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「月刊ボランティア情報・市民文庫書評」7~8月号 2012年VOL193  『持続可能な発展の経済学』ハーマン・E・デイリー著 新田功、蔵本忍、大森正之共訳 みすず書房 定価3800円プラス税

「月刊ボランティア情報・市民文庫書評」7~8月号 2012年VOL193 
『持続可能な発展の経済学』ハーマン・E・デイリー著 新田功、蔵本忍、大森正之共訳
みすず書房 定価3800円プラス税

評者 白崎一裕

本書の原題は『BEYOND GROWTH 』(成長を超えて)だが、この方が本書のタイトルにはふさわしい。経済成長をめぐる議論こそが現在の政治思想の最先端の課題といってよいし、我が国の政治の混乱も3・11以後の課題もここに収れんされる。

著者は、1970年代に話題になったローマクラブの報告書『成長の限界』の理論的支柱とされる人物でもある。『成長の限界』は人口増加と経済成長がこのまま継続できるというのは幻想で、資源の有限性や環境汚染などの問題から成長にかわるなんらかの代替プランを人類は必要とするという提言の書であった。そして、この提言は、数理統計などを用いて具体的根拠を示しながらなされていたため各方面で話題となり論争の的ともなった。しかし、『成長の限界』の提言は「提言」にとどまり、政治の世界では、結局「成長」のスローガンがおろされることはなかったといってよい。現在の日本のどの政党も「成長が重要」「成長戦略」などの選挙公約の言葉を躍らせている。

ここで、著者は問う。成長とはそんなに良いものなのか、たんなる成長マニアではないのか?というのだ。これに関連して、人口増加は良いことなのか?グローバルな自由貿易は良いことなのか?とたたみかけるように読者に問題提起をしかけてくる。具体的には、経済成長の指標としてよく聞かれるGDPだとかGNPという数値は本当に経済成長を表しているのだろうか、また、その指標に意味があるのだろうかという。たとえば、人間の暮らしを脅かす放射性廃棄物や有害化学物質の処理・廃棄にかかわる費用も、人間がお米や野菜をつくることもすべてごっちゃにして数字化してGDPという指標にしてしまうのではないか。また、コンピューターは最新のものほど、より少ない材料とエネルギーを使い複雑な仕事をこなしサービスの価値を高めているが、このサービスの価値の高まりなどの質的な改善と、サービスの劣る古いタイプのコンピューターでもただ台数が増えることがGDP勘定では区別されず、これまた、ごっちゃになってしまうのではないかというのだ。人間の暮らしに有害なものやたんなる物質的な増大がGDPとなり「成長」とされる、そんなことでいいのだろうか、というのが著者の問いかけの本質だ。

この裏側に潜む秘密には、GDPがすべて物理的単位ではなくて金額単位で計算されるということがある。この金額(貨幣経済)とエネルギーなどの課題を先駆的に考察した放射性物質研究化学者にして経済思想家のF・ソディの評伝が本書には含まれているが、これはおすすめだ。ソディが言っていることが、本書のすべてを言い尽くしているといっても過言ではない。ソディは「貨幣がわれわれに負債と富を混同させ、負債は永遠に増加できるが富は増加できないということを忘れさせる~~」と言っている。私たちが成長と思いこんでいたことは、経済的・環境的負債をどんどん増やしていくことに過ぎなかったのだ。著者は、いまいちど、このことを考慮にいれて「成長」ということを再考しよう、そして、
別の道へ歩みだそう!と呼びかけている。

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