1/22/2022
“Grove Farm Newsletter—October 2020 Edition,” Grove Farm News. https://www.grovefarm.com/ 1/22/2022
近藤純夫「有害物質」 Aloha Program. https://www.aloha-program/com/ 1/22/2022

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