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[西洋の古い物語]「メイブロッサム王女」第5回

こんにちは。
いつもお読み下さり、ありがとうございます。
「メイブロッサム王女」第5回です。
ファンファロネード大使に一目惚れし、彼と駆け落ちしたメイブロッサム王女。上陸した離れ小島で、果たして二人は仲良く過ごしているでしょうか。
今回もご一緒にお読みくださいましたら幸いです。

※画像は、お話とは関係ないのですが、シェイクスピアの『夏の夜の夢』で、妖精の女王タイターニアが妖精たちが歌う子守歌を聞きながら眠る様子を描いたイラストをパブリック・ドメインで見つけました。メイブロッサム王女も森の中でこんなふうにすやすや眠れるとよいのですが・・・。


「メイブロッサム王女」第5回

 一方、メイブロッサム王女はその頃にはもう眠くてたまらなくなりましたので、木陰に少し盛り上がった草地を見つけてそこに身を投げ出し、すっかり深い眠りに落ちていました。

 そこへファンファロネードがやってきました。彼は空腹でしたが眠くはありませんでした。そして、とても不機嫌な様子で言いました。
「ねえ、王女様、一体いつまでここにいるつもりですか。何も食べる物もないのに。そりゃあ、あなたはとてもチャーミングですけど、あなたを眺めていても腹の足しにはなりませんからね。」
「何ですって!ファンファロネード様」と王女様は起き上がって目をこすりながら言いました。「私と一緒にいるのに他に何かが欲しいだなんて、そんなことあり得ませんわ!ご自分がどれほど幸せかを四六時中お考えになるべきよ。」
「幸せですと!」と彼は叫びました。「いや、むしろ不幸せですよ。あなたなんか、もとの暗い塔に戻ったらいいんですよ。心からそう願いたいね。」
「ねえあなた、意地悪はよしてくださいな」と王女様は言いました。「私、何か果物でも生えてないか見てきますわ。」
ファンファロネードは怒った声で言いました。
「あなたなんか、いっそ狼に出くわして食われてしまえばいいのに。」

 王女様はすっかり気落ちしながら森中をあちらこちらと走り回りました。ドレスは破れ、可愛らしい白い手は棘や茨で傷つきました。でも、何も食べられそうなものを見つけることができず、結局彼女はファンファロネードの所にしょんぼりして戻らねばなりませんでした。彼女が手ぶらで帰ってきたのを見ると、彼は起き上がり、ぶつぶつ言いながら彼女を置いて立ち去りました。

 翌日も彼らは探しましたが、収穫はありませんでした。
「ああ!」と王女様は言いました。「あなたのために食べ物を見つけられさえすれば、私、自分がお腹がすいていることなんか気にならないわ。」
「僕だって、あなたの空腹なんか知ったこっちゃないさ」とファンファロネードは答えました。
「まさかあなたは」と彼女は言いました。「私が空腹で死んでも気にならないとおっしゃるの?ああ、ファンファロネード様、あなた、私のことを愛していると言って下さったのに!」
「あの時はあの時ですよ。それに腹も減ってなかったしね」と彼は言いました。「離れ小島で飲まず食わずで死にかけているときには、考えもガラリと変わるんですよ。」

 これを聞いて王女様はひどく悲しみ、白薔薇の茂みの下に腰を下ろして悲しげに泣き始めました。
「幸せな薔薇たちよ」と彼女は心の中で思いました。「この子たちはお日様の光の中でただ咲いて褒めそやされるだけでよいのだから。この子たちに辛くあたる者は誰もいないのですもの。」
涙が彼女の頬を滑り落ち、薔薇の木の根元にピチョンと落ちました。すると、茂みがサラサラと鳴って揺れ始めましたので、それを見た彼女はびっくりしました。一番美しい薔薇の蕾が優しい小さな声で言いました。
「お可哀想な王女様!あそこの木株の中を覗いてごらんなさいませ。蜂の巣がございますよ。でも、ファンファロネードに分けてやるような馬鹿な真似はなさらないでくださいましね。」

