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【読書感想文】万能鑑定士Qの事件簿 IX

 1年ぐらい前からゆっくり読んでいる万能鑑定士Qの事件簿であるが、ようやくIXまで読破した。

 綾瀬はるかと松坂桃李が出演している映画があるが、このIXを読破するまでは映画は見ないと決めていた。流石に映画化するだけあってなかなか読み応えのある一冊だった。
 「モナ・リザ展」のスタッフ登用を目指す主人公の凜田莉子は沖縄県波照間島の出身の鑑定士。IやIIで生い立ちを含めて丁寧に書かれているので、シリーズを重ねるにつれて感情移入できるようになっている気がする。

シリーズの特徴
 ①死なないミステリー(これが理由で読み始めた。)
 ②鑑定士の莉子と記者の小笠原、あと2~3人の視点から描かれる。
 ③小笠原が角川書店(現KADOKAWA)の記者であったり実在する場所や出来事が多い。
 ④実名を使ったりするだけあって、そのものに対して知識が深堀されている。

 特に④について、同じ松岡圭祐は「探偵の探偵」も少しだけ読んだことがあるがこの人の特徴なのだろう、すごい知識の量で日常生活や2010年当時の時勢を把握するのに役に立つものも多い。悪い点でいうと、知識が詰め込まれているので読者が勉強的なモードになると感情移入できないというところか。
 とはいえIが2010年4月発売でこのIXが2011年4月発売と、驚異的な発行スピードである。これだけ作品が書ける(しかも売れる)なんて凄すぎる・・・。

■あらすじ(ネタバレ)

 このIXのあらすじとしては、I~VIIIまでの実績を踏まえて日本で開催される「モナ・リザ展」のスタッフ登用の話が来て、莉子はそれに応募して試験を受ける。一方で小笠原はたまたま王族を助けたとかで、日本のお忍び観光のアテンド役に任命されて今回は終盤以外は完全に別行動。

 莉子は流泉寺里桜(りゅうせんじりさ)という東京芸大の非常勤講師兼特別研究員と二人でスタッフを目指すが見事に合格する。

 しかし、最終問題で12枚から真作のモナリザを見つけ出す際に莉子はモナリザの中に文字を見つける。「モナリザの眼の中の直視すると脳機能の低下が起こる」という記事を目にした莉子は真作のモナリザを見た後にそのことを気にするようになり、通常の鑑定にまで支障をきたしてしまう。そのことで自信を喪失した莉子は合格したはずのスタッフ登用の話を辞退し錯乱状態、波照間島に帰ってしまう。
 その頃小笠原は公安からの接触を受ける。理由は王族が偽物で小笠原は共犯ではないのか、という理由だった・・・。

 里桜の目的は贋作をルーブル美術館自身が真作と言っていることが許せず、自身が本物だと信じているものとすり替えるということだった。「モナリザの眼の中の直視すると脳機能の低下が起こる」 という記事も里桜が偽サイトを見せて錯覚させたもの。

 ・・・しかし、その里桜も自身が真作だと思っているものは贋作であった。実は彼女が真作だと思っている根拠であったイタリアの新聞記事は、半年後にそれが誤りだったことを新聞社自身が謝罪しているのだ。

「歴史は点ではない、線だ。新聞記事がある時点の情報を伝えていても、そこには続きがある。」

 そうして里桜もまた共犯者に騙されていたことを知り、敗北を認めた。

 話の結末はというと、小笠原がアテンドしていた偽物の王族の雇い主である詐欺師集団がモナリザを盗んだ後、映画「ダヴィンチコード」のDVDポスターと一緒に日本から海外へ輸出しようとする(この詐欺師集団は錯覚を起こさせる最終問題も実施していたルーブルのブレ氏も演じていた)というトンデモ理論なのだが、無事に真作のモナリザを見つけ出して解決する。ちなみに小笠原が莉子と前半別行動だったのは伏線であり、小笠原は過去作で一度本物のモナリザを見たことがあるので、莉子と遠ざけるために偽王族のアテンドをさせられていたのだ。

■感想

 個人的にグッと来た点は上記の「歴史は点ではない。」という話。人は自分に都合の悪いこととなるべく向き合わないようにする。逆に都合のいいことを見つけるとそこに集中してしまう。今回の里桜の行動はまさにそのもの。ある種の信念がある故、「これが正しい。」と思った情報を元に行動している。しかし、点の情報ではなく、線(歴史)についても深堀することで間違いに気づくことも多い。「歴史の流れがわかると世界情勢や政治がわかる」ということで、最近は大人のための歴史教科書のような本や教育系Youtuberの動画も流行っているが、そういうことなのだろう。知らないからこそ行動出来ることもあるが、個人的にはどんな歴史も概要は知っておいたほうが正しい判断が出来ると思っている。

 最後のページに出てくる「ルーヴルが彼女をクビにしたのではない。彼女がルーヴルを見限った。」これもいいワード。彼女は小笠原と二人で、小さなお店の店主である彼女を頼ってくれる人たちを満足させている。鑑定と呼ぶものではない仕事もあるが、それは本来の美術家や学芸員たちの常識の範疇での話。その人自身の能力がどれだけ優れていたとしても、その人がどの仕事で自分や周りの人たちが満足するか、というのは別の話だと感じた。



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