3-3.空虚

意外と、というかやはり、というか。
禊と称して行った懺悔の行脚では、結局僕の欲しかった答えは見つかる事はなく。相応に生まれる、新しい疑問。
それと共に、毎年繰り返される加齢からなのか、これまで無かったはずの感覚が自分の中に湧き起こっていた。

疑問とは、みんな自分自身を知らないのではないか、ということ。
感覚とは、お金が欲しい、ということ。

アオキと会ってからというもの、好きな時に好きなだけ、自分の思った通りにお金でもって欲を満たすという行為をする人達を見て、羨む心がある僕自身に気が付いていた。
これまで出会った大人達のそれは、とてもささやかなものだったはずで。
いや、今考えるとそんな事に興味すらなかったからか、見えていなかったのか。

自分の事を、貧乏だったんだと初めて意識したのもこの頃。
遅すぎる世間への接触は、僕を容易にどん底に突き落としただけでなく、新たに湧いた興味の対象物への執着となって僕の体を取り囲んだ。

大学に編入するまで数ヶ月、その間に出来る事は全てやろう。
そう思って取り組んだのは、バイトと少しだけかじったことのあったギャンブル、それから読書。
世の中の立派な大人が何を考えているか知りたくて、ビジネス書を読み漁った。

教科書には載っていない、大人になるための近道を見つけたような新鮮な感覚ではあったものの。読み深めて行くほどにマエセンやノブオさん、カツさんといった身近に居た立派な大人が教えてくれた大切なこと、これとどんどんかけ離れて行くような寂しさを同時に覚えていた。
少なくとも、彼らが僕にお金を意識させたことが一切無かったからだな。

学んだことを実践する場として、パチンコ屋はうってつけだった。
毎日開いていて、人が多く夜も遅くまでやっている。なるほど、こうやって大人はギャンブルにハマっていくんだな、とか思ってたっけ。
とにかく、本で読んだことの殆どはそこに行けばすぐに実践できた。

パチンコの構造はシンプルかつ明確、勝てばお金が増え、負ければお金が減る。
加えて非常に効率の良い即金性。どうすれば効率良く勝てるのか、を試行錯誤する毎日。
検証すべき内容は多々あった、完全確率とは言えその揺らぎからくる波の存在、お店の癖とレート、他者の存在、そして時給。
きちんとデータ化すれば勝率は確実に上がるはずだ、という自負に似た自信から、早く検証をしたいという欲に満たされる僕の脳内。

そもそも、ここまでの勉学を振り返った時、仮説と検証という物理学論でいう実践が好きだった僕にとって、新たな検証課題を発見した高揚感に包まれるには十分すぎた。

あの時居酒屋のアルバイトで感じた、社会に対する漠然とした不安はお金を追いかけることで解決するんじゃないか。当時の浅はかな僕はそんな風に思っていたんだろう。
とは言えお金とは、何をするにも必要な物質であることは容易に理解できていたし、その時点で出した答えにさしたる疑問は湧かなかった。

周囲にいつも居た、いや、寄り添い居てくれた立派な大人たちが、必死で抑えようとしてくれていた感覚。
それを縛り付けられていたと勘違いしていた幼稚な僕が、今考えても絶対に間違いだったと言い切れる選択をし、頭の中から消えていく当初の目的と、お金を稼ぐことだけを目的とした毎日の選択と行為。

僕はこの時、消し去ろうとした不安の渦に自ら意気揚々と飛び込んでいたことに、全く気付いていなかった。

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