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Top 40 Best Albums of 2023

はじめまして、Kunです。

2023年の良かったアルバムを40枚選び、それぞれ感想、考えたこと、思い出などの短文を付けました。Spotifyのリンクもつけてあるので気になったらぜひ聴いてみてください。

順位 アーティスト名『アルバムタイトル』〈レーベル〉でまとめてます、レーベルのリンクも貼ってるので気になったら見てみてください。


それではどうぞ!


40〜31位

40位 Jerskin Fendrix『Poor Things (Original Motion Picture Soundtrack)』〈Milan Records

Jerskin Fendrix『Poor Things (Original Motion Picture Soundtrack)』ジャケット

元BC,NRボーカルIsaac Woodにも多大な影響を与えたサウスロンドンの鬼才SSWが手掛けるサウンドトラック。

やっぱこの人のふざけた、飄々とした感じ好きですね、オーケストラを率いてここまで自分の味を出せるの凄いです。映画はまだ日本では公開前なので映像とどういう風にマッチしているのか楽しみです。

あとこの人とdeathcrashのボーカルが在籍していたバンド、Famousも2024年そろそろアルバム出してほしいですね。

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39位 うすらび『Outside of the world』〈An'archives

うすらび『Outside of the world』ジャケット

東京の3人組バンドの2ndアルバム。

バンド、音楽をやっているという世間との摩擦や後ろめたさ、音楽という役に立たない故の美しさを描いているような、物悲しいメロディーの60sGarage Rockサウンド。

Acid FolkやNoiseに振れるアレンジも心象の揺らめきやざらつきを表現しているような気がしてリアルですね。

私自身、将来社会に貢献できるのか悩む時期であったので刺さりました。素晴らしい日本語うたものアルバム。

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38位 KOU『KOU』〈Aguirre,All Night Flight,Animal Biscuit,BeCoq,El Muelle 1931,La République des Granges,U-Bac

KOU『KOU』ジャケット

フランスのアヴァンデュオの1st。

思いつきで爪弾くような弦の音、カタカタとしたテープの音、独り言のような歌声、知らない家に迷い込んだような居心地の悪さが続く音響Folk。

今年1番音響で感動したのが映画『オオカミの家』で、それに似たアルバムを探していてこのアルバムに辿り着きました。

Reverend Kristin Michael Hayter『SAVED!』とか、跡地『跡地』とか、生活の中の恐怖、恐怖の中の生活を感じるものを色々聴いた中で、KOU『KOU』は言語的にも1番居心地が悪かったので良く聴いてました。

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37位 Peg『Sideshows』〈Ruination Record Co.

Peg『Sideshows』ジャケット

Alvvays、Hand Habits、Cassandra Jenkinsなどとコラボした、太平洋岸北西部で活躍するドラマーのソロデビューアルバム。

70sArt Popセンスで作られる、Indie Rockアルバム。

音像はAlvvaysにも通じるIndie Rockではあるものの、コード進行であったりドラミングが一筋縄ではいかない構成でかなり攻めている、それでもIndie Rocとしての聴きやすさは保たれているとんでもない作曲センス。

私自身作曲は何もわからないのですが、それでも優れた音楽家であることを分からされる、一個一個の楽器のサウンドであったり、作曲であったりが細部までとことん突き詰められた傑作。

こういうアルバムを聴き漏らさないために新譜を聴き続けなければならないんだと思い知らされました。

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36位 菅野よう子『「舞妓さんちのまかないさん」オリジナル・サウンドトラック』〈Captain Ducking Records

菅野よう子『「舞妓さんちのまかないさん」オリジナル・サウンドトラック』ジャケット

日本の作曲家によるサウンドトラック。

『舞妓さんちのまかないさん』は2023年で1番良かったドラマですね。ガッツリ京都の話なのにも関わらず、サントラでは和楽器を使わないという菅野よう子の心意気に感動。

年末に京都旅行に行ったのですが、実際行ってみると観光客も多く、そこまで和の要素を感じることはなくて、現代社会の隙間にある丁寧な所作という現在の京都を写したリアルなサウンドトラックだったんだなと分かりました。

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35位 I'm Not You『New Bright Object』〈Forth Sounds

I'm Not You『New Bright Object』ジャケット

ベルリンとエディンバラのアーティストによるコラボプロジェクトのデビューアルバム。

母親の絵画スタジオでの録音から始まり、じっくりと時間をかけて作られたPost-Rock。TortoiseやWeather Report、グラスゴーのPost-Rockの影響を感じさせます。

優しく暖かい文句なしの完璧なPost-Rock〜Math Rock。Post-Rockはしばらくこの一枚で良さそうですね。

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34位 Oliver Coates『Aftersun (Original Motion Picture Soundtrack)』〈Invada

Oliver Coates『Aftersun (Original Motion Picture Soundtrack)』ジャケット

ロンドンのチェリスト、作曲家が手掛けたサウンドトラック。

『Aftersun』は2023年で1番観て良かった映画ですね。自分と世間とのズレ、そこから生まれる苦しみ、アイデンティティについて凄く考えさせられる映画でサウンドトラックにもそれが落とし込まれています。

暗い部屋でこのサウンドトラックを聴くと水に沈むような感覚になり自分の内面を深く見つめられるような気がします。Ambientとしても素晴らしいアルバム。

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33位 角松敏生『Inherit The Life II』〈Sony Music Labels Inc.

角松敏生『Inherit The Life II』ジャケット

日本のシンガーソングライターが自身で手掛けた舞台のサウンドトラック。

角松敏生がライフワークとして取り組んでいたMILAD(MusIc Live、Act & Dance)という舞台プロジェクトが2023年堂々完結。ライブと劇、ダンスが融合した未だかつてないプロジェクトの脚本・演出・音楽を全て自身で手掛けたことに驚きを隠せない。

30年来の夢だったというこのプロジェクトを63歳という年齢を迎えても達成するその姿に感動しました。

冒頭10分ほどのファンキーなメドレー、極上のバラード、ラストの角松敏生ギターテクニックが光るインストなどなど、アルバム収録曲どれも一級品なのでぜひ聴いてみてください。

私のポッドキャスト『新風の候』でも取り上げました!

