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Crop予測市場レポート第1回 : Augur

こんにちはCropです。未来予測コンテストサービス「PredictionGeeks」を運営・開発しています。

これから「Crop予測市場レポート」として現在運営されている予測市場に関するnoteを書いていこうと思います!記念すべき第1回は予測市場Augur(オーガー)です!ホワイトペーパーに従ってこのnoteではAugurの仕組みを中心に解説していきたいと思います。予測市場についての説明は以下のnoteをお読みください。

ポイント

1:Augurはイーサリアムブロックチェーン上の分散型予測市場

2:分散型にすることによって自由な市場作成などのメリットが

3:参加者がズルできないようなインセンティブ設計

Augurとは

Augurはイーサリアムブロックチェーンを利用した分散型予測市場です。2014年に創業、2018年7月にメインネットがローンチされ実際に取引が行われています。

Augurでは暗号通貨イーサリアム(ETH)と独自のREPトークンが用いられています。Forecast Foundationという非営利組織が管理していますがAugur自体はオープンソースで開発されています。Githubはこちら

Augurをはじめとするブロックチェーン上の予測市場の大きな特徴は分散型であるという点です。「分散」というのは管理者が存在せず、参加者みんなで運営していくという意味です。

分散型であることのメリット

ではなぜ分散型にする必要があるのでしょうか?従来の分散型でない予測市場には以下のような問題があります

マーケットの管理者が市場を作成するため、参加者は自分の予測したいイベントに関する市場を作成することができない
マーケットの管理者が結果を決定するが、その決定プロセスに透明性がない
予測市場に関する規制は国や地域によって異なるため、グローバルな運用がしにくい

つまり管理者が存在するために市場の作成・結果の決定などが管理者に一任され、管理者が悪事を働いた時に気づかないもしくはそれを止めることができないという問題があります。また管理者が国からの規制などを受けることによって、市場にもその規制が及び「自由な」市場を作ることができないことも想定されます。

Augurをはじめとするブロックチェーン上の予測市場は「管理者」をなくすことによってこれらの問題の解決を試みます。管理者をなくし、参加者たちが自ら市場を作成、取引、結果の決定、報酬の配布を行います。これらのプロセスでは一部イーサリアムのスマートコントラクトが用いられ、支払いや報酬の配布などが実行されます。

しかしスマートコントラクトだけでは解決できない問題があります。例えば、誰でも自由に市場が作れてしまうと市場が乱立してしまう恐れがありますし、結果の決定においても間違った結果に決定されてしまう可能性もあります。これらの問題は分散型特有の問題と言えるでしょう。従来の管理者がいる予測市場であれば市場の作成、結果の決定は管理者が行うのでこのような問題はおこりません(もちろん管理者が嘘をつく可能性はありますが)。

Augurではこれらの問題を金銭的インセンティブを用いてうまく解決しています。その仕組みを見ていきましょう。

簡単な仕組み

Augurにおいてマーケットは「マーケットの作成」「取引」「レポーティング」「清算」という4つのステージを経ます。

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マーケット作成

マーケットの作成は誰でも行うことができます。マーケット作成者は作成時に以下のことを設定します

・予測するトピック

・イベントの終了時刻

・イベントの結果を報告するユーザー(レポーター

・報告に使用するべき情報ソース:常識、米国エネルギー省など

・参加者が市場作成者に払う手数料(市場がちゃんと清算された時に市場作成者に渡される)

有効性補償金(validity bond):担保。マーケットの結果がちゃんと決まれば返金される。

不参加補償金(no-show bond):担保。指名したレポーターがちゃんと報告してくれれば返金される。

特筆すべき点はレポーターの指名有効性補償金不参加補償金でしょう。分散型予測市場では参加者全員で結果を決定する必要があります。しかし結果を決定するにあったっていちいち協議したり多数決をしていては時間がかかってしまいますし、市場にたくさんの悪意ある攻撃者がいた場合は正しい結果を得られないかもしれません。そこで、レポーターを指名することによって迅速に結果を得られるようにしています。なおこのレポーターが間違った報告をしたり報告をしない場合もあるでしょう。その場合については「レポーティング」フェーズで説明します。

有効性補償金は市場作成者が「ちゃんとした」市場を作成するためのインセンティブとして働くものです。ちゃんとしていない市場とは例えば選択肢に無い結果が実現してしまうような市場などを指します。分散型予測市場では誰でも市場が作れてしまうため意味のない質の悪い市場が乱立してしまう恐れがあります。そのためこの有効性補償金という仕組みによって自身のお金を担保にして市場の乱立を防いでいます

