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『7人の聖勇士の物語』第6章     スペインの騎士聖ジェームズが美しい王女の愛によって命を救われるお話

こんにちは。
いつもお読みくださりありがとうございます。

ご近所のお庭にそんなに大きくない柿の木があります。いつもはあまり気に留めることがなかったので、毎年実をつけるのかどうか、何月頃実が熟するのか、知らずにおりました。

今日、通りがかりに小鳥の声がしたのでふと見ますと、まだ残暑も厳しいというのに早くも柿の実が数個なっていて、しかもよく熟して食べ頃のように見えました。

鳴いていたのは黄緑色の小さな鳥で、目のまわりが白かったのでメジロだと思います。柿の実を食べにきたのでしょうね。メジロは夫婦仲が睦まじく、いつも一緒に行動すると聞いたことがあったので、探してみると近くにもう一羽いました。どちらがオスでどちらがメスかはわかりませんでしたが。

仲良きことは美しきかな。
なんだか良いことがありそうな、幸せな気分になりました。

(ご近所のお庭なので写真を撮ることができませんでした。フォトギャラリーからお食事中の可愛いメジロの写真をお借りしました。ありがとうございます。)

『7人の聖勇士の物語』の続きです。
今回はスペインの騎士、聖ジェームズの冒険の物語です。
聖ジェームズはスペインの守護聖人聖ヤコブのことと思われます。聖ヤコブの英語表記はSt. Jamesです。ここでは英語表記に従って聖ジェームズと訳したいと思います。多くの巡礼が訪れるサンティアゴ・デ・コンポステラには、聖ヤコブの遺体が安置されていると信じられています。

『7人の聖勇士の物語』
第6章 スペインの聖ジェームズの冒険

スペインの勇士、聖ジョームズは、あの真鍮の柱のところで仲間たちと別れると、船に乗りました。船は難破して、シシリア島の海岸に打ち上げられました。
 
従者のペドリロを従えて島を進んで行きますと、エトナ山のふもとにやってきました。その時エトナ山は、大量の炎と煮え立った金属、灰、そして煙を猛然と噴き出していました。二人はその光景に怖じ気づくことなく、エトナ山の高みに登っていきます。すると、巨大な鳥が岩の頂きに止まっておりました。それは炎のように燃える翼をした不死鳥でした。怪鳥は彼を見るやいなや急降下すると、灼熱の嘴で彼に襲いかかりました。なぜなら、彼がこんなにも大胆に不死鳥の縄張りに入ってきたからです。
 
聖ジェームズは頼みの愛剣を抜いて頭上で振り回し、恐ろしい嘴が兜に近づくのを阻みました。なぜなら、嘴の必殺の先端の一撃は、ご婦人の編み針がスカーフを突き通すように、いともたやすく鋼の兜と頭蓋を貫き通すことを彼はよく知っていたからです。
 
恐ろしい闘いは何時間も続きましたが、ついに怪鳥は勝ち目がないとわかると、燃え立つ火口の奥の巣へと戻っていきました。
 
翌日、闘いが再開されました。忠実なペドリロは離れたところに立ってロザリオを繰りながら、主人をお守りくださるよう、あらゆる聖人たちに大声で祈り続けました。とうとう、騎士と怪鳥は闘いを続けても何の利益も栄誉も得られないとわかり、互いの合意のうえで闘いから手を引きました。
 
それから聖ジェームズはアフリカへと渡り、怪物が荒らし回る土地を通っていきました。道中多くの怪物を殺しましたので、住民たちは彼を君主として迎えたいと望みました。
 
紅海を渡るとき、聖ジェームズはまた難破しました。人魚の一群が彼と従者を馬や装備ともども岸辺へと運んでくれなかったら、何もかも海に沈んでしまったことでしょう。
 
とうとう聖ジェームズはペルシアの首都、美しいイスパハンの都にたどり着きました。砦をめぐらせて守りを固めた城壁は純銀、塔は碧玉と黒檀、輝く尖塔は黄金と貴重な宝石、家々は大理石と雪花石膏でできており、その間をつなぐ街路は錫で舗装されています。
 
聖ジェームズがそれらをじっと眺めながら立っていますと、一千もの真鍮の喇叭の明朗な響きが聞こえてきました。また、真鍮製の城門から百名の武装した騎士たちが血のように赤い吹き流しを手に携え、炭のように黒い百頭の軍馬に乗って出てくるのが見えました。続いてペルシャ王が百名の肌の色が黒いムーア人に護衛されながらやってきました。ムーア人たちは弓と大鴉の羽でできた矢羽根を付けた矢を携えておりました。その後には王の美しい娘セレスタインが一角獣に跨がり、緑色の絹をまとった百名のアマゾネスの貴婦人たちに守られてやってきました。王女は手に銀の投げ槍を持ち、美しい胸は鰐の鱗で巧みに細工を施された黄金の胸当てで覆われていました。その後に騎馬や徒歩の貴族や従者が大勢続きました。ペルシャ王ネバザラダンが馬に乗って王女と狩りに行くときの様子は、こんなふうでした。
 
その国では野獣がたくさんはびこっておりました。誰であれその日最初の野獣を殺した者に王は黄金で象眼をほどこした最上質の鋼鉄製の半甲冑(コースレット)を与えるであろう、という布告がなされるのを聞くと、聖ジェームズは「さあ、野獣を追いかけよう、そして半甲冑を勝ち取ろう!」と叫びました。
 
騎士と従者は野原を探し回っているうちにとある森へとやってきました。森の中で彼らは怪物のような野生の猪が、自分が殺した通行人らの死骸をむさぼり食っているのを見つけました。野獣の目はまるで炉のように火花を発していました。また、牙は鋼鉄の釘よりも鋭く、鼻腔から吐き出す息は渦巻く旋風のように見えました。体を覆う剛毛は無数の槍の穂先のよう、尾はとぐろを巻いた蛇のようでした。
 