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32位 Detalji『Truly』〈Deep Limit

Detalji『Truly』ジャケット

フィンランドのプロデューサーのデビューアルバム。

90年代Raveから影響の受けたダンスミュージック。ダンスミュージックとしてもバキバキに踊れて最高なんですけど、幻想的な歌声や、タイトルトラックに見られる透き通ったアンビエンスとかから北欧の美しい景色を感じられて良いですね。

STUTS"夜を使いはたして"の「フィルムみたいな朝もやが/デジタル化された街を/静かに浄化してく」って歌詞があるんですけど、クラブから出たときデジタル化された街じゃなくて、もしフィンランドの森林や雪景色が広がってたとしたら最高ですよね。そういうアルバムです。

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31位 Avalon Emerson『& The Charm』〈Another Dove

Avalon Emerson『& The Charm』ジャケット

サンフランシスコ出身のElectronicプロデューサー・DJがバンド編成で制作したアルバム。

ツアーDJとして多忙な日々を過ごす中、長期休暇で制作したという。普段のクラブサウンドから離れ、暖かなIndie Rock〜Dream Popサウンドに新しい居場所を求めた一種の逃避行的な一枚だと思います。

ドリーミーなサウンドの中にもDJのセンスが光るフロアライクな楽曲も収録されており、特に"A Dam Will Always Divide"はダンスミュージック×Shoegazeの完成形。

このレコード欲しくて、渋谷や下北中を歩き回って見つからず、次の日にBIGLOVEに行ったら何枚も置いたあったのは良い思い出。

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30〜21位

30位 TKB『Dream Nightclub』〈Where To Now?

TKB『Dream Nightclub』ジャケット

オーストラリアはメルボルンのアーティストによる2ndアルバム。

クラブに行ったことない人が想像で作ったような、ミニマルなビートそしてモヤっとしたサウンドに包まれたダンスミュージック未満の何か。

メルボルン郊外の河川保全地の小屋でこのアルバムを作ったTKBは実際クラブに足を運んだことはなく、それでも彼が夢見るダンスクラブで流れているような音楽を作ったそう。

冬くらいに友達のイベントで恵比寿バチカまで行ったのですが、なんか雰囲気が怖くて入れなかった事がありまして、そのバチカからの音漏れがかなりこのアルバムのサウンドに近かったです。この情けないサウンドが自分にフィットして落ち着きます。

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29位 maya ongaku『Approach to Anima』〈Guruguru Brain

maya ongaku『Approach to Anima』ジャケット

江ノ島発3人組のデビューアルバム。

江ノ島という土地柄からなのか水に対する表現が上手い。海、川、雨、水を見つめているというより、自分も水循環の一部であることを意識させられます。

オリジナル楽器の制作などストイックな音の探究者達ですが、シリアスすぎず、遊ぶ余地を残してる感じでとても居心地が良いです。Suchmosしかり江ノ島とか湘南辺りのバンドはとにかくセンスが良いですね。

今年は邦楽Psychedelic面白かったですね。帯化『御池塘自治』PSP Social『宇宙から来た人』CHO CO PA CO CHO CO QUIN QUIN『tradition』とかとか色んなシーンから盛り上がってきている印象です。

私のポッドキャスト『新風の候』でも取り上げました!

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28位 Gigi Masin & Rod Modell『Red Hair Girl At The Lighthouse Beach』〈13

Gigi Masin & Rod Modell『Red Hair Girl At The Lighthouse Beach』ジャケット

イタリアのAmbient作家とアメリカのDub Techno作家のコラボアルバム。

それぞれが用意した素材をそれぞれが加工編集するという手順で制作された水がテーマのAmbient。

あまりに心地よいテクチャーで全く言うことのない完璧なAmbientです。よく聴きました。


27位 小久保隆 & Andrea Esperti『Music For a Cosmic Garden』〈WRWTFWW Records

小久保隆 & Andrea Esperti『Music For a Cosmic Garden』ジャケット

日本の環境音楽家とイタリアスイスのトロンボーン奏者の2021年に録音されたアルバム。

メディテーションなサウンドが通底していながら、雅楽を取り入れたりなど、そういう邦楽のアレンジも入れるバランス感覚とんでもない。

こちらも全く言うことのない完璧なAmbientです。よく聴きました。

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26位 De Toegift『De Toegift』〈Snowstar Records

De Toegift『De Toegift』ジャケット

オランダはユトレヒトのバンドのファースト。

フルートやバイオリンなどが重なる美しいバンドアンサンブルによって紡がれるIndie Folkサウンド。そこにSpoken Wordなボーカルが重なり、他にないノスタルジーを描いています。

ゆったりとしなやかな楽曲の中にPsychedelicに傾倒した実験性あふれる楽曲もあり、かなり聴きごたえがあります。特に6曲目の"Alles is gemaakt"はゆらゆら帝国の"学校へ行ってきます"を想起させる音像、フルートが尺八っぽく響いててかなり良いです。

2023年はオランダの音楽に多く触れた気がします。〈Snowstar Records〉だけでなく〈South of North〉といったレフティーなレーベルも良く聴きました。

あと何よりTramhaus来日が大きかったですね。オランダの音楽はPost-PunkもIndie FolkもLeftfieldも、ジャンル問わずどこか緩い感じがとても良いと思います。

オランダインディーのプレイリストも作ったのでぜひ聴いてみてください!