不参加補償金は市場作成者が適切なレポーターを選ぶためのインセンティブです。先ほど説明した通り市場作成者はレポーターを指名する必要があります。しかしその指名したレポーターが結果をレポートしてくれなかったり、間違ったレポートをしてしまったりすると、なかなかめんどくさいことになります(後述)。そのような自体を回避するために不参加補償金という仕組みで幾らかのお金を担保とすることによって、正しい結果をきちんとレポートしてくれるレポーターを指名するインセンティブを市場作成者に持たせています。

取引

Augurでは為替市場や株式市場のように参加者が売り注文や買い注文を出し合って取引を行います。オーダーブックはスマートコントラクトによって管理されます(つまり誰かによって管理されるものではありません)。

レポーティング

レポーティングは次のようなフローになっています。

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市場作成者によって指名されたレポーターが結果を報告します。この際、指名レポーターは指名レポーター補償金(designated reporter stake)と呼ばれるこれまた担保を支払う必要があります。この担保は報告した結果が最終的に覆された(報告が間違っていた)場合に没収され、レポーターが正しい結果を報告するインセンティブとなります。

この報告された結果は暫定的な結果であり、これに対して他の参加者は7日間、意義を唱えることができます。このフェーズを争議ラウンド(Dispute Round)と呼びます。意義を唱える際、自身のお金を自分が結果だと思うトークンに対して担保にする必要があります(これを争議補償金(Dispute bond)と言います)。この担保されたお金の総額がある閾値を超えた場合のみ、Disputeは「成功」、結果が覆りその選択肢が暫定的な結果となります。また、この覆った結果に対しても同様に意義を唱えることができます。

指名したレポーターが3日以内に結果を報告しない場合、レポーターが報告しなかったと見なされ市場作成者は不参加補償金を没収されます。この場合、他の誰もが結果を報告することができるオープンレポーティング(open reporting)が始まりまます。一番最初に報告した人はファーストパブリックレポーターと呼ばれ、彼の報告した結果が暫定的な結果と見なされます。正しい結果を報告した(その結果が最終的に確定された)場合、ファーストパブリックレポーターは市場作成者の不参加補償金を受け取ることができるので正しい結果を報告するインセンティブをもつことになります。またこの結果に対しても先ほどと同様に他の参加者は意義を唱えることができます。

清算

暫定的な結果に対してDisputeが成功に至らないまま7日間が経過した場合、初めてそれが「結果」と見なされるようになります。最終的な結果に対応するトークンを持っているトレーダーはそれをイーサリアムに変えることができます。

問題点

Augurのような分散型予測市場は分散型であるがゆえの問題点もあります。

1:結果の決定までに時間がかかる

仕組みを見てみたらわかるようにイベントの終了から少なくとも1週間かかります。一方で従来の予測市場であれば市場の管理者が決めるのでイベント終了後すぐに結果が決定、報酬もすぐ手に入ります。

2:セットアップ、取引のコスト

Augurで取引をするためにはイーサリアムが必要です。そのために仮想通貨交換所などからイーサリアムをあらかじめ調達し、それを自分のウォレットで保管・管理しなくてはなりません。さらにAugurのアプリをダウンロードし、イーサリアムブロックチェーンに接続する必要があります。これらは一部の人たちにはなんてこともないでしょうが、多くの人にとってはかなりハードルの高いでしょう。またイーサリアムを自分のウォレットに移す際やAugur内での取引に手数料がかかってしまうのも問題となっています。

なお現在GuessorVeilなどのサードパーティーアプリが登場しはじめており、使いづらさやセットアップのコストは今後改善されていくことが期待されます。

3:イーサリアムの相場・開発状況に依存する

Augurではイーサリアムを用いて取引し、報酬もイーサリアムで受け取ることになります。どのくらいのイーサリアムをベットするかなどはその時のイーサリアムの相場によって変わるでしょう。また報酬がどのくらいなのかも相場に依存してしまいます。また先に見てきたようにAugurは金銭的インセンティブを用いて参加者が正直に行動するような仕組みになっていますが、このインセンティブがどのくらい有効に働くのかも相場によって変わるでしょう。

イーサリアム自体の開発にも影響されます。スケーラビリティの問題などイーサリアムの性能が向上すればAugurもより使いやすくなりますが、一方で例えば分裂などがあるとAugurもそれによって多大な影響をうけます(もちろんそうなった場合はAugur以外のサービスも同様ですが)。

最後に

このnoteではブロックチェーン上の予測市場の代表格、Augurについて説明しました。このnoteではAugurの仕組みを簡略化して説明しており、実際にはもっと複雑です。より深く知りたいという方はホワイトペーパーを参照してください。ETHやREPがどのように使われているか、スマートコントラクトをどのように用いているかなどAugurの「ブロックチェーン」的側面については他の人がより詳しく書いていると思うのでそちらに譲りたいと思います。

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