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[西洋の古い物語]「メイブロッサム王女」第6回(最終回)

こんにちは。
いつもお読み下さり、ありがとうございます。
「メイブロッサム王女」最終回です。
思いがけない結末をどうぞお楽しみになさってください。
何回にもわたってお読みくださり、どうもありがとうございました。

※ 画像はジョルジュ・バルビエ作「デルフィーヌの結婚」です。花嫁さんの少々微妙な表情が気になります。パブリック・ドメインからお借りしました。

「メイブロッサム王女」第6回

 そうこうしている間に、コックトハット提督は首相付きの伝令であるお喋り屋のストローブーツを派遣して、王様にこのように報告させました。
「王女様と大使はスクォラル島に上陸しましたが、提督にはその土地の情報が無く、潜んでいる敵に捕縛されることを警戒して、お二人を追うには至っておりません。」

 国王陛下はこの知らせに大喜びし、1ページが8エルもの長さの大きな書物を取りにやりました。それは非常に賢明な妖精の著作で、地上のありとあらゆる土地に関する記述を収録していました。すぐに王様はスクォラル島が無人島であることを見出しました。
「行け」と王様はお喋り屋に言いました。「提督に儂からだと言って、直ちに上陸せよと申すのじゃ。提督がもっと早くそうしなかったとは驚きじゃな。」
※「エル」は長さの単位です。1エルは45インチなので、8エルですと360インチ、だいたい915㎝ぐらいでしょうか。

 この伝言が艦隊に届くや否や、あらゆる臨戦体制が整えられ、その騒然たる物音は王女様の耳にも届きました。直ちに王女様は愛しい人を守るため彼のもとへ駆けつけました。ファンファロネードはあまり勇敢ではありませんでしたので、彼女の助けを喜んで受け入れました。
「私の後ろにお立ちになって」と彼女は言いました。「この石榴石を掲げると私たちの姿は見えなくなりますの。そして王様のこの短剣であなたを敵からお守りいたしますわ。」

 というわけで、上陸した兵士たちには何も見えないのですが、王女様が彼らを一人また一人と短剣で叩きますと彼らは感覚を失って砂地の上に倒れました。そこで遂に提督は、何か魔法が働いているのを見て取り、急いで退却喇叭を鳴らすよう命令を発しました。そして大混乱のなか、兵士たちを船へと戻させました。

 再び王女様と二人っきりになったファンファロネードは、もし彼女を亡き者にすることができれば、そして石榴石と短剣を我が物にできれば、脱出できるのではないかと考え始めました。そこで、二人で岸壁の上を歩いて戻る途中、彼は王女様が海の中に転落すればいいと思い、王女様を思いっきり押しました。しかし彼女は素早く脇にどきましたので、彼は体のバランスを崩して崖から落ち、鉛の塊のように海の底へと沈み、その後どうなったのかわかりませんでした。

 王女様は恐怖に震えながら彼が落ちたあたりをまだ見つめておりましたが、そのとき、頭上で何かが疾駆して近づいてくる物音が彼女の注意をとらえました。見上げると2台の戦車がそれぞれ反対の方角から急速に近づいてくるのが見えました。1台は明るく輝いており、白鳥と孔雀に引かれておりました。そして中に座っているのは日光のように美しい妖精でした。もう1台は蝙蝠と鴉に引かれており、中には蛇皮の服をまとい頭には帽子のかわりに巨大なヒキガエルを被った背丈の低い恐ろしい侏儒が乗っていました。2台の戦車は空中で激しく衝突し、王女様が息をこらし、ハラハラしながら見つめていますと、黄金の槍を持った美しい妖精と錆びた矛を持った醜悪な侏儒との間で猛烈な闘いが起こりました。

 しかし、すぐに美しい妖精の優勢が明らかになり、侏儒は蝙蝠の頭をめぐらせ、大慌てで瞬く間に飛び去っていきました。妖精は王女様が立っているところまで降りて来て、微笑みながら言いました。
「ご覧なさいませ、王女様、あの悪意に満ちた年寄りのカラボスを完全に打ち負かしました。信じられないかもしれませんが、彼女はあなたが20年が満ちる4日前に塔から出ていらっしゃったので、永久にあなたを支配する権限を主張しようとしたのです。でも、私が彼女の傲慢をおさえてやりました。あなたがお幸せになられ、私があなたのために勝ち取った自由を享受なさることを望みます。」

 王女様は彼女に心から感謝しました。妖精は孔雀のうち一羽をメイブロッサムのための豪華なローブを持ってくるよう宮殿へと派遣しました。確かにメイブロッサムにはそれが必要でした。何故なら彼女のローブは棘や茨でちりぢりに破けていたからです。もう1羽の孔雀は提督のもとへと遣わされ、もう完全に安全に上陸できることを彼に告げました。彼は直ちに全兵士を率いて上陸しました。お喋り屋も連れていきました。お喋り屋はちょうど提督の食事用のお肉が炙られている焼き串のところを通りかかりましたので、それを掴み取って持って行きました。

 やってきたコックトハット提督は黄金の戦車に非常に驚きましたが、少し離れた木陰を二人の美しい貴婦人が歩いているのを見るともっと驚きました。二人のところへ行きますと、貴婦人の一人が王女様だと彼には勿論わかりました。提督は跪き、とても喜ばしげに彼女の手にキスをしました。それから王女様は彼を妖精に紹介し、カラボスがついに敗北した次第を語りました。提督は妖精に感謝と祝福を捧げ、妖精は彼にとても丁重に接しました。

 話している最中に妖精は突然叫び声をあげました。
「お肉料理の良い匂いがしますわね!」
「さようでございますとも、奥様、こちらにございますよ」とお喋り屋が焼き串を捧げながら言いました。キジ肉やらヤマウズラの肉やらがどれもジュージュー音を立てて焼けておりました。
「どれかお召し上がりになりますか。」
「ぜひとも」と妖精が言いました。「特に王女様は美味しいお食事をお喜びでしょう。」

 そこで提督は必要なもの一式を船に取りに行かせました。そして彼らは木陰で楽しく宴を開きました。皆が食事を終えた頃、孔雀が王女様のためにローブを持って帰ってきましたので、妖精がそれを彼女に着せました。それは緑色と金色の金蘭で真珠やルビーの縫い取りが施されておりました。彼女の長い金髪はダイヤモンドとエメラルドを連ねた飾り紐で後ろに結われ、花の冠がかぶせられました。妖精は王女様を黄金の戦車に乗せ、自分の横に座らせました。そして彼女を提督の船の甲板に降ろすと、そこでお暇を乞いました。王妃様へのたくさんの友情溢れる伝言をことづけ、自分が洗礼式に参列した5番目の妖精であることを王妃様にお伝え願います、と王女様に告げました。

 礼砲が鳴らされ、艦隊は錨を引き上げ、一行はほどなく港に到着しました。港では王様と王妃様がお待ちで、お二人はたいへんなお喜びとお優しさでもって王女様をお迎えになりましたものですから、王女様はあんな性根の腐った大使と駆け落ちしたことをどれほど申し訳なく思っているかを申し上げたかったのですが、一言もさしはさむ隙間がありませんでした。しかし、結局のところ、何もかもすべてカラボスのせいだったのです。

 このおめでたい時に到着したのは誰あろう、マーリン王のご子息でした。大使から何の報告も届かないのを心配し、何事が起こったのかを調べるために、1000騎の騎士と金色と緋色の制服を着た30名の近衛兵からなる堂々たる護衛を率い、ご子息は自ら出かけてこられたのでした。彼は大使の百倍もハンサムで凜々しかったものですから、王女様は彼のことをとっても好きになれそうと思いました。というわけで、結婚式が直ちに行われました。実にご立派で歓喜に満ちたお式でございましたので、それまでのいろいろな不幸はすっかり忘れ去られるほどでした。

「メイブロッサム王女」はこれでお終いです。

最後は「めでたし、めでたし」でしたね。
ハッピーエンドに至るまでにはいろいろなことがありました。考えさせられることも多かったのですが、何はともあれ歓喜と祝福の中で終わって良かったです。

それにしても、メイブロッサム王女はまたしてもハンサムで凜々しい男性に心を奪われそうな予感がしますが、今度は大丈夫でしょうか。消息不明の大使を救うため自ら騎士たちを率いてやってくるほどの王子様ですから、きっと品性優れた、立派な方なのだろうと信じたいです。王子様、どうぞメイブロッサム王女を幸せにしてあげてくださいね。

          
 このお話の原作者はドーノワ夫人(マリー=カトリーヌ・ル・ジュメル・ド・バルヌヴィルとも)というフランスの作家です。『メイブロッサム王女』はドーノワ夫人の作品集『妖精物語』(1697年)の中に含まれています。『妖精物語』には他にも魅力的な物語がたくさん入っていますので、機会がありましたら訳してみたいと思います。

『メイブロッサム王女』の英訳版は、いつもご紹介していますように、アンドルー・ラング編『あかいろの童話集』の中に収録されています。

最近、偶然、この童話集の日本語訳が刊行されているのを見つけましたので、お知らせいたします。

西村醇子監修『アンドルー・ラング世界童話集 第2巻 (あかいろの童話集)』(東京創元社、 2008年)


今回もお読み下さり、ありがとうございました。
次回をどうぞお楽しみに。

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