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25位 Yalla Miku『Yalla Miku』〈Bongo Joe

Yalla Miku『Yalla Miku』ジャケット

スイスの7人組のデビューアルバム。

北アフリカ、東アフリカのミュージシャンがジュネーブのミュージシャンと一緒になり作り上げた一枚。

欧米系のメンバーがKrautrockやHouseをベースとしたトラックを作成し、非欧米系メンバーがモロッコのGnawaなどのエッセンスを加えていくという分業方式で作曲して

多文化が入り混じる音楽って結構"融合"を求められることが多いと思うんですけど、このバンドはそことは反対のことやってて面白いですね。

融合ではなく組み合わせることで、互いの文化へのリスペクト、またヨーロッパにおける移民の生きづらさまでも表現している。このスタイルは今までなかったと思います。

全く新しい「反・フュージョン」の傑作です。

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24位 Bianca Scout『The Heart of the Anchoress』〈First Terrace Records

Bianca Scout『The Heart of the Anchoress』ジャケット

Space AfricaやBen Vinceともコラボするロンドンのアーティストのアルバム。

サウスロンドンのキャンバーウェルにあるセント・ジャイルズ教会にて3日間かけて行われた録音をベッドルームスタジオに持ち帰り完成された1枚。

パイプオルガンやボーカルが幽玄に響き、yeuleの2022年作『Glitch Princess』のようなベッドルームを押し広げ宇宙や精神世界に飛び込んでいく不明瞭であるもののどこか安心するサウンド。

ベッドルームと天国や精神世界を繋げるような崇高なサウンドはyeuleと似てはいるものの、教会で録音したものをベッドルームで編集するという工程で完成させていて、とても構造がシンプルで良いと思いました。

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23位 Academy of Light『Open Air』〈New Jersey Wildlife

Academy of Light『Open Air』ジャケット

ロサンゼルスのSSWが結成した25人編成のAmbientバンドのデビューアルバム。

自宅兼スタジオで一発録り40分1曲。バイオリンやギターによるDroneにドラムスやパーカッションが各々自由なタイミングで重なっていく。風通しの良いAmbient傑作。

Academy of Lightだけでなく2023年は"開けた音楽"が多かったと思います。

The Clouds『The Clouds』再発野流『梵楽』HIROBA『HIROBA』ミハイル・カリキス『ラスト・コンサート』などなど不特定多数、ミュージシャン非ミュージシャン問わず参加する作品の面白さ、居心地の良さについて考える一年でした。

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22位 小野川浩幸『August in the Water: Music for Film 1995-2005』〈Mana Records

小野川浩幸『August in the Water: Music for Film 1995-2005』ジャケット

日本の音楽家の1995年から2005年にかけてリリースしたサウンドトラック楽曲コンピ盤。

このシンセの冷たさ、この時代にしか出せない質感ですね。冷たく幽玄でSFチックなシンセが響くNew Age良作。

昔の邦楽New Age〜Ambientは余白がたっぷり取られてて最高ですね。今年は吉村弘展であったり、Ambient Kyotoの開催など邦楽Ambientに触れる機会が多かった気がします。

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21位 Kyrie『DEBUT』〈AVEX MUSIC CCREATIVE INC.

Kyrie『DEBUT』ジャケット

映画『キリエのうた』に登場するSSWのデビューアルバム。

テーマ曲とアレンジを小林武史が手掛け、他全ての作詞作曲をキリエ役のアイナ・ジ・エンドが行っている。

以下、映画のネタバレ含む怪文

アイナ・ジ・エンドは実際キリエのように路上で歌ってた時期があり、ギターどころかマイクも無しでアカペラで歌っていたという。このエピソードを聞いた時本当に空っぽな人なのだなと驚いた。

アイナは歌やダンスといった表現の才能は卓越しているが、それ以外は空っぽである。それにプロデューサー達は夢を見てしまう、空っぽのアイナにどんどんと夢を詰め込む。

しかし、アイナは空っぽというより真空で、どのようなコンセプトも吸い込んでしまう。プロデューサー達は詰め込んでいると思いきや、自分自身もアイナの中に取り込まれていってしまう。

アイナ・ジ・エンドに夢を見たものは、気付かぬうちに没落してしまう。『キリエのうた』もそういう話だったと思う。

岩井俊二、小林武史もアイナに夢を見た者の1人。だか、それぞれアイナ以上の表現力を持っているためアイナに吸い込まれず均衡している。


長々と書きましたが、岩井俊二、小林武史そしてアイナ・ジ・エンドのパワーバランスがギリギリ釣り合ってる良いJ-Popアルバムだと思います。アイナがライブで歌う時の一瞬冷たくなるような緊張も感じる良いアレンジ。

PEDRO『後日改めて伺います』とこのアルバム合わせて、BiSHと私の物語はようやく終わったかなと思います。

私のポッドキャスト『新風の候』でも取り上げました!

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20〜11位

20位 Sunny Kim, Vardan Ovsepian & Ben Monder『Liminal Silence』〈Earshift Music

Sunny Kim, Vardan Ovsepian & Ben Monder『Liminal Silence』ジャケット

韓国出身のオーストラリアのシンガー、アルメニアのピアニスト、アメリカのギタリストのコラボアルバム。ミックスはJim O'Rourkeや石橋英子との仕事でも知られるJoe Talia。

無と有、闇と光の境界から本質を探し出す。非常に少ない音数ながら濃密なJazz〜Ambient傑作です。完全な無の中にギター、ピアノ、ボーカルだけが漂ってるみたいなサウンドで鳥肌立ちます。

Jazz、Classic、Rockのライブ会場が微かに見えるジャンルの境界空間のような一枚。

今年はこのアルバム以外にもAftersunサントラBianca Scout『The Heart of the Anchoress』Sydney Spann『Sending Up A Spiral Of』Carman Villain『Music From the Living Monument』のような、時間、空間、現実、生、性などなど色々な境界の狭間を感じるようなサウンドが多かったと思います。Liminal Spaceの流行が音楽にも影響を与えているのかもしれません。

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19位 Sam Wilkes『DRIVING』〈Wilkes Records