聖ジェームズは、銀の角笛を緑色の絹のスカーフで馬の鞍の鞍頭(ポメル)に吊り下げていました。彼がその角笛を吹き鳴らしますと、猪はその音に興奮し、猛然と襲いかかってきました。騎士の槍は猪の固い毛皮にあたって木っ端みじんに砕けました。そこで彼は馬からとびおり、馬をおさえておくようペドリロに命じると、トレド製の鋼鉄の剣を抜くと勇敢にも徒歩で怪物に打ちかかりました。恐ろしい牙をよけて左右にとびすさりながら、固い皮膚に剣の切っ先を突き刺そうとしましたが、どうしても突き刺せませんでした。とうとう戦斧を吊り綱からはずすと、怪物の頭の天辺から口までを一撃で裂き、続く二撃目で首を完全に切り落としました。そして、獣の首を槍の棒先につけて、それを運んでついてくるようペドリロに命じました。
(※スペインの古都トレドでは、鉄製品の生産が盛んで、特に剣の生産で有名だったそうです。今日でもナイフなどの鉄器具の生産が盛んとのこと。)
 
ペドリロを従えて馬を進めていくと、彼は王とその娘に出会いました。王は最初、騎士の武勲をとても喜びました。しかし、騎士がキリスト教徒であると聞くと、騎士への賛嘆は激怒へと転じ、太陽を礼拝する異教徒となるか、この国を立ち去るかせねばならない、と彼に告げました。
 
騎士は、自分の自由な意思によるのでなければ何者も自分をこの国から立ち去らせることはできない、と誇り高く答えました。
 
これを聞いて、王の軍勢は彼とペドリロを取り囲みました。二人は必死に抵抗しましたが、ついに軍勢は彼らを地面にねじ伏せました。
 
「さあ、騎士殿、どうするのだ」と王はあざ笑って言いました。「とはいえ、貴公はこの国で一番大きな猪を殺したのだから、その褒美として、貴公と従者の処刑方法を選ばせてやろう。」
 
戦士はどんな折りにも女性に対して礼儀正しかったので、狩りに行く時に見かけた美しい乙女たちの矢に射たれて処刑されたい、と答えました。乙女たちはこのことを知らされましたが、誰もその残酷な仕事を喜んで引受ける者はいませんでした。
 
すると王は激しく怒り、誰がこの仕事を行うかを決定するため賽を投げるよう命じました。賽はセレスタイン王女と彼女に仕える乙女の一人に当たりました。王女が騎士を、侍女の乙女がペドリロを殺すことになりました。しかし、死神の必殺道具すなわち鋼の鏃(やじり)がついた矢のかわりに、王女は愛の真実の使者すなわちため息を放ち、侍女の乙女も同じようにしました。それから王女は父王のもとへ急いで行き、焼けるように熱くて辛い涙を流しながら、異国の騎士たちを解放するよう乞い願いました。ついに王は、騎士たちが国から即刻立ち去ることを条件として、彼女の願いを聞き入れました。
 
聖ジェームズは立ち去る途中、振り返ってイスパハンの都に立つ塔を眺めました。たちまち彼の心はセレスタインへの愛で燃え上がり、戻って彼女を勝ち得ようと決心しました。彼とペドリロはブラックベリーの汁で肌を染め、ムーア人の服装をし、口がきけないふりをして、都へととって返しました。
 
そして聖ジェームズはインドの騎士のふりをして王の軍隊に入隊し、英雄的な手柄を立てて大きな名声を得ましたので、ほどなくして最高の名誉ある地位へと取り立てられました。
 
さて、遠い東の国から二人の王が美しいセレスタイン王女に求愛するためにやってきました。しかし、セレスタインはいちずに聖ジェームズを想っていましたので、彼らの求婚を受け入れることを拒みました。
 
二人の求婚者の栄誉を称えて大馬上槍試合が開催されました。二人は輝く武具に身を包んで試合場に入場しました。ムーア人の騎士に変装している聖ジェームズもそのようにして入場しました。彼が二人の求婚者を打ち倒すのを見た王と廷臣たちの驚きはどんなだったことでしょう!聖ジェームズは馬に乗ってセレスタイン王女の天幕の下に行き、彼女が以前に彼に与えた指輪を示しました。これにより彼女は彼が自分の真の騎士であることを知りました。やがて彼は良い方法を見つけて自分の愛を彼女に伝えることに成功しました。ペドリロも自分の好意を王女の侍女に伝えることを忘れませんでした。
(※セレスタイン王女がいつ聖ジェームズに指輪を与えたのかは不明ですが、王女も彼に好意を抱いていたのは間違いなさそうです。)
 
彼らは、その夜さっそくスペインへと駆け落ちすることにしました。ペドリロは巧みな工夫をほどこし、馬の蹄鉄を後ろ向きにしておきましたので、西の方向に安全を求めて進んでも、東の方向へと向かって逃げているかのように見えたのでした。このようにして追跡をかわしながら、一行は疾走し、紅海を越えて、アフリカを抜け、無事スペインのセビリアの町に到着しました。この素晴らしい町は聖ジェームズ生誕の地でした。それゆえ、この町は、当然のことながら、とても尊敬を集めているのです。

今日はここまでです。
セレスタイン王女は愛ゆえにジェームズの命乞いをし、ジェームズも愛ゆえに命の危険を冒して都へ戻りました。愛の力は偉大ですね。

次はイタリアの騎士、聖アンソニーの冒険の物語です。

次回をどうぞお楽しみに!


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