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『7人の聖勇士の物語』第7章     イタリアの騎士聖アンソニーが巨人と闘って重傷を負い、白鳥の乙女たちの長女ロザリンド姫に助けられるお話

こんにちは。
いつもお読みくださりありがとうございます。

最近、セリアで売っているウィリアム・モリスのデザインのカレンダーや手帳が人気です。便箋、封筒、付箋もありましたよ、と知人が教えてくれました。私もウィリアム・モリスは大好きで、「いちごどろぼう」とか「アネモネ」とか、好きな柄のグッズを街角で見かけると、つい心惹かれます。

セリアの商品を紹介してくださっているブロガーの皆さんもとてもオススメで、人気のため完売商品も多いとのこと。仕事帰りに駅前のお店に行ってみると、やはり殆ど売り切れでした。かろうじて便箋が残っていましたが、揃いの柄の封筒はもうありませんでした。

19世紀英国、産業革命の光と影のなか、昔ながらの職人の手仕事の美が工場での画一的な大量生産にとって代わられるのを嘆いたモリスは、生活と芸術の統一を理想として「アーツ・アンド・クラフト運動」を唱えました。

「役に立つかわからないものや美しいと思えないものを家の中に置いておいてはならない」というモリスの有名な言葉は、「誰にでもあてはまる黄金のルール」なのだそうです。原文を探すと、“If you want a golden rule that will fit everybody, have nothing in your house that you do not know to be useful, or believe to be beautiful.”とありました。

見れば、パソコンの周囲にはいつからそこにあるのか不明なものが雑然と置いてあります。食器棚には使わない食器がパンパンに詰め込まれています。置いたのは私、詰め込んだのも私。日常の暮らしの場を快適で美しい空間として整えることがまずは大切なのですね。私にはとても難しいことですが、少しずつでも心がけていきたいものです。

『7人の聖勇士の物語』の続きです。

『7人の聖勇士の物語』
第7章 イタリアの騎士聖アンソニーの冒険

では、イタリアの聖アンソニーが真鍮の柱のところで友と別れた後に出会った冒険について、これからお話しいたしましょう。古の先祖アイネイアスのように船に乗り、聖アンソニーと従者は地中海を渡りました。敬虔なるアイネイアスは地中海を西の方向へと航海しましたが、彼は東の方向へと進みました。彼が出会った冒険は枚挙に暇がありません。
(※アイネイアスはトロイアの勇士。古代ローマ建国の祖と言われています。炎上するトロイアを脱出したアイネイアスの苦難に満ちた冒険を描いたのがヴェルギリウスの叙事詩『アエネーイス』なのですね。)
 
聖アンソニーが乗った船は、嵐にもまれたかと思えば、今度は巨大な海の怪獣に追いかけられました。怪獣の口はあまりにも巨大でしたので、恐れおののいた船乗りたちは船もろともまるごと呑み込まれると思ったほどでした。しかし、聖アンソニーは武具に身を固めて船尾に立つと、怪獣の面前で槍を雄々しく振り回し、怪獣を寄せ付けませんでした。忠実な従者の発する叫び声も効を発しましたので、怪獣は船とその名高い船客を煩わさずに進ませようという気になり、後ろを向いて逃げ出しました。
 
とうとうアジアの古(いにしえ)の岸辺に到達しました。さらに旅を続けながら、毎日、聞いたこともないような驚くべき偉業をなし、獰猛な怪獣と闘ったり、無数の野獣を打ち倒したりしながら、聖アンソニーと従者のニッコロははるか遠くまで名声が轟くグルジア王国に到着しました。
(※グルジアは今日では「ジョージア」と訳すべきなのですが、いにしえの王国の名前なのでグルジアと訳しています。)
 
しばらく行くと、峨々たる大コーカサス山脈を登ることとなり、細い一本道や薄暗い峡谷を抜けていきました。頭上高くには巨人のごとき偉容を誇るエルブルス山がそびえておりました。どんどん高く登っていきますと、目の前に真鍮の門を構えた大理石の城が現われました。彼らがあらかじめ探ったところによると、その城はブランデロンという巨人の持物であると推察されました。正門の上には次のような詩が掲げてありました。
 
「この城に住むは王たちの災い、
獰猛なる巨人、その征服されざる力は
グルジア王を屈服させ、
王女らを捕えて塔の中に閉じ込めている。
怪物のごとき巨人は七人の美しい乙女を捕え、
乙女らは、夜毎巨人が眠る間、歌を歌って聞かせるのだ。
巨人の鋼鉄の刃は千人の騎士を味わった、
騎士たちは皆、乙女らのために命を失ったのだ。
 
しかし、大勢の騎士たちに死を与えたというのに、
残酷この上ない巨人はいまも生きている。
軽率にもこの山の高みまで登ってきた
考えなしの通行人は、命ある間によく気を付けよ。
 
だが、この塔を通りかかった
立派な騎士や高潔な男子で、
乙女らへの真心から
巨人の力に抗い己の強さを試そうという者には、
首尾良い勝利と成功を日夜祈る乙女の祈りが与えられるだろう。」
 
