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2019J1第4節 大分vs横浜M@ビッグアイ

スタメンはこちら。マリノスは、ミッドウィークのルヴァン杯湘南戦に70分まで出場した三好がリーグ戦も引き続きスタメン。あとのメンバーは川崎戦と変わらず。今週最大のトピックは、初のA代表選出の畠中だろう。代表合流前最後の試合となるだけに、良い流れで代表合宿に望みたいところだろう。
一方の大分は、システムをここまでの試合で採用してきた5-2-3から、中盤の枚数を増やす5-3-2に変更してきた。ボール保持時に2-3-5の形になるのに対し、ガッチリと噛み合わせてきた格好であり、これは完全にマリノス対策としてシステムを変えたと見るのが妥当だろう。

【誤算 〜ことごとく空転したマリノスのプレッシング〜】
この試合の最大の誤算は、大分にはマリノスのプレッシングに耐えうるほどのビルドアップの能力が3バックはもちろんのこと、キーパーの高木駿にも備わっていたことだろう。
前節の川崎戦の序盤もプレスが効かず、ボールの取り所に苦労したが、川崎のプレスのいなし方は、狭いスペースで超スピードでパスを回す、という各人の圧倒的な技術の高さに依存したものだった。しかし、今節の大分は、実に論理的にプレスを回避してきた。
先述した通り、キーマンはGK高木駿だった。マリノスの3トップが最終ラインにプレッシャーをかけても、3バック+GKで数的優位が作れるため、ボールを動かしながら時間を作り、高い位置を取った逆サイドのウイングへロングボールを送る。攻撃時にSBが中へ絞り、プレッシングの際は逆サイドを捨てて人数をかけるマリノスにとって、この逆サイドへのサイドチェンジは”天敵”である。

象徴的なのが前半9分のこのシーン。一瞬ボールを持つ大分DFへのチェックが遅れたところを見逃さず、逆サイドの高山へ。そこから後手を踏み、テンポ良くパスを回され危うく失点の大ピンチに。
本来であれば、逆サイドに出されないよう、コースを限定し、同サイドでボールを取りきるのが理想である。しかし、相手のレベルが高ければそう上手くは行かず、1試合の中で常にそれができるとは思えない。必ず二の矢、三の矢が必要になる。このシーンで言えば、広瀬が高山が高い位置を取る動きに対して早い段階でチェックに行き、高山に前を向いてボールを持たせないことが大切なのではないか。
もっとも、これの直前の前半7分のシーンで、同じような形から広瀬が高山に裏を取られたのをファールで止め、イエローカードをもらっていたことは、このシーンを生み出す重要なファクターだった。高山に対して強く当たることができず、裏を取られることを警戒した。

※前半7分のシーン


【5-3-2の特徴と構造的弱点】

5-3-2の強みは、中盤の3枚と前線の2枚の計5枚でプレスをかけることにある。この3-2のユニットが五角形を保ちながら前後左右にスライドし、五角形の中にいる相手選手にボールが入った瞬間に奪いにかかる。この3-2ユニットがスライドを繰り返すことによって、ボールサイドにおいて常に数的優位を作ることができる。イメージとしては、5人が手を繋いでボールサイドに寄っていく形。

では、仮に五角形のスライドが間に合わなかったらどうなるか。
5バックが晒され、シュートやクロスといった様々な選択肢が相手に与えられる。つまり攻略法としては、五角形を同サイドに食いつかせた上で素早いサイドチェンジを行い、スライドを強いる。これが鉄則と言えるのではないか。
上図で言えば、青い印を付けた、五角形の脇のスペースに人を立たせ、そこに素早くボールを入れる、というものだ。

【大分のプレッシング】

大分は、上図のような形でマリノスのビルドアップを封じてきた。まず2トップの後藤と藤本は、1人がボールを持つマリノスの片方のCBにプレスをかけ、もう1人が喜田をマークする。これを繰り返していた。これは、ビルドアップのキーマンである喜田を封じるための策だろう。
また、中盤の3枚だが、ボールサイドのIHはマリノスの”偽SB”をマークし、残りの2人はそれに合わせてスライドをする。また、万が一喜田にボールが入った場合はしっかりとプレスをかけて自由を奪う。
そしてこれは特にマリノスの左サイドで見られた形だが、マルコスが下りてボールをもらう動きに対しては、右HVの岩田or右WBの松本が付いていき、空いたスペースはDFラインをスライドさせることによってスペースを埋める。
この動きが徹底されていた。

