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「ラプンツェル」第1回

こんにちは。
いつもお読みくださり、ありがとうございます。

「ランスロットとエレイン」が終ってから少し間があいてしまい、申し訳ありません。次は「青髯公」をご一緒に読ませていただく予定をしておりましたが、勝手ながら変更しまして、「ラプンツェル」を先にお送りしたいと思います。

「ラプンツェル」はディズニー映画『塔の上のラプンツェル』でもお馴染みのグリム童話です。映画をご覧になった方もたくさんいらっしゃることでしょう。私は見そびれてしまいましたので、機会があればぜひ見たいと想っています。

「ランスロットとエレイン」の物語からインスピレーションを得て詩人アルフレッド・テニソン(1809-92)が作ったという「シャロットの姫」という詩を読み直しました。「シャロットの姫」は塔の中で暮らしている姫君で、窓から外を見ると呪いがかかるため、鏡に映る外の世界の様子を織物に織りながら暮らしているのですが、あるとき、外を通りかかったランスロット卿の姿が鏡に映り恋におちてしまいます。

「シャロットの姫」を読んでいると、急に「ラプンツェル」が読みたくなってしまいました。2回に分けてお送りしたいと思いますので、お付き合いいただけましたら幸いです。

※画像はダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ作「レディ・リリス」(1862年)です。フォトギャラリーからお借りしました。「ラプンツェル」とは関係ないのですが、リリスがくしけずっている黄金の髪に心惹かれました。

「ラプンツェル」第1回

昔々、一人の男とその妻が住んでおりました。彼らはとても不幸せでした。なぜなら彼らには子供がいなかったからです。この善良な二人の家の裏には小さな窓がありました。その窓からはあらゆる種類の美しい花々や野菜でいっぱいの、この上なく美しい庭を眺めることができました。しかし、その庭は高い壁で囲まれており、誰もそこへ入ろうとはしませんでした。といいますのも、その庭は世界中から恐れられている強力な魔力をもった魔女のものだったからです。

ある日のこと、妻が窓辺に立ってその庭を見下ろしておりましたところ、すばらしいカブラギキョウでいっぱいの花壇があるのが見えました。その葉はとても瑞々しく青々として見えましたので、彼女は食べたく思いました。その思いは日に日に強まりましたが、手に入れられないとわかっているため彼女はやつれ、顔色は蒼ざめ、哀れな様子になりました。

夫は不安になって言いました。
「どこが悪いんだい、お前。」
「ああ」彼女は答えました。「家の裏の庭からカブラギキョウを取ってきて食べなければ、私は死んでしまうわ。」
男は妻をとても愛していましたので心の中で考えました。
「さあ!お前の妻を死なせるくらいならカブラギキョウを取ってきてやれ。代償は何であれ。」

そこで、夕闇時になりますと彼は壁を登って魔女の庭に入り、そして大急ぎでカブラギキョウの葉をひとつかみ集めると、それを持って妻のところへ戻りました。彼女はそれでサラダをこしらえましたが、あまりに美味しかったものですからこの禁断の食べ物を食べたいという彼女の望みは以前にもまして強くなりました。彼女が心の安らぎを得るとすれば、夫がもう一度庭の壁を乗越えてカブラギキョウをもう少し取ってくるしかありません。そこで夕暮れ時に再び彼は壁を乗り越えました。ところが、壁の内側に着いたとき彼は恐怖のために後ずさりました。なぜなら、そこにはあの年老いた魔女が彼の目の前に立っていたからです。

「よくも」怒りに満ちた目で彼を見ると彼女は言いました。「お粗末な盗人みたいに私の庭に入ってカブラギキョウを盗もうとしたね。自分の無鉄砲の報いを受けるがいい。」

「ああ!」彼は懇