小説を書いてます。ときどき日記やエッセイも。noteには主に短編を載せます。

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マガジン

  • 短編よりどりみどり

最近の記事

【短編】立ち止まるな、人類

パイナップル・モーターカンパニーはある日、新たな利器を世に送り出した。 「これが我が社の〈ロケット〉です」 社長のパミール氏は、 民家の煙突くらいの大きさのその乗り物を前に、大変誇らしげであった。 「コックピットに座り、行き先を入力、決定ボタンを押してちょっと待つ。これだけでさあ、あなたはもう目的地。宇宙には行けないが、地球上ならどこへでも、道があろうとなかろうと、いかなる乗り物よりも速くたどり着けます。もう道に迷うことも、渋滞に巻き込まれることもありません」 ロケット

    • 【短編】どこかにある国のはなし

      ずっと前におばあちゃんがしてくれた、遠い遠い国のお話をします。 ちょっと想像してみてください。あたりを見回すと、そこらじゅうに重たそうな布袋のようなものがぶら下がっているんです。小学校をぐるっと囲む柵に引っかかっていたり、 オフィスビルの中庭につり下がってたり 、レストランの軒先の、はしっこの方でぶら下がっていたり。本当にいたるところに、です。 あちこちに引っかかるそれは、ハンモックでした。 その国では、国民は18歳になると、お酒を飲む権利と同時に、1人に1枚、ハンモッ

      • 太陽の贅沢な使い道

        今日は久しぶりに暑くて、日差しがギラギラと強い日だった。 午前中のボイトレのレッスンが終われば、とりあえずのところ予定はない日(「やらなきゃ!」と思うことはたくさんあっても)に、私はコンビニにもどこにも寄り道せず、まっすぐに家に帰った。 部屋着に着替えてしまえばもう、引きこもりモードは全開だ。 どんなに暑さが厳しくても、晴れた日には外に出ないと勿体ないと思ってしまう。落ち着きのない性格だし、一人でも誰かとでも「お出かけ」は大好きだし、合理的にものを考えるから、晴れの日は

        • あら、あら、あら

          最近、物事がうまく進まない。 「物事」と言っても、実際は1つのことなのだけど。 賞に出す小説を、なかなか書き始めることが出来ないのだ。 「だいたいこういう趣旨の話にしたい」 というのはあるのだけど、具体的な登場人物とか舞台設定が出てこない。 2週間ほど前に書き始めていたのだけど、なんだかしっくりこなくて没にしてしまったら、それから「自分はどういう作風が合うんだろう」とか「自分の個性はなんだろう」とか「そもそも自分は本当に小説が書きたいのだろうか」とか、

        【短編】立ち止まるな、人類

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        • 短編よりどりみどり
          6本

        記事

          kotenのこと

          5月30日に「koten」というダンスのイベントに参加した。 kotenは、ダンサーがそれぞれ作品を持ち寄って発表するという場であり、私にとっては初めてコンテンポラリーの自作のソロを踊るという、とても大きなチャレンジの場となった。 会場であるカフェムリウイ(https://note.mu/muriwui)は、とても素敵なところだった。 写真:片岡陽太 商店街のビルの屋上にある隠れ家のような店構えや、外の風景を店の中に映し出してくれるような大きな窓のある空間は、この上な

          kotenのこと

          占いにすがる

          少し前、私が一生懸命取り組んでいたことといえば、占いだった。 某大先生の「○○大全」などと大層な名前のつく分厚い本を購入し、何時間も机に向かっては自分の「本来の性格」や「持って生まれた才能」が書かれている箇所を暗記する程読み込んだ。有料・無料問わず片っ端から占いサイトに登録した。自分の手のひらを永遠と眺め、吉兆の手相を血眼になって探した。 そんなことをしていると、時間はあっと言う前に過ぎる。でも、その時間が無駄だとは思わなかった。これも夢を叶えるために必要なことだと、本気

          占いにすがる

          美しく生きたい夢追い人の生活と意見

          慌ただしい朝に繰り広げられるのは、食欲と見栄の攻防戦だ。 ーやばい!あと10分で出なきゃ遅刻確定。 ーでも朝ご飯はしっかり食べないとね。もう用意しちゃったし。 ーでも今描いた眉毛、ダメでしょ絶対。直さないと! ーあー、だから!ごはん食べる時間なくなっちゃうでしょ。 結局今日も、「お腹いっぱい食べて元気よく1日をスタートしたい私」と「ちっぽけな顔に1ナノグラムでも多く自信を乗っけておきたい私」との戦いに決着がつくことはなかった。両者は手を取り合い、仲良くゴールテープを切るこ

          美しく生きたい夢追い人の生活と意見

          お客さん

          素敵だね、お友達になりたいです、と言う代わりに、 またお待ちしております と、とびきりの笑顔でお見送り。

          お客さん

          愛することを、やってみる

          ー恋っていうのは、細胞でするものなんだよ。自分が恋をすると思っただろ。違うんだよ。 二度目の大学受験を目前に控えたある日、予備校の授業で先生はそう教えてくれた。英語の先生だったけど、構文の読み方や読解テクニックなんかはほとんど教えてくれなくて、代わりにラテン語とか、ダーウィンの進化論の超解釈の話なんかをしてくれた。翌日の模試には役に立たなかったけれど、それらはまるで押入れにしまった子どもの時のおもちゃみたいに、今も心の中でじわりと光を放っている。入試で使う知識を頭に入れるの

          愛することを、やってみる

          2019年は!