【すぐに気づいた高野、すぐに気づけなかったティーラトン】
記憶に新しい仙台戦、同じように中央を締める5-3-2のブロックを組んできた仙台に対し、マリノスはサイドのスペースを使って前進し、守備組織を破壊していた。
左SBの高野は、前半5分ほどで仙台のブロックが中を締めにきていると気づき、パスコースを作るためにSB本来の位置でボールを受ける機転を利かせ、サイドからの前進を促した。
では、この試合は何が違ったのか。
まず、試合を通して右サイドの3人は比較的スムーズにボールを前進させることができていたと言って差し支えないだろう。相手のプレッシャーを単独でいなすことができ、左利きのため中を向いて豊富な選択肢を保ったままボールが持てる三好が大分の五角形の脇でボールを受け、代わりに広瀬が高い位置を取る。大分の組織されたスライドがあったため、同サイドの3人のパス交換でシュートまで持っていくことシーンは少なかったが、詰まったらサイドを変えるなど、柔軟なプレー選択ができた。やはり三好がいるとこのチームは変わる、、。

一方の左サイド。試合に出るようになって間もないティーラトンは、まだ「分かっていない」ようだ。相手が中を締めてくるのに対し、”偽SB”のポジションを取ったまま。よって、大分の中盤ティティパンがマークしやすい構図を自ら創出してしまった。先ほどの【大分のプレッシング】の項の図を見てもらえばわかるように、畠中がボールを持った際、喜田へのパスコースが封じられ、ティーラトンが相手の背後に隠れてしまうため、畠中は飯倉とチアゴしかパスコースがなく、ノッキングを起こしていた。まだティーラトンは、”偽SB”が”手段”ではなく、”目的”となっていることの証左と言えるだろう。

この状況を見かねた天野が、パスを受けに下がってくるが、大分はここにも素早いチェックをかけ、前を向かせてくれない。キープ力に優れる天野だが、相手を背負った状態から前を向くことは至難の技だ。また、左足でボールを持つことが災いし、中を向いてボールを持つことができない。よって、パスコースがより制限されてしまう、という悪循環だった。象徴的なのが、以下の二つのシーン。

天野のところでボールが相手に渡ったシーンだが、合理性で考えればこの位置でボールを受けるべきなのはマルコスだったのではないか。相手を背負いながらパスコースを探し、正確なキックで逆サイドに展開することもできる。

例えばこのような形。パスの選択肢は以下の通り。

①相手の意表を突いて天野へパス
②逆サイドのチアゴor広瀬に展開
③畠中へバックパスしてやり直し

【”幅を取る”ということ】
これも左サイドにおいて生じていた問題。まだ関係性がうまくできていないことに起因するのだろうが、早急に深めなければゴールを決めることが難しくなってしまう課題である。
このサッカーをやるに当たって、幅を取らなければならない。なぜ幅を取るのか。
相手の陣形を横に広げることによって、真ん中のスペースを空けるためである。
そこで空けた真ん中のスペースを天野や三好が有効に使うことによってゴールを奪う。マリノスの狙いはそんなところだ。もし幅を取らなかったら、相手の守備陣形を広げることができず、コンパクトで理想的な守備を相手にさせることになってしまう。

上の図が、後半17分のシーンである。マリノスの選手が真ん中に集中し、誰も幅を取っていない。ここで、大分の5バックに注目して欲しいのだが、5枚がペナルティーエリアの幅に収まってしまっている。この状態では、真ん中のスペースを空けることができない。

一方、これは直後の後半18分のシーン。この間にマルコス→遠藤の交代があり、左サイドの高い位置に遠藤はポジショニングをして”幅を取っている”。また、画面には映っていないが、仲川も右サイドいっぱいに広がったポジションを取っている。
その結果空いた中央のスペースを三好、天野、エジガルが有効に活用してシュートまで行ったシーンである。ゴールにこそならなかったが、”幅を取る”ことの重要性が詰まったものだった。


