狐狼の血の「十中八九、いや九分九厘」

映画「孤狼の血」の序盤に主要キャラである刑事の大上(おおがみ)が警察の部署の人間に対してこのように報告をする。

(事件の重要参考人に関して)
「十中八九、いや九分九厘死んどる思いますわ」

私は狐狼の血が好きで何回も観ているが、いちばん記憶に残っている台詞がこれになる。他にも大上の長台詞や息詰まる場面など、いくらでも印象的な場面はある。しかし、それを押し退けてここが記憶に残るのだ。

一見すると平凡な台詞にも聞こえる。事件を調査する上ではありそうな会話だし、なにも確定的なことは起こっていない。
それでも、このシンプルなワンフレーズが物語序盤に大上というキャラクターを決定的に印象付けた。

十中八九→九分九厘

大上の台詞は短く、強く言い切られている。
それでも、十中八九を九分九厘と言い換える瞬間に一瞬の間がある。この間が大上の頭の中で確信が深まったことを表している。

十中八九であっても十分に深い確信を表現できるはずだ。それでも言い換えたのは十中八九と言った瞬間に大上が自己問答をしたのではないだろうか。
十中八九、と口にして自分の声を聞いて考えたのだ。もっと確定的でいいはずだ。

四字熟語を連続して言うのは単純にカッコいい。音として心地よいし、多少の教養が見える。

台詞に映されていない時間が宿る

こういった台詞の良いのは時間の流れを表現するところにある。映画は2時間ほど物語を映し続けるが、起こっているはずの全ての事象を映すわけではない。しかし、登場人物たちにも時の流れはあり、その経過による様々な変化があるはずだ。

大上が刑事として捜査を進める中で確信を深めるに至った思考の時間があったのだ。映画に描写されているだけでなく、徐々にベテラン刑事としての推理が蓄積されていく時間があった。そういった背景を匂わせてくれる。

役所広司はすごい

ここまで書いてきて思ったのは、台詞も良いけど大上を演じた役所広司が凄すぎるということではないだろうか。ひとつの台詞からキャラクターの造形に重みを持たせていく技があるのではないだろうか。

役所広司を凄いと感じたのは一度や二度ではない。渇き。は役所広司が居なかったら成立しなかった映画だったし、伊丹十三のたんぽぽの役所広司はとても良い。とにかく素晴らしい俳優だろう。

あと、ジョージアのCMの役所広司も好き。
凄い。役所広司サイコー。おわり。

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