          明けましておめでとうございます。 新年の挨拶というには何だか微妙な時期になってしまったけど、今年も頑張って投稿していくので、宜しくお願いします! 2019年は、自分の実現したいことにもっと積極的に飛び込んでいく年にします。 そう、「攻め」の1年です。笑 私は文章創作の他にも歌とダンスをやっていて、この3つの分野で活躍する人になりたいと思っています。どれもこれも、才能なんてありません!笑 2018年は、それを痛烈に実感した年でした。舞台のリハーサルでは、自分より全然若い子た

          2019年は!

          【短編】陽が沈むまで

          顔に差し込む太陽の光で目を覚ます。 ーいけない。学校に行かなくちゃ。 慌てて身を起こし、少女は、自分が学校に行かなかったことを思い出した。心がずん、と重くなった。 いつの間にか、夕方になっていた。 何か特別な出来事があった訳ではない。朝、いつも通りに家を出て、学校への道を途中まで進んだ。しかし、果物屋につやつやと並ぶオレンジを見たとき、急に足が向かなくなり、真っすぐに進むべき角を左に曲がったのであった。あてもなく街をさまよい、この海岸にたどり着いた。砂浜に打ち上げられた、真っ

          【短編】陽が沈むまで

          【短編】白い街のシンデレラ

          カーテンの隙間からこぼれる日差しが、意地悪く私に降り注ぐ。 はっと目を覚まし、時計を見ると、朝の6時30分。予定していた家を出る時間にさしかかっている。 いつの間にか目覚ましを止めていたようだ。 —いけない。7時には出社しようと思っていたのに。 慌ててベッドから飛び降り、床に散らばった書類をよけながら身支度に取り掛かる。もつれる髪の毛を無理やりまとめ上げ、メイクをしようと鏡の前に立った私は、思わず「はっ」と息を飲んだ。 むくんだまぶたの下にはうっすらと青い影。ここのところまと

          【短編】白い街のシンデレラ

          【短編】ひととき

          「俺の失恋カウントダウンもいよいよクライマックスだな。」 はは、と笑って君は呟いた。 何もすることがないまま、ベンチに座り続ける。君と、5時の鐘を待つ。 以前一度だけ2人で来たことのあるこの公園に、特別な思い出はない。 歩道を挟んだ向かいの芝生には、賑やかな笑い声が散らばっている。遠い国の風景画を眺めていふような気分だ。 別れ、というものはもっとだんだんと訪れるものだと思っていた。 気持ちの摩耗とか、生活リズムの変化とか。 それにしても、5時になったら別々になる、

          【短編】ひととき

          好きは自分の為ならず

          少し前にギターを始めた。 始めたと言っても、歌うことを始めたばかりの頃知人が「ボーカルをやるなら何か一つ楽器ができた方がいいよ。」と言って貸し出してくれたものを気が向いた時に鳴らしてみる程度ではあるのだけれど。そしてこれがなかなか難しい。 まず、弦が抑えられない。ギターは、左手でしっかりと弦を押さえ、右手でその弦の先をはじくことによって音が鳴るのだが、どれだけ左手の指を広げて、手首の曲げ具合を色々試してみても、心地よい音はなかなか出てくれない。代わりに干からびたへその緒のよ

          好きは自分の為ならず

          はじまりの夜

          ※前回作「遠くの、誰かの声」を加筆しました。 ワンルームに、時報が響く。 皆さんこんばんはぁ! さあ、今日もやってまいりました、私DJヒビィがお送りするラジオ番組「響け!ハーモニーナイト☆」の時間でーす! 派手な音楽と同時に、やたらとトーンの高い男の声が、静かで雑然とした部屋に場違いに響いた。 毎週同じ曜日・同じ時間に聞いているラジオ番組は、特にお気に入りというわけでも無く、この部屋に引っ越してきた頃からずっと、何となく寝る前に聴くことが日課となっていたものだ。 さぁ

          はじまりの夜

          遠くの、誰かの声

          ワンルームに、時報が響く。 皆さんこんばんはぁ! さあ、今日もやってまいりました、私DJヒビィがお送りするラジオ番組「響け!ハーモニーナイト☆」の時間でーす! 派手な音楽と同時に、やたらとトーンの高い男の声が、静かで雑然とした部屋に場違いに響いた。 毎週同じ曜日・同じ時間に聞いているラジオ番組は、特にお気に入りというわけでも無く、この部屋に引っ越してきた頃からずっと、何となく寝る前に聴くことが日課となっていたものだ。 さぁーて、今日のテーマは『あなたの記憶の中で一番心を

          遠くの、誰かの声