3-1.義理

大学から判定通知が届いたのは、面接から1ヶ月を数えようとしていた頃。
筆記試験に感じた手応えとは裏腹、全くと言っていいほど答えを出せなかったあの面接があったからか、多少の驚きと共に目に飛び込んできたのは、赤色で書かれた合格の文字。

それまでの僕は、試験というのは点数を競うものだとばかり思っていて。
高校入試のそれとは別のその合格のふた文字が、人間として、いや大人として認められたような気にさえなって。
だからこそ僕の中の期待は、あくまで淡く。それだけに嬉しかった。

通知を持って会いに行ったのは、マエセン、ノブオさん、カツさん。
一様に素っ気ない態度だったのは、立派な大人の為せる何かなのか。
僕はその時点ではまだ何も理解していなかった。

進路が決まってからというもの、前向きな要因でバイトの時間を減らした僕に、カツさんは黙って背中を押してくれた。
これまで、未熟な自分が迷惑を掛けたであろう人達に、禊と称し会いにいく時間が欲しかったんだ。

順番など何も決めていなかったものの、最初に選んだのがアオキだったことが当時の僕の弱さを顕著に表していた。
一足先に卒業し、当時岡山県での寮生活を始めていたかつての戦友を訪ねたのは、秋も深まってきた頃。

主要駅前に新幹線で辿り着いた僕を、あいつは車で迎えに来てくれて。
たった半年ほどで随分な、人としての成長をあいつの中に感じたんだ。

僕がアオキを訪ねた理由は、野球を通して見えた僕自身の話がしたかったこと、あの時他の部員との垣根を取っ払い、仲間にしてもらったお礼を言いたかったこと。
結局は、禊という聞こえのいい言葉を使いたかっただけ、どこまでいっても自分の事しか考えられていない事にすら気付かず。

繁華街へと向かうには、一度寮に戻り車を置く必要があるのだそうで。僕は促されるまま乗り込んだ助手席の上で、なんだか大人びて見える彼への羨望と久々の再会までに費やした時間とで、照れ臭さを隠せずにいた。

当然、もっとも大きな共通点と言えば間違いなく野球。
否応無しに野球の話をしようとする僕を、運転席のアオキが怪訝な表情で制す。

野球の話はやめようや

冷たい、いや僕がそう感じただけなのかもしれない、そんな一言が放たれた。
言葉を失う僕に、あいつは何かを追話するわけでもなく。
以前の心地よさなど無かったかのように、かつてのライバルとの間に走るとりとめもない緊張感。

初めて乗る車の車窓から、初めて見る道を見るともなく眺め。
初めての感覚を伴いながら、あとどの位掛かるのかもわからず。

しんと静まり返る車内は、ロードノイズだけを響かせながら夕焼けの沈む方向に走っていた。

ほとんど会話もなく。


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