この詩はアジアの善良な妖精の力によってそこに掲げられたもので、巨人には見えませんでした。さもなければ、多分、巨人は掲げておくのを許さなかったことでしょう。この詩は勇敢な騎士をとても勇気づけました。貴婦人たちを解放しようと心に決めて、聖アンソニーが剣の柄頭で城門に猛烈な一撃を食らわせますと、すさまじい落雷のような音が響き渡りました。
 
この時巨人ブランデロンは眠っていたのですが、これを聞くと跳び起きて、手に巨大な樫の木を携え、城門のところへとやってきました。その樫の木を頭上でまるで軽い戦斧のように振り回し、この木に比べたら騎士の槍などイグサにすぎぬ、と大声で言い、騎士と従者を山の絶壁から投げ落としてやる、と脅しました。
 
「行動が伴わない言葉など空しいものだ。やれるものならやってみろ。」と騎士はなじりました。
そして、馬を従者に預け、頼りになる愛剣を抜くと、巨大な敵の襲撃を受けるために身構えました。しかし、ブランデロンが樫の木をあまりにも激しく振り回すので、聖アンソニーは打撃を避けるため、動ける限りあちらこちらと跳びすさらねばなりませんでした。
 
巨人の打撃によって大地は揺れ、城壁は鳴り響きました。騎士は息つく暇もありません。巨人が屈強であるとわかっていたからです。さて、灼熱の陽光のために巨人は息切れがし、汗が眉をつたって両目に入り、目がほとんど見えなくなってきました。これを見ると、騎士はこれまで以上に激しく戦斧で攻撃を重ね、とうとう巨人は城壁内に逃げ込まざるを得なくなりました。
 
城壁内に行き着く前に巨人はつかんでいた巨大な樫の木を手から離しました。これを見て聖アンソニーは力を倍加して一層激しく巨人に打ちかかりました。巨人は膝をつき、それ以上逃げることができませんでした。しかし、巨人はまだまだ怯まず、常人が両手で扱う剣の二倍はある大きな短剣を引き抜きました。この短剣で巨人は右へ左へ非常にすばやく斬りかかりました。騎士はその打撃をかわすのにたいそう苦労しました。巨人の巨体に致命的な一撃をお返しできる急所を見つけるのはもっとたいへんでした。
 
しかし、遂に巨人が疲れを見せると、聖アンソニーは突進し、見るも恐ろしい巨人の頭を一撃で真っ二つに切り裂きました。続く一撃で首を切り落とし、武勲の戦利品として前に掲げて運ぶよう、ニッコロに首を手渡しました。しかし、あまりにも激しく奮闘したものですから、騎士自身も気を失って地面に倒れてしまいました。忠実な従者は主人が死んでしまったと思い、傍らに跪いて主人の死を哀悼し、涙にむせびました。
 
ところで、巨人に捕われていたグルジア王の娘の一人、美しいロザリンドは、たまたま城の胸壁ごしに外を見ましたところ、巨人の首なしの胴体が目に入りました。誰か勇敢な騎士によって巨人が殺され、自らの囚われの身の上が終る時が来たことを彼女は察しました。
 
ロザリンドは、城門のほうへと降りてきて、息絶えたと思われる戦士を見つけました。ニッコロが跪いている向かい側に彼女も跪き、こんなにも勇敢な騎士の運命を悼んで、ニッコロの涙に彼女の涙を合わせました。その時彼女は、城の中に貴重な香油があるのを思い出しました。それを取ってきて、香油を戦士の手足に塗りますと、薬効はめざましく、すぐさま彼は息を吹き返して起き直ると、賛嘆の眼差しで彼女をじっと見つめ、「貴女はどなたでしょうか」と尋ねました。ロザリンドと従者は、城内で栄養と休息をとるまで動かないでください、と騎士に懇願しました。
 
忠実なニッコロが寝台の傍らで見まもるなか、騎士は眠りにつき、ロザリンド姫は彼の食事用にご馳走を用意しました。
 
とうとう彼は目を覚まし、体の具合もよく力も回復しました。姫の助言に従い、騎士はニッコロに、腹を空かせた鴉たちにむさぼり食われるよう、巨人の骸を峨々たる岩山からひきずり落とせと命じました。それが済みますと、グルジアの乙女は城内の驚嘆すべき宝の数々を見せてくれました。まず彼女は彼を真鍮の塔へと案内しましたが、そこには巨人に殺された騎士たちの半甲冑や武具装備が百点ありました。それから彼女は彼を厩に案内しました。そこには百頭の馬がおりました。かつては主人の騎士たちを乗せた馬たちですが、今は痩せこけて、やつれ果てていました。巨人の鉄のベッドもありました。そのベッドは彫刻を施した真鍮の寝具で覆われ、黄金の薄片でできた帳(とばり)がついておりました。その後で姫は水晶のような水をたたえた池を指さしました。その水面には頭の上に黄金の王冠をかぶったミルクのように白い白鳥が6羽おりました。
 