【失点シーンは防げるものだったか】
この試合は、後半立ち上がりの2失点が重くのしかかって敗戦に至った。どちらも綺麗に崩されたように見えるが、本当に防げなかったのか、見ていきたい。

まず1失点目。中盤でティーラトンの縦パスをカットされたところから大分のカウンターが発動。そもそもティーラトンにはあまり強くプレッシャーがかかっていなかったにも関わらず、わずか5mしか離れていない相手選手にカットされてしまったことは問題だと考えられるが、、、
大問題なのは、そのあとの対応。

これは、失点する直前の画像である。この局面において5vs5の数的同数が作られている。普通ならば、この状況で失点することはないだろう。同数であれば、各人が各個撃破で防ぐことができるからだ。
裏を返せば、誰かがサボった時点で数的不利になってしまう。
このシーンでは、ゴールを決めた藤本の前を走っていたはずの天野がスプリントを怠り、藤本をフリーにさせている。ここでハードワークをしていれば、間違いなく防げたはず。次節以降に向けての反省である。

続いて2点目。スローインから綺麗に逆サイドへ繋がれ、またしてもクロスからの失点。常に大分の後手を踏み、最終的にサイドで数的同数の局面から、本来マリノスが得意とするはずのインナーラップでサイドを破られた。ゴールを決めた藤本の、畠中の死角から飛び出す動きとシュートのアイデアは褒め称えなければならないが、この場面は、数的同数の状態からいとも簡単にサイドを破られてしまったことに問題がある。

岩田のインナーラップに対し、マルコスがついて行かず、ティーラトンが単独で2人を見なければならない形になっている。単純にマルコスが岩田について行くべきではあるが、もし、チーム戦術としてマルコスに自陣深くまでの守備をさせないのであれば、他の施策が必要となろう。このシーンのように、簡単にサイドを破られることを容認したままでは、失点は増え続ける一方である。ここは、早急にチームとしての対応が求められる。

以上のように、この試合における2失点の場面は、”ちゃんとやっていれば”防げたものだと言える。しかし、前半からかなり多くの決定機を作られており、このシーンは防げていても、他のところで点を取られていてもおかしくはない。そんな試合展開だった。


【今週の槙ちゃん】

今回のプレーはこちら。前半34分のシーン。まずは、飯倉からのパスを引き出した動き。自らパスコースを創り出しているのだが、こうした気の利いた動きができるCBは、実はあまり多くない。常にボールに関与する意識が強いのだろう。
その後の、逆足たる左足で通す2本のパスもレベルが高い。かなりスピードのあるパスではあるが、味方がトラップしやすい、お手本のようなパスである。
代表でも、気の利いたレベルの高いプレーに期待したい。


【考察】
この試合は、間違いなく大分を褒めなければならないだろう。限られたリソースの中で、相手の組織を苦しめる施策のアイデアと、選手全員の戦術浸透度はかなり高い水準のものだった。昇格組ではあるが、この調子が続けば中位、ともすれば上位に食い込むことも予想される。素晴らしいチームだった。ホームでのリターンマッチが楽しみだ。

一方のマリノス。左サイドの連係不足がまだまだ発展途上であることを再認識させられた。中でも、ティーラトンとマルコスの連携は今のところ絶望的だ。お互いがハーフスペースに位置取り、幅を取る選手がいない、というシーンが数多く存在した。このあたりは、時間をかけて醸成するしかない。

チームも今季初のリーグ戦黒星となったが、この試合は、ミスのシーンのイメージのみで語るべきではなかった。しっかりと対策をしてくる相手に対し、昨季よりは確実に戦えていた。チャンスも作れていた。あと一本パスが繋がっていたら、というシーンがとても多かった。
決して悲観すべき内容ではない。
全てはこのあとの反発力にかかっている。3/29の鳥栖戦の後に控える浦和戦がその分水嶺となりそうだ。なぜなら、今回の大分と同じ5-3-2を用いる浦和は、この試合を間違いなく研究対象としてくることが予想され、同じ手法を用いてくる可能性が高い。
だからこそ、この試合の反省を生かし、何らかの手を打つ必要がある。この中断期間は、より連携を深め、相手の対策を上回るようなチームになるための2週間にしてほしい。そう願うばかりだ。


3/17(日)16:00 J1第4節 大分2-0横浜

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