Sam Wilkes『DRIVING』ジャケット

LA拠点のベーシストのソロアルバム。

bandcampのアルバムの紹介分に「Driving is Sam Wilkes’ Indie Rock record. 」とあるように普段やっているJazzから離れ、思いっきりインディーをやってる一枚。

ジャンル外のアーティストだからこそ、"インディー"のデザインが完璧にできており、かつ良い部分しかやってないので、聴いててひたすらに楽しいし、気持ちいい。

Sam Wilkesならではの遊びのある展開も基礎のデザインがしっかりしてるからこそ成せる技だと思います。

特に最後の"Driving"お気に入りですね、単純に12弦ギターが好きなだけですけど。

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18位 Shame『Food for Worms』〈Dead Oceans

Shame『Food for Worms』ジャケット

サウスロンドンの5人組の3rdアルバム。

前作までのPost-Punkサウンドから、様々なジャンルに大きく広がった意欲作。

Shameはこのアルバムは内面でなく外に目を向けて作ったと言っています。Shameを取り巻く外の環境っていうのは、まさしくblack midiやBC,NRなどのサウスロンドンシーン。このアルバムは前作からは想像つかないほど楽曲の構成が複雑になっていて、サウスロンドン周りのバンドの影響がうかがえます。

また今作にはレーベルメイトのPhoebe Bridgersも参加しており、より外向きに意識が向いていたことがわかります。

こういった外に意識を向け、多ジャンルを横断したいわゆる"意欲作"と呼ばれるアルバムはコンセプトやアイデンティティがブレてしまい何がやりたいのかわからなくなってしまう傾向があります。

しかし、このアルバムではアイデンティティを失っていません。Shameらしさとは何か、それはライブ感であると思います。観衆を煽る熱狂的なパフォーマンスこそがShameの何よりの魅力と言って良いでしょう。

このアルバムは1発録りで録音されており、複雑な楽曲でもShameの魅力であるライブ感が良く表されていると思います。

自分を取り巻く外の環境に目を向けることでバンドらしさを再発見し、それを正しい手法で表現できている、そしてそういうストーリーが良く伝わってくる傑作だと思います。

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17位 カネコアヤノ『タオルケットは穏やかな』〈1994

カネコアヤノ『タオルケットは穏やかな』ジャケット

日本のシンガーソングライターの6thアルバム。

Folk Rockから逸脱し多くのジャンルに広がりをみせた意欲作。

先ほどのShameと同様に多ジャンルに取り組む"意欲作"となったアルバム。Shameは多ジャンルを通じて自分のアイデンティティを表現する方法を見つけるような構成でしたが、カネコアヤノの場合その逆と言えるでしょう。

冒頭"わたしたちへ"の轟音ギターから今までとは様子が違うことがわかります。Psychedelic、Alternative、Jazz、、などなどジャンルを横断していく。でも様々なジャンルをやることでブレるかというと、そういうことはなくむしろ作家性が顕著になっていくような気がします。

色々なジャンルに取り組んで行くことで、カネコアヤノというアーティストの作家性がどんどんと顕れていくのが、聴いていて恐怖を感じるほどでした。

あとうっすら思ったことですが、轟音ギターで始まるのがゆらゆら帝国『3×3×3』を感じさせ、ラストトラックの"もしも"はかなり坂本慎太郎ソロを感じるので、アーティストとして坂本慎太郎への憧れがあるのかもしれませんね。

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16位 マカロニえんぴつ『大人の涙』〈TOY'S FACTORY

マカロニえんぴつ『大人の涙』ジャケット

日本の4人組の4thアルバム。

人気バンドがよりロックに取り組んだ意欲作。

こういう人気バンドがしっかり作ったロックアルバムって、例えばMr.Children『miss you』みたいに玄人向けというか既存のファンを置いていってしまう傾向にあると思うんですけど、全く置いていかずにファンをしっかり見ている感じがして凄いなと思いました。

特に8曲目"嵐の番い鳥"で強く感じて、完全に内輪ノリの曲も入れちゃうんだと驚きました。人気の邦ロックバンドというイメージを保ちつつ、さらにはタイアップ曲盛り沢山で、ここまでカッコいいアルバムに仕上げるのKing GnuやVaundyより相当凄いこと成し遂げていると思います。

あとoasis好きすぎで最高。

私のポッドキャスト『新風の候』でも取り上げました!

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15位 Sampha『Lahai』〈Young

Sampha『Lahai』ジャケット

ロンドンのSSWの2ndアルバム。

サウスロンドンサウンドのその先を軽やかに見せるR&B傑作。

2021年のTirzah『Colourgrade』あたりから、サウスロンドンのR&Bシーンには注目していて、昨年のCoby Sey『Conduit』のリリースを経て、2023年TirzahのパートナーであるドラマーのKwake Bass率いるSpeakers Corner Quartetの1stアルバム『Further Out Than The Edge』でようやくサウスロンドンR&Bとしてサウンドをはっきり提示できたかなというところに出たのが今作。

今作にはKwake Bass、Léa Senが参加しており全体的にサウスロンドンR&Bサウンドが全面に出ているなという一方で、同じくサウスロンドンの別のシーンからMorgan Simpson (black midi)、Yussef Dayes、そしてYaeji、El Guinchoといった国外アーティストも参加しています。

サウスロンドンR&Bに軸足は置きつつも、他ジャンルや他国のアーティストとも融合させていく、その視界の広さに驚きました。

またKwake Bass、Morgan Simpson (black midi)、Yussef Dayesのタイトなドラミングを取り入れたのも、流行しているドラムンベースに対するサウスロンドンの回答のように感じます。

インタビューでアルバムのテーマが空を飛ぶことと語っており、まさしく空を飛ぶようにサウスロンドン、そして世界を俯瞰した見事なアルバム。

私のポッドキャスト『新風の候』でも取り上げました!