「実は、勇敢な戦士様、あの6羽の白鳥は私の妹たちなのです」と姫は言いました。「私たち7人はグルジア王の娘です。ある日、私たちが狩りに出ましたところ、巨人が城の胸壁から私たちを見つけて駆け下りてまいりました。そして、誰も私たちを助けにこないうちに私たちを小脇に抱えて運び去ったのです。妹たちは、誕生のときに立ち会った親切な妖精の力で白鳥に姿を変えられ、そのおかげで巨人の暴虐を免れることができたのですが、妹たちを完全に解放することは妖精にもできませんでした。私は長女でございます。私が人間の姿を保ちましたのは、音楽のわざによっていつも巨人の怒りを鎮め、手懐けて従えることができたからでございます。逃げることもできたかもしれませんが、私はとどまりました。いつか妹たちを自由の身に戻せるかもしれないという希望を抱いていたからです。というわけですので、もしあの善良な妖精を見つけ出すことができるなら、巨人が死んだことを伝え、ここに連れてきて、妹たちを人間の姿にもどしてもらえるのですが。」
 
騎士は両手で王女の手をとり、「この上なく美しい姫よ、ただちにお父上の都へ急ぎ戻り、妖精をここに遣わしてありがたい仕事をなしてもらいましょう。」と言いました。そして、ずっしりと重い城の鍵をとって城門に鍵をかけ、馬に跨がり、巨人の血まみれの首を掲げたニッコロを従えて、グルジア王の宮廷へと進んで行きました。
 
都の門に近づくと、厳かに弔鐘を打ち鳴らすカリヨンの音が聞こえてきました。その理由を尋ねますと、年老いた門番がこのように答えました。
「あの鐘の音は王様の7人の王女様たちのために鳴っているのです。鐘は7つありまして、それぞれ王女たちの名前にちなんで名付けられております。おかわいそうな王女様たちが失われて以来、この悲しい調べがやむことは一度もございませんでしたし、王女様たちがお戻りになるまでこれからもやむことはないのです。」
 
「ならば、鐘の役割は終りました」と気高い心のロザリンドが答えました。「私たちは王女たちの消息をもってきたのです。」
 
それを聞いて年老いた門番は大喜びし、尖塔へと走っていって鐘を止めました。鐘がいつもの弔いのメロディを奏でるのをやめたのを聞いて、グルジア王はとびあがり、理由を尋ねるために都の門へと急ぎました。そして、長い間失われていた娘が異国の騎士と彼に付き従う従者とともにいるのを目にし、王は喜びました。
 
王はロザリンドから驚くべき話を聞くと、廷臣すべてに、悲しげな喪服を身につけて巨人の城へと随行するよう命じました。そこでもしかしたら残りの6人の娘たちを解放する何らかの手立てを見つけることができるのではないか、と思ったのです。一方、気高い心のロザリンドと聖アンソニーは王の帰還まで都の留守を預かることになりました。
 
長い間待ってもグルジア王は戻りませんでした。イタリアの騎士は、「私が祖国を離れたのは冒険を求めるためですから、そろそろ出発しなければなりません」と、熱っぽい言葉で述べました。
 
これを聞いて気高い心のロザリンドは答えました。
「ああ!この上なく気高いお心のイタリアの戦士様!あなた様がいらっしゃらないなら私はグルジアで安んじることができません。もしあなた様が不実であるとわかれば、もはや空は空ではなく、海は海ではなく、大地は大地でなくなるでしょう。もし私をお連れくださらないのなら、私の柔らかな手はあなたのお馬の轡(くつわ)に取りすがりましょう、テセウスの息子のように私の体が堅い石にあたって打ち砕かれるまで。でも、石がどれだけ堅いといっても、あなたのお心ほど情け知らずはありませんわ。」
(※テセウスはギリシャ神話に登場する英雄。その息子が戦車を駆っているときに海神ポセイドンが遣わした海獣に馬たちが驚き、戦車を制御できなくなった彼は馬に引きずられて死にました。ロザリンド姫は騎士を引き留めるためなら、馬の轡に取りすがり、身を引きずられて死ぬ決心です、と述べています。)
 
気高い心の戦士は、この訴えに対してたった一つの答しかできませんでした。それで彼女にこのように答えました。「貴女を私の真の花嫁として今すぐお連れいたしましょう」と。そして二人はそうすることで合意しました。
 
ロザリンドは、侍童のような出で立ちでした。緑色の薄い絹物をまとい、とても滑らかな子ヤギの皮の半長靴とリディアの鋼でできた細身の長剣を身につけ、肩にはオレンジ色のスカーフをまとい、気立ての良い小型の乗用馬に跨がり、彼女はグルジアの地を離れました。彼女の侍女の一人がやはり侍童の姿に変装して付き従いました。この乙女はニッコロが特に気につけてお世話しました。遍歴の騎士のなかでも最も勇敢で大胆な騎士と、誰も目にしたことがないほど美しい貴婦人の一行は、このようにして旅を続けていきました。
(※侍童は騎士に仕える少年のこと)

今日はここまでです。
お読みくださりありがとうございました。
次回はスコットランドの騎士、聖アンドルーの冒険のお話です。
次回をどうぞお楽しみに!

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