Patti Smith - Horses (1975)

　唯一無二のニューヨークパンクの女王として君臨しているパティ・スミス。シーンに登場するのは1973年頃だけど、詩人である彼女はデビューに気を遣っていた。29歳のデビューなので60年代のアーティストに近い感覚。彼女が影響を受け、カバーしている曲はザ・フーやボブ・ディラン、またジム・モリソンやランボー、そして有名なヴァン・モリソンの「Gloria」。当時ニューヨークのアンダーグラウンドシーンでは凄い存在で、そのパフォーマンスは噂が噂を呼んでいた。彼女の名前を知った時は既に伝説の存在で、全盛期のライブの様子は映像で見た事がないけど気になってた。1973年頃にはNYドールズの前座でたった一人でステージで詩の朗読を行った度胸には恐れ入る。

　1975年に大手レーベルアリスタからアルバム「Horses」でデビューしたが、凄くラフな演奏に魂のこもった説得力のある歌で聴き手に迫ってくるサウンドには惹き込まれた。アルバムジャケットも中性的なイメージでクールな写真。かの有名なロバート・メイプルソープによる有名なアートワークが、ここまでアルバムのイメージを写し出すものか。実にニューヨークらしい芸術的センス。アルバムの中身も刺激的で、「Gloria」の斬新なアレンジはヴァン・モリソンのオリジナルを軽く超える迫力でパティ節を確立した一曲。レガシーエディションだとボーナストラックのレア曲「My Generation」で自らの影響をさらけ出しているけど、その間に収まっている曲は今やどれもスタンダードな名曲。ファーストアルバムだけでは語れない彼女の70年代の作品はどれも外せない。最近「Horses」のレガシーエディションでリマスタリングされたオリジナル音源に加えて、2005年にアルバムそのままの曲順で演奏されたライブがディスク2に収録された驚くべきセットが発売されている。その間30年、彼女の生き様を埋めるかの如く収められたこの音源は本当に重みがある。

　1996年に最愛の夫と友人を亡くしたパティは自分のため、子供のためにシーンに返り咲き、復活作「Gone Again」をリリースした。以前よりも更に魂の籠もった凄みを増した作品は重く響いた。音的にはそんなに重くないけど、情念が重いのか凄く疲れるアルバムだった。しかし彼女の再起は寝た子を起こす魔法が宿っていて、ワールドツアーで来日公演が実現した時、初めてステージでの彼女を見れたのは幸せだった。それは全盛期とは異なるステージだけど圧巻だった。重みがヒシヒシと伝わって、楽しむためだけのライブではなく、彼女の人生を皆で共有するライブだった。昔からの仲間のレニー・ケイと共にバンドを組めているのも幸運だろう。以降コンスタントにアルバムをリリースしているけど、今でもアングラの女王に変わりはない素晴らしいアーティスト。