 メイブロッサムはその木のところへ駆けて行きました。そこには確かに蜂蜜がありました。一瞬も無駄にせず彼女はファンファロネードのところへと走っていき、明るい声で叫びました。
「ほら、ご覧になって!蜂の巣を見つけましたの。一人で全部食べてもよかったのですが、やっぱりあなたとご一緒に分け合いたいの。」

 しかし、彼女の方を見もせず、ありがとうとも言わずに、彼は蜂の巣を彼女の手からもぎ取り、彼女には一かけらも与えずに最後の一口まで全部食べてしまいました。実は、彼女が「少しくださいな」と慎ましやかに頼んだ時、彼は、「甘過ぎるから虫歯になりますよ」と嘲るように言ったのです。

 メイブロッサムはそれまで以上に打ちひしがれて歩いて行き、とある樫の木の下に座りました。彼女の涙と溜め息があまりに哀れでしたので、樫の木は葉をサラサラ鳴らして彼女を扇ぎ、言いました。
「勇気を出して、お可愛らしい王女様、まだ全てがお終いというわけではありません。この壺の牛乳をどうぞ。全部飲み干しなされ。とにかくファンファロネードには一滴もお残しにならないようになさるんですぞ。」

 王女様はとてもびっくりして辺りを見回しました。すると、なみなみと牛乳が入った大きな壺がありました。でも、それを唇のところまで持ち上げるよりも前に、蜂蜜を少なくとも15ポンドも食べた後でファンファロネードはどれほど喉が渇いているだろうと考えますと、彼女は彼のところに走って戻り、こう言わずにはおれませんでした。
「ほら、牛乳が壺に一杯ありますわ。少しお飲みになって。きっと喉が渇いていらっしゃるでしょうから。でもどうか私にも少し残して下さいね。お腹が空いて、喉が渇いて死にそうなのですもの。」

 しかし彼は壺をひったくると中身を全部一息に飲み干し、手近な所にあった石で壺を粉々に壊してしまいました。悪意に満ちた笑いを浮かべてこんなことを言いながら。
「あなたは何も食べていないから、喉が渇いているはずありませんよね。」

「ああ!」と王女様は叫びました。「王様と王妃様を失望させて、どんな人かも全然知らないのにこの大使と駆け落ちしたりして、きっと罰が当たったのだわ。」
そう言いながら彼女は深い森の奧へとふらふらと歩いて行き、茨の木の下に座りました。すると、そこでさえずっておりましたナイチンゲールがこう言うのが聞こえました。
「茂みの下をお探しなさいませ、王女様。お砂糖とアーモンドとタルトが少し見つかるでしょう。でも、ファンファロネードに少しでも分けてやるなんて馬鹿なことはなさいますな。」

 今度という今度は空腹で気が遠くなりそうでしたので、王女様はナイチンゲールの忠告をきき、見つけたもの全部を自分一人で食べました。しかし、ファンファロネードは彼女が美味しそうなものを見つけたのに彼に分けようとしないのを見ると激怒して、走って彼女を追いかけて来ました。そこで彼女は、大急ぎで王妃様の石榴石を引っ張り出しました。この宝石には危険に瀕している者の姿を見えなくする力があるのです。安全に彼から姿を隠しますと、彼女は彼の思いやりのなさを優しくなじりました。

「メイブロッサム王女」第5回はここまでです。

ファンファロネードはひどい人ですね。困った時にこそ、人の本性は現れるものですね。20歳まで塔で暮らしたメイブロッサム王女は世間知らずで軽はずみだったかもしれません。でも、僅かな食べ物を彼と分け合おうと大急ぎで持ってくる彼女の純粋で優しい心をふみにじるなんて・・・。かわいそうなメイブロッサム王女は、これからどうなるのでしょう。心配です。
          
このお話の原文は以下の物語集に収録されています。

今回もお読み下さり、ありがとうございました。
「メイブロッサム王女」は次回で最終回です。
最後までお付き合いいただけましたら幸いです。

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