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[西洋の古い物語]「メイブロッサム王女」第2回

こんにちは。
いつもお読み下さり、ありがとうございます。
「メイブロッサム王女」第2回です。
ご一緒にお読みくださいましたら幸いです。
※ 画像はアルフォンス・ミュシャ作「四季・春」(1896年)です。パブリック・ドメインからお借りしました。

「メイブロッサム王女」第2回

 王女様はほころび始めた花のように瑞々しく、まさに春そのもののようでしたので、メイブロッサムと名付けられました。彼女はすらりと背も伸びて美しく成長し、彼女がなすこと言うことすべてが魅力的でした。王様と王妃様は彼女に会いに来るたびにそれまでよりもずっと喜ばしい気持ちになるのでした。でも、塔の暮らしに飽き飽きした王女様が「連れて出てください」といくらお願いしても、お二人は決まって駄目だとおっしゃるのでした。乳母は王女様のお側を片時も離れず、塔の外の世界について時々お話ししました。王女様は自分の目では何も見ていないのに、あの二番目の妖精の贈り物のおかげで、いつも正確に理解することができました。王様は王妃様によくこんなふうにおっしゃいました。
「結局、我々はカラボスよりも利口だったね。彼女はあんなふうに予言したけれど、可愛いメイブロッサムは幸せになるだろう。」
そして王妃様はあの年老いた妖精を出し抜いたと思うと、心ゆくまでお笑いになるのでした。

 お二人は王女様の肖像画を描かせ、近隣の宮廷全てにそれを送らせました。と言いますのも、あと4日で彼女はちょうど二十歳になるからで、結婚のお相手を決める頃合いだったからです。王女様が自由の身になる時が近づいていることに町中が大喜びしていました。そして、マーリン王がご子息のために王女様をいただきたいと結婚を申し込むため、大使を派遣するという知らせがもたらされますと、皆はそれまでにもまして喜びました。乳母は町で起こったことを全て王女様に知らせていましたから、王女様の身にこれほど近しく関係する知らせをお伝えしないはずもなく、大使のファンファロネード殿が町に入場なさるときはさぞご立派でしょうとあれこれ話しましたので、王女様は大使一行の行列を自分の目で見たくてならなくなりました。

「私はなんて不幸せなのかしら」と彼女は叫びました。
「まるで何か罪を犯しでもしたみたいにこの陰気な塔に閉じ込められているなんて!お日様もお星様も、馬も猿もライオンも絵の中でしか見たことがないのよ。王様と王妃様は二十歳になったら自由になれるとおっしゃるけど、ただの嬉しがらせだと思うわ。外に出して下さるおつもりなんか全くないのよ。」
そして彼女は泣き始めました。
すると乳母も乳母の娘も、ゆりかごを揺する係の侍女も子供部屋付きのメイドも、王女様を心から愛していましたので、皆一緒に泣きました。啜り泣きとため息の他は何も聞こえず、それは悲しい光景でした。

 皆が自分を可哀想に思っているのを見ると王女様は自分の思い通りにしようと心を決めました。そこで彼女は、もしファンファロネード殿が威風堂々と町へ入ってくるのが見られる方法を彼女たちが見つけ出さなければ、絶食して死ぬつもりだと宣言したのです。
「私のことを本当に愛してくれているのなら、とにかく何とかして頂戴。このことは王様も王妃様もご存知になる必要のないことよ。」

 すると、乳母をはじめ一同はそれまで以上にひどく泣き出し、王女様が考え直してくれるよう、思いつく限りありとあらゆることを申し上げました。しかし、彼女たちが言えば言うほど王女様の決心はいよいよ固くなりました。そしてついに皆は、町の門に面している側の塔の壁に小さな穴をあけることに同意したのでした。

 昼も夜もずっとひっかいたりこすったりした挙句、彼女たちはやがて穴をあけました。それは苦労してやっとごく細い針を押し込めるほどの穴でした。その穴から王女様は初めて昼間の光を見たのでした。彼女はすっかり目を奪われ、大喜びしました。そして、そこから動かず、僅かな時間も覗き穴から目を離しませんでした。するとついに大使の行列が視界に現れました。

 白馬に乗ったファンファロネードその人が行列を先導していました。馬は喇叭の音に合わせて跳ねたり半旋回したりしました。大使の衣装ときたら、これ以上はないほど豪華でした。上着は真珠やダイヤモンドの縫取りで殆ど覆われ、長靴は純金製、兜からは緋色の羽毛がたなびいておりました。彼の姿を見て王女様は完全に心を奪われ、ファンファロネード以外の人とは結婚しないと心に決めました。

「あの方のご主人があの方の半分もハンサムで素敵でいらっしゃるわけないわ。」と彼女は言いました。「私、高望みはしないわ。これまでずっとこの退屈な塔の中で暮らしてきたのですもの、何でも、田舎のおうちでさえも、嬉しい変化だと思えるわ。他の誰かとローストチキンと砂糖菓子をいただくより、ファンファロネード様と分け合うパンとお水のほうがずっとよくってよ。」

 そして彼女は喋って喋って喋り続けました。そんなお喋りのネタをどこから得たのだろうと侍女たちが不思議に思うほどでした。お喋りをやめさせようとしたり、彼女の高い地位ではそんなことは全く不可能ですと申し上げても、彼女は聞こうとせず、皆に黙るよう命じるのでした。

 大使が宮殿に到着するとすぐ、王妃様は娘を連れてこようと立ち上がりました。街路という街路には敷物が広げられ、どの窓も王女様を一目見ようと待っている貴婦人方でいっぱいでした。貴婦人方は王女様がお通りになるときに注ぎかけようと花やお菓子の入ったバスケットを手にしておりました。

 王女様のお支度はまだほとんど始まっていませんでした。そこへ、一人の侏儒が象にまたがってやってきました。彼はあの5名の妖精たちから遣わされ、王女様のために王冠、王笏、金襴のローブ、そして蝶の羽で素晴らしい刺繍を施したペチコートを運んできたのでした。妖精たちは宝石が詰まった箱も届けさせましたが、それは誰も見たことがないほど豪華なもので、箱を開いた王妃様はすっかり目が眩んでしまったほどでした。しかし、王女様はこれらの宝物にはほとんど目もくれませんでした。何故なら彼女はファンファロネードのことしか考えていなかったからです。

 侏儒はご褒美に金貨をひとつ頂戴しました。またたくさんのリボンで飾っていただきましたので、侏儒の姿はほとんど見えないほどでした。王女様は妖精たち一人一人に、新しい糸車にシダー材でできた糸巻き棒を添えて贈りました。王妃様は「私の宝物の中からとびきり素敵なものを選んで妖精たちに送らなきゃ」とおっしゃいました。

 侏儒が届けた豪華な品々を全て身につけて装いますと、王女様はますます美しくなりました。彼女が街路を歩みますと人々は歓呼しました。
「なんてお綺麗なのでしょう!なんてお美しいのでしょう!」

「メイブロッサム王女」第2回はここまでです。

ファンファロネード大使に一目惚れしてしまったメイブロッサム王女ですが、なんだか危なっかしいですね。これからどうなるのでしょうか。訳しながらとっても心配になりました。

          
このお話の原文は以下の物語集に収録されています。


最後までお読み下さり、ありがとうございました。
次回をどうぞお楽しみに。

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