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14位 PoiL Ueda『Yoshitsune』〈Dur & Doux

PoiL Ueda『Yoshitsune』ジャケット

フランスのProgressive Rockバンドと日本の琵琶奏者のコラボアルバム。

平家物語の語りと演奏が完全にマッチし、実際に戦場にいるかのような息をのむ臨場感のある一枚。

純邦楽と洋楽のコラボは、山本邦山『銀界』だったり、小松原まさし『Edo』だったり色々あったと思うのですが、このアルバムほど必然性を感じたものはありませんでした。

このアルバムを聴いていると鎌倉時代の人々はなぜプログレをやらなかったのか不思議に思います。戦の激しさ、諸行無常が良く表現できています。

また、純邦楽の取り入れ方が軽快で面白かったですね。2曲目の"Kumo 雲(船弁慶),Pt.2"なんかも雅楽のプワーーーって音を連発していて、こういう純邦楽ネタをポンポン入れてくるのあんまり日本には無いセンスかなと思います。

2023年は2作リリースしていてどちらも破格の内容だったので、2024年もどんどん作っていってほしいですね。非常に重要なプロジェクトだと思います。

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13位 Mingjia『star, star』〈New Amsterdam Records

Mingjia『star, star』ジャケット

北京出身トロント拠点のヴォーカリストのオーケストラ率いたアルバム。

自身の人生、中国神話からインスピレーションを受けた物語をClassicやAsian Music、Jazz等多彩なサウンド、そして伸びやかな歌声で表現した傑作。

未だにClassic等オーケストラを率いた音楽に対して敷居が高いなと感じてしまうのですが、このアルバムはそういったものは感じず、むしろBedroom Popに近い親密さを感じるほどでした。

壮大なオーケストラ、美しい歌唱、驚くような展開、色々と圧倒させられるのですが、それでも親密さを失わない絶妙なバランスで成り立っている傑作です。もっと広く聴かれてほしいですね。

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12位 aja monet『when the poems do what they do』〈drink sum wtr

aja monet『when the poems do what they do』ジャケット

ニューヨークで活躍する詩人の1枚目。

Jazz、Hip Hop、Soul、民族音楽など様々なジャンルを取り込みつつ、黒人の抵抗、愛、喜びを探究するSpoken Word大名盤。

共同プロデュースにグラミーノミネートのトランペッターChief Adjuahを迎え、演奏も素晴らしく、Spiritual Jazzとしても傑作。1時間半と長いですが、納得のパワーを感じます。

やはり演奏が圧巻なんですけど、aja monetの詩の力が完全に勝ってるんですよね。私は英語がわからないので内容は調べなければ理解できないのですが、それでも強いエネルギーを感じる。

言葉のエネルギーを再認識でき、そして発信することの勇気をもらえるようなアルバムだと思います。

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11位  Cruyff『lovefullstudentnerdthings』〈POWERPUFF RECORDS

Cruyff『lovefullstudentnerdthings』ジャケット

東京の4人組の1stアルバム。

今を生きる若者の感じる摩擦をそのままマイクで拾って、ファズをかけて、アンプに繋いだようなHaevy Shoegaze傑作。

コロナ以降、クラブにオルタナバンドが出る機会が増えたような気がしていて、例えばCruyff、Texas 3000、moreru、bed、Waaterなど、ライブハウスだけじゃなくクラブやレイブなど様々な場所で活躍するバンドが増えています。

バンドの活躍の場が多様化する一方で、リスナーや世間ではジャンル名や、土地名、そしてY2Kなどの世代で括ろうとする風潮が未だあります。

そうした押し付けられるジャンルとの摩擦、そこからのアイデンティティの喪失など、今2023年の若者が直面している苦しみをリアルにギターサウンドに落とし込んだ傑作だと思います。

苦しみも多様化していき、居場所も失われ、ノスタルジーにすがっていく、こういうコロナ以降の邦オルタナのムードありますよね。インターネット文化、邦ロックを通過したような。

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10〜1位

10位 Haralabos [Harry] Stafylakis『Calibrating Friction』〈New Amsterdam Records

Haralabos [Harry] Stafylakis『Calibrating Friction』ジャケット

カナダのグラミーとも呼ばれるJUNO賞にもノミネートされたNYのコンポーザーのデビューアルバム。

Progressive MetalとClassicを見事に融合させた一枚。

MetalとClassicは一見正反対のジャンルに見えますが、融合させることによって、Metalの獰猛さ、Classicの繊細さが互いに補い合い。マックスとミニマムが大きく広がり見たことのない景色を見せています。

大学で鉄筋コンクリートについて学んでいて、鉄筋が引張、コンクリートが圧縮の力に強く両方の性質がうまく合わさって強固な材料ができる。このアルバムもそういった理にかなった組み合わせで成立しているなと思います。

ジャンルの性質を良く見定めたプロの技が光る、そして両ジャンルへの深い愛も感じる傑作です。

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9位 矢野顕子 & 野口聡一『君に会いたいんだ、とても』〈Victor Entertainment

矢野顕子 & 野口聡一『君に会いたいんだ、とても』ジャケット

シンガーソングライター矢野顕子、そして宇宙飛行士野口聡一のコラボアルバム。

野口聡一が宇宙生活の間に書いた14編の詩を矢野顕子が歌とピアノのみで曲にして作られた一枚。

野口聡一の楽曲用に作ったわけでない詩をしっかりとポップスに仕上げる矢野顕子の才能にまず脱帽。楽曲にしているどころか歌とピアノのみで本当に宇宙空間にいるような感覚に陥ります。

最初の曲"ドラゴンはのぼる"では、ロケット打ち上げの加速していく感覚、体にGがかかっていく感覚、そして無重力になる感覚を本当に感じられます。

野口聡一の詩もリアルに宇宙生活がよくわかるような詩で無駄に壮大過ぎず、矢野顕子のピアノと歌声のみのサウンドとマッチしている。従来だったら音楽で宇宙を表現するにはオーケストラもしくはシンセサイザーを用いてSF的なアプローチで壮大にしていたものだが、素朴な詩とピアノと歌のみで宇宙を表現している。

このアルバムは月旅行も実現し、宇宙が我々の生活に近づいている今の時代にあっているし、宇宙に対する希望がよりリアルに表現できているなと思います。

最もシンプルに最もリアルに宇宙を表現した広く聴かれるべき名盤。

矢野顕子はずっと宇宙旅行が夢だったらしく、今でもそのために運動を続けているそう、角松敏生などベテランの方々が夢を追い続ける姿はとてもエネルギーをもらえますね。

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8位 bar italia『Tracey Denim』〈Matador Records

bar italia『Tracey Denim』ジャケット

ロンドンを拠点とする3人組の3枚目のアルバム。

このバンドは元々Dean Bluntのレーベル〈World Music〉からリリースしていて、今作はNYの名門〈Matador Records〉からのリリース。

このバンドはミステリアスさが魅力だと思っていて、そのミステリアスさは〈World Music〉由来のものだと考えていたので、レーベル移籍で魅力がなくなってしまうのではないか危惧していました。

しかし、そういったことは全く無くミステリアスな雰囲気をまとった傑作をリリースしてきました。安心したし想像を超える作品をリリースしたのは良いのですが、ではこのミステリアスさはどこから来ているのでしょう?

それが1年考えても全くわかりませんでした。シンプルにカッコいい曲ばかりなのに、なぜか謎があるように聴こえるSlacker Rock傑作です。

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7位 Nondi_『Flood City Trax』〈Planet Mu

Nondi_『Flood City Trax』ジャケット

ペンシルベニア州のプロデューサーのデビューアルバム。

ノスタルジーというより歴史の教科書の19世紀の人々を捉えた白黒写真を見た時のような感情に陥るFootwork。
Ambient、Shoegaze、Vaporwaveでもないオリジナルな音像。

Nondi_の住んでるジョンズタウンはFlood City(洪水の街)と呼ばれていて、過去2度大きな洪水被害に見舞われており、それにより人口が減り続けてるそう。古い書籍や写真のようなザラザラとしたサウンドから自身の住んでる街の歴史に目を向けて、当時の人々を思いながら作られたのだろうなと良くわかります。

水にフォーカスした作品は、透き通るようなテクスチャーや揺らめくイメージから優しいサウンドになりがちです。例えば2023年で言うとmaya ongaku『Approach to Anima』Gigi Masin & Rod Modell『Red Hair Girl At The Lighthouse Beach』などが挙げられます。

しかし、このアルバムでは洪水という水の恐ろしさにフォーカスした今までにないアルバムだと思います。水のテクスチャーを上物、洪水の勢いをビートで表す、Footworkというジャンルの性質が存分に生かされているのも素晴らしいですね。

2024年も元日から能登半島地震による津波が発生し、多くの被害がありました。津波だけでなく、今後温暖化の影響で激甚化していく気象災害など日本は水に関する災害に苦しめられてきました。そういった水の恐ろしさの面を描いていくことはとても重要なのかなと思います。

私のポッドキャスト『新風の候』でも取り上げました!

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6位 5kai『行』〈for us

5kai『行』ジャケット

京都出身2人組バンドの2枚目。

Slowcore、Emoのギターサウンドをベースにしつつも、ダブルドラムによる複雑なビートや電子音楽的アレンジにより、IDMに接近したサウンド。

似たようなサウンドを鳴らしているのがオレゴン州のKaho Matsui。この人はIDMにEmoっぽい即興ギターを重ねるのが特徴で、2023年の元日にリリースした『NO MORE LOSSES』はその中でもよりバンドサウンドを取り入れてSlowcoreやEmoに接近しています。

最近Claire Rouseyが提唱しているジャンル「Emo Ambient」がUSのアーティスト中心に盛り上がってきています。Kaho Matsuiだったり、Plume GirlなどAmbientやIDMにEmoギターやField Recordingsを足してエモーショナルに響かせるのが特徴で、5kaiは無意識にそのシーンに接近していて個人的にかなり面白いなと思いました。

あと5kaiのギターはハガネを超えた肉の音がするので好きです。

「Emo Ambient」を感じるプレイリストを作ったのでぜひ聴いてみてください!

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5位 7979 『『~アンド・リーミークシーズ・フォレバー~』= & remixes FOREVER』(Not on label)

『『~アンド・リーミークシーズ・フォレバー~』= & remixes FOREVER』ジャケット

フランスのプロデューサーによるリミックスアルバム。

TWICEやNiziU、LE SSERAFIMなどのKアイドル、PerfumeやRYUTistなどJアイドルの音源を極限までスクリューさせ、リバーブ、エコーをこれでもかとかけた、VaporwaveやAmbient、Shoegaze、Slowcoreにも接近する異常リミックス。

アイドル楽曲を遅回しすることで見えてくるのは、苦痛。引き延ばされた歌声は叫びのようにも受け取れ、まだ未成年の少女たちが身体や時間を削り見せてくれる夢は果たして美しいのだろうか、そんなことを考えさせられる。ラストのNiziU"Need U"30分引き延ばしは圧巻。

2023年は特にアイドルにフォーカスされた1年だったように思います。YOASOBI"アイドル"、ジャニーズ事務所性加害問題などなど、そういったアイドルにまつわる諸問題を、遅回しというシンプルな手法で考えざるを得ないサウンドを作ったのは凄いと思います。

2023年はNewJeansやLE SSERAFIMといったK-Popにどっぷりハマっていました。DJでもK-Popを多くかけてて、bandcampやSound Cloudで常にK-Pop remixを探していました、そんな中でこのアルバムを見つけました。こういった私のパーソナルな経緯でたまたま辿り着いたというストーリー込みで印象深いアルバムです。

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4位 Symposium Musicum『Symposium Musicum』〈Mappa Editions

Symposium Musicum『Symposium Musicum』ジャケット

2019年、スロバキア東部・北東部のロマニ族の住む村で録音されたアルバム

熱心に計画されたフィールドワークのField Recordings、インタビュー音源とポストプロダクションから生まれるドキュメンタリーのような1枚。

インド北西部から多世代にわたり移住を繰り返しロマ二・コミュニティへの熱心な調査から生まれる、その村で生活しているようなField Recordings、そしてそれに対する先鋭的なポストプロダクション。子ども達の遊ぶ声や村の生活音などの穏やかな静寂を切り裂くようなノイズ、サブベースは衝撃的。

このアルバムの穏やかな村を蹂躙していくようなサウンドから想起するのはやはり戦争。2023年は世界各地で戦争が起こりました。未だ争いが続いき、毎日のように老若男女問わず多くの方々が亡くなっています。

社会的に分断された文化と村の生活を体験するような没入感、そして戦争の暴力性までもリアルに感じさせてしまうField Recordings~Experimental衝撃作です。

Mappa Editions〉は2023年最も良いレーベルだったと思います。Ambient、Field Recordings、Experimentalで凄まじいリリースばかりでした。

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3位 Samuele Strufaldi, Tommaso Rosati & Francesco Gherardi『t』〈Elli Records

Samuele Strufaldi, Tommaso Rosati & Francesco Gherardi『t』ジャケット

イタリアのピアニスト、アメリカの電子音楽家、イタリアのタブラ奏者によるコラボアルバム。

ピアノ、タブラ、ライブエレクトロニクスそしてピアノの中に仕込まれたロボットとの即興セッション。

タブラ、ピアノ、ライブエレクトロニクスそしてロボットという音楽そして人間の過去、現在、未来を辿るような楽器構成から繰り広げられる、Jazz、Minimalism、ダンスミュージックどれでもない未知のグルーヴ。

シンプルに2023年で一番新しい事をやっていたと思います。確実に未来の音楽。

スタジオライブの映像も凄まじいのでぜひ。

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2位 cero『e o』〈KAKUBARHYTHM

cero『e o』ジャケット

東京の3人組の5thアルバム。

コンセプトを設定せずマンションの一室や事務所の一角などでじっくりと作られていった1枚。

コンセプトを設定してないとバンド側は言ってますがそれは嘘です。嘘というより設定はしてないけれども浮き出てきてしまっているというか、その浮き出てしまっているコンセプトというのは私が考えるに「cero」だと思います。

いままではThe Beatles『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』など架空のバンドをコンセプトとするアルバムはありましたが、バンド自身をコンセプトとするものはありませんでした。なぜならバンド自体をコンセプトとするのはほぼ不可能だからです。

バンドというのは主体であり、どう客観視しようとも主観になってしまいます。ですが、その客観視を成し遂げたのがこの『e o』であると考えます。

マンションの一室、事務所の一角で何年も行われた議論、そして各々のソロプロジェクトを通じて3人はceroの役割とは何かについて結論が出たのだと思います。

その役割というのは私が考えるに「東京の都市を描く」ということ。ceroというバンドは東京インディー、ネオシティーポップなどというブームに乗る中で、Jazz、Rock、Folk、Hip-Hop、Danceと様々なジャンルを通じて都市と音楽の関係を描いてきたバンドだと思います。

Sampha『Lahai』で音楽シーンを俯瞰することを、空を飛ぶと例えましたが、ceroはさらに上のレベルの客観を達成しているため、空を飛ぶというより4次元から3次元空間を見ているという表現の方が近いでしょう。

そしてceroは客観視により辿り着いた4次元から、自身の役割である「東京の都市を描く」を実行するため東京を見つめます。そうすると街に人がいないことに気が付きます。そしてそのまま「人のいない東京」をそのまま出力し、『e o』を作り出したのです。

今回のアルバムにおいて最も凄い点は、このコロナ禍の「人のいない東京」をそのまま出力したところにあると思います。

コロナ禍の東京を描いたアルバムは2020年以降いくつかリリースされてきました。カネコアヤノ『よすが』、GEZAN『あのち』など様々ありますが、皮肉や抵抗など一人称視点のアルバムが多く都市について描けていたアルバムはありませんでした。

誰もいない東京をただそのまま写すという、一見簡単そうに見える難題を4次元的視点を持つことでやってのけたコロナ時代を代表する名盤だと考えます。

私のポッドキャスト『新風の候』でも取り上げました!ポッドキャストのほうが分かりやすいかもです!

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いよいよ1位です!!!






1位 LUNA SEA『MOTHER』〈avex trax

LUNA SEA『MOTHER』ジャケット

日本の5人組が1994年にリリースしたアルバムの再録。

2023年は全体を通して「まとめる」、「終わらせる」といったムードがあったように思えます。ベテランで言うと、坂本龍一『12』、角松敏生『Inherit The Life II』、矢野顕子 & 野口聡一『君に会いたいんだ、とても』。中堅どころだと、cero『e o』、カネコアヤノ『タオルケットは穏やかな』。メインストリームでもKing Gnu『THE GRATEST UNKNOWN』、Vaundy『replica』というようなアルバムでどうまとめるか、どう終わらせるかが2023年のテーマでした。

LUNA SEAも同様に35周年を迎えるキャリアを総括するために再録アルバムを出すのだろうなと思っていました。

しかし、聴いてみると全く違う、LUNA SEAは「まとめる」、「終わらせる」のではなく「始めた」のです。

当時と全く違うミックス、アレンジ、サウンドに度肝を抜かれました。

最も印象的だったのは6曲目の"AURORA"。
そもそも私がLUNA SEAを聴き始めたのがmy bloody valentine『loveless』再発の際にあったSUGIZOがマイブラについて語った記事で、マイブラを再現しようとしてどうしてもできなかったのがLUNA SEAのサウンドというようなことを書いていて、そこから興味を持って聴き始めました。

元々"AURORA"のギター入りはただ大きいギターという感じだったのですが、再録バージョンでは完全にShoegazeしていて、昔出来なかったことが数十年のキャリアを経てできるようになったということ、そしてあれだけの名作を完成させておきながら成長し続けているLUNA SEAに対してとても感動しました。"AURORA"だけでなくすべての曲のアレンジが大きく変わっていて何度も驚かされます。

ミックスも変わっていて、Jのベースがより聴こえやすくなっています。当時はベースが後ろにあって存在感があまりなかったのですが、ベースを前に出すことでよりLUNA SEAのライブに近づいたサウンドになっていて、より臨場感のあるものになっています。このライブ感によりアルバム全体の生命力や加速度が上がり、現在進行形のバンドであることを感じざるを得ないです。

アレンジで昔出来ていなかったことを達成することにより、数十年のキャリアの提示、そしてミックスによりライブ感を表すことでLUNA SEAは現在進行形のバンドであることを示している。キャリアの総括という「まとめ」、再始動した現在進行形のバンドである「始まり」という2つを見事に示したアルバムだと思います。

2023年で始めていたのはLUNA SEAだけでした。

私のポッドキャスト『新風の候』でも取り上げました!

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最後に

大変長くなってしまいました、枚数は昨年の4倍です。沢山書こうという気は無く、単純に良いアルバムを挙げていったらたまたま40枚になりました。

先ほども言ったとおり、2023年は多くの方々の訃報も合わせて、「まとめる」「終わらせる」ムードがありました。それは音楽だけでなく宮崎駿『君たちはどう生きるか』など映画でもあったかなと思います。

それと同時にリメイクの年でもありました。スラムダンクに始まり、『シン・仮面ライダー』などなど映画やドラマでリメイク作品が多く作られていました。「まとめる」「終わらせる」ムード、そしてこのリメイクの流れにLUNA SEAも乗れていたかなと思い、2023年の1位に選ばさせていただきました。


今年は私自身本当に色んなことがあって、SNSや人との付き合い方について改めて考え直す1年でした。インターンや学祭など様々な人と関わって社会の一部であるとようやく理解できたかなといった感じです。

音楽に関しては、新譜の情報源がある程度整理されてきたり、良いアルバムの基準が自分の中で固まってきたりしたので、聴いたアルバムの枚数はだいぶ減りました。

大学で学んでいることも関係しますが、この一年でアルバムのデザインについてよく考えるようになりました。楽曲がどういう風に作用しているのか、制作手段がコンセプトにあっているかどうか、無駄なくシンプルにアプローチできてるかなど、デザインの視点で評価するようになりました。

サウンドトラックやBGMはどうしてもデザインが介入しなければならないジャンルなので今年は良く聴きました。V系やアイドル、アニソンもそういうところあると思います。

やはり私はアルバムというフォーマットが好きで、アルバムの中でのアプローチやシステムについて勝手に考えるのが面白いですね。そして今年はそれをnoteとかポッドキャストでアウトプットできたのでより楽しかったです。

音楽聴く時間が減った分ポッドキャストや映画、運動など色々なことに時間をあてられたので割と充実した毎日を過ごせたかなとおもいます。


2023年はWet Legのような新星バンドも現れず、ベテランや中堅が強い感じでしたね。2024年はThe Last Dinner Partyのリリースが控えているのでまたガラッと変わる一年になると思います。リメイクとかでなくそろそろ新しいものを摂取していきたいですね。

2024年は結構忙しくなるので音楽と関わる機会は多分減ります。あまり期待せずフォローしていただけるとありがたいです。

ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。
2024年もよろしくお願いいたします。

それではまた次の記事でお会いしましょう。

バイバイ!



今年書いた記事

四半期ベストはもう少ししたら続き出そうと思います…


他のメディアで書かせていただいた記事

0字レビューは自分のやりたかったことができた気がして楽しかったです。Water Walkさんありがとうございました。


アルバムリスト

1位 LUNA SEA『MOTHER』
2位 cero『e o』
3位 Samuele Strufaldi, Tommaso Rosati & Francesco Gherardi『t』
4位 Symposium Musicum『Symposium Musicum』
5位 7979 『『~アンド・リーミークシーズ・フォレバー~』= & remixes FOREVER』
6位 5kai『行』
7位 Nondi_『Flood City Trax』
8位 bar italia『Tracey Denim』
9位 矢野顕子 & 野口聡一『君に会いたいんだ、とても』
10位 Haralabos [Harry] Stafylakis『Calibrating Friction』
11位  Cruyff『lovefullstudentnerdthings』
12位 aja monet『when the poems do what they do』
13位 Mingjia『star, star』
14位 PoiL Ueda『Yoshitsune』
15位 Sampha『Lahai』
16位 マカロニえんぴつ『大人の涙』
17位 カネコアヤノ『タオルケットは穏やかな』
18位 Shame『Food for Worms』
19位 Sam Wilkes『DRIVING』
20位 Sunny Kim, Vardan Ovsepian & Ben Monder『Liminal Silence』
21位 Kyrie『DEBUT』
22位 小野川浩幸『August in the Water: Music for Film 1995-2005』
23位 Academy of Light『Open Air』
24位 Bianca Scout『The Heart of the Anchoress』
25位 Yalla Miku『Yalla Miku』
26位 De Toegift『De Toegift』
27位 小久保隆 & Andrea Esperti『Music For a Cosmic Garden』
28位 Gigi Masin & Rod Modell『Red Hair Girl At The Lighthouse Beach』
29位 maya ongaku『Approach to Anima』
30位 TKB『Dream Nightclub』
31位 Avalon Emerson『& The Charm』
32位 Detalji『Truly』
33位 角松敏生『Inherit The Life II』
34位 Oliver Coates『Aftersun (Original Motion Picture Soundtrack)』
35位 I'm Not You『New Bright Object』
36位 菅野よう子『「舞妓さんちのまかないさん」オリジナル・サウンドトラック』
37位 Peg『Sideshows』
38位 KOU『KOU』
39位 うすらび『Outside of the world』
40位 Jerskin Fendrix『Poor Things (Original Motion Picture Soundtrack)』

アルバムまとめ画像

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