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2019J1第8節 札幌vs横浜M@札幌ドーム

スタメンはこちら。マリノスは前節名古屋戦から2人変更。1人はGKの朴が負傷したため、代わりに飯倉が入ったこと、また、前節低調なパフォーマンスだった遠藤に代わって扇原が入る。これに伴い、布陣に大きな変更が生じる。
扇原がアンカーに、喜田がIHに、マルコスが左ウイングに、そして三好が最前線のいわゆる”偽9番”(ゼロトップとも言う)として入る。
こうした新しい試み自体は評価されるべきだ。なぜなら、チームとしての引き出しを増やすことにつながり、あらゆる相手に対応することができる可能性を秘めた試みだからだ。実際に相手のやり方によっては、最前線のワントップの位置に立つ選手が降りてきてビルドアップに積極的に関わった方が効果的な場合もある。よって、チームのオプションとして持っておくには大きな武器になりうるのだ。

一方の札幌。得点源のジェイやプレスを1人で剥がせる、いると厄介な荒野は負傷のため欠場し、メンバー自体は前節と変更なし。しかし、システムを変更してきた。ミシャお馴染みの3バックではなく、4バックの4-4-2を採用してきた。この4バックのシステムは、昨季の対戦や今季のルヴァン杯でも採用している、ミシャなりのマリノス対策である。3トップが横幅を保ち、高い位置を取るマリノスに対し、3バック(守備時は5バック)ではなく4バックを採用することの利点は2つある。

①前線3枚に対して5バックで迎え撃つと、2人が余ってしまい、中盤で数的不利の状況を生んでしまう。②前線からプレッシャーをかけ、ボールを奪うためには、前の人数を増やす必要がある。

4バックにして前線からプレスをかけてくるのが札幌の常套手段。これをいかに剥がし、DFの背後のスペースを突くか、そこがこの試合のポイントとなる。

【札幌のディフェンス】

大変お恥ずかしい話だが、札幌の出方について試合前にこれほど自信満々で語っていたにも関わらず、結局読み間違えてしまった。そう、札幌は思ったより前からプレッシャーをかけてこなかったのである。もちろん、だからと言って自陣でリトリートに徹していたわけでもない。”ミドルプレス”という言葉が適切な表現だろうか、マリノスのDFラインやGK飯倉にはさほどプレッシャーをかけず、中盤にボールが入った段階で猛獣のごとくボールに襲いかかる。縦横にコンパクトさを保ち、中にボールが入った瞬間に素早く囲み、ボールを奪うという設計だ。
マリノスの弱点は、ボール保持時に”必要以上に”選手が動くことだ。その典型例が”偽SB”だ。サイドバックが外に張り出している状態では空いてなかったサイドのスペースが、時間をかけてボールを保持する過程で中にポジションを移す。すると、もといたサイドの広大なスペースが開放される。その段階でボールを奪いにかかり、ボールを奪うと、絶好のカウンターのチャンスとなる。
札幌の先制点は、まさにこの形から生まれている。

このシーンでは、ボールを持って中盤のゾーンに進入を試みた畠中がボールを奪われたところから始まっている。札幌としては、畠中を罠に誘い込んだ格好だろう。そこでボールを奪い、速攻を仕掛けている。
この局面でマリノスは急いでSB裏のスペースを消しにかかったが、かえって真ん中にスペースを与え、アンデルソンロペスに自由にボールを持たせてしまった。結局プレッシャーがかからない状態でチャナティップとアンデルソンロペスがタイミングを合わせることを許し、失点に至っている。
まさに、札幌の狙い通りの形だったと言える。

【マリノスの課題】

下図は、前半38分のシーンを図式化したものである。

図の通り、左右の両脇には広大なスペースが存在し、赤い印をつけたエリアが密集している。この状態であれば、札幌は密集地帯においてボールが入ったマリノスの選手を即座に3人で囲むことが可能である。無論、密集しているエリアでボールを繋ぐのが困難であることは自明であり、これはマリノスにとってなんの利益ももたらさない状態と言える。
このシーンの問題点は、左サイドで幅を取る選手の不在にある。札幌の選手をサイドに引き付け、横に陣形を拡げることができていない。結果的に札幌のやりたいことの手助けをマリノスがしてしまっている。反対に、この場面における右サイドは非常に良いポジションバランスを保つことができている。左サイドもかくありたいものだ。
加えて、広瀬がアンカーの位置に、扇原が”偽SB”の位置にいることも非効率だと言える。展開力やパスのハブ役として力を発揮する扇原は、ピッチ中央にいる方が活きる。したがって広瀬がこの位置にいることの利点は極めて少ない。

また、このシーン以外の場面において、SBが逆サイドに出張してボールを受ける場面があり、これは”偽SB”の用法用量を守れていない、非効率で無用なリスクを孕んだポジション取りと言える。

この場面の問題点は、2つある。
1つは、逆の左SBの和田を投入したにも関わらず、右サイドで数的優位が作れず、攻撃が行き詰まっていること。もう1つは、中盤に広大なスペースを空けてしまっており、カウンターのリスク管理が全くできていないこと。

いずれもわざわざ自らのポジションバランスを崩してまで相手の守備陣形を混乱に陥れようとしたにも関わらず、逆に自らが不利益を被っている。特に後半はこうした場面が多く、札幌にカウンターから多くのチャンスを作られている。

なぜ”偽SB”をやるのか、それによってどんな良い効果が生まれるのか、それが相手をどのように混乱に陥れるものなのか。しっかりと考えてプレーすべきだと言いたい。

【提言】

結論として、マリノスは札幌の陣形を崩すには至らなかった。90分を通じてほとんど何もできなかったと言って差し支えないだろう。そこで、どのようにすれば突破できたのか、私なりの提言をしてみたい。

改めて、札幌の守備の約束事は、以下の通りだと考えられる。

①横をコンパクトに保つため、スライドしてボールサイドに人数をかける②ボールサイドのボランチはマリノスのIHにぴったりとついて行く③2トップはアンカーを基準とし、アンカーへのパスを阻害しようとする

これをふまえた上での解決策が、下図である。

ポイントは、札幌の陣形を横に拡げ、ゴールに直結する真ん中のスペースを開けることにある。

①ボールサイドのSBとウイングはサイドラインいっぱいに広がり、札幌のSHとSBをサイドに寄せる。IHの天野と喜田は高い位置を取り、札幌の2ボランチを押し込み、2トップと2ボランチとの間を間延びさせる。そしてできたスペースにゼロトップの三好が降りてきてフリーでボールを受けて前を向く。
これが、典型的なゼロトップの活かし方である。CBについていくかいかないかの二択を迫り、ボランチの背後から顔を出すことで、ボランチは対応が遅れ、中盤で数的優位を作り出すことができる。

②ボールサイドにスライドする札幌の特徴を利用し、①と同じような状況で、畠中から仲川へサイドチェンジをする。結果的にサイドで仲川が1on1を仕掛けることができ(1on1であればかなりの確率で仲川は抜ける)、または喜田のインナーラップによってハーフスペースの攻略に成功する。

このように、相手の陣形、守備戦術の特徴を見極めた上で、使いたいスペースを攻略するという目的に沿って各人が自らのポジションを取る必要がある。しかし、マリノスの選手には相手と自らの陣形を俯瞰して見ることができていないように思える。そうした柔軟さをこのチームは欠いているのだ。


【考察】

札幌は強かった。90分通してソリッドさが十分に保たれた素晴らしい守備ブロックだった。球際の激しさがあり、全員が規律をもって守備をしていた。
守備だけではない。ボールを保持する時は特殊な陣形になる。ミシャお得意の4-1-5あるいは5-0-5の形でマリノスのハイプレスを上手く剥がしながらパスを繋ぎ、効果的にボールを前進させていた。試合を見ていて感じたのは、ビルドアップ隊5人のボールスキルの高さである。プレッシャーをかけられても、ボールを失わずにキープする強さと、確実に味方にパスをつけるところの上手さがあった。代表選手はおらず、特別華があるわけではないが、能力は極めて高い。スター揃いの浦和でなくても、力のあるチームを作ることができるミシャはやはり名将だ。

一方のマリノスだが、自らの想定と相手の出方がズレていた時の対処の部分に課題を残す形となった。比較的経験の浅い若い選手で構成されているチームだけに、ゲームを見る力が欠けているのは仕方ない部分もあるが、リーグ優勝、ACLを目指すのであればそんなことは言っていられない。誰か1人に頼るのではなく、全員が盤面を俯瞰する力を持たなければならない。
真新しさで相手を翻弄することができたのは昨季までの話。常勝軍団になるに際して、いまマリノスは大きな岐路に立たされているのだ。


4/20(土)13:00 J1第8節 札幌3-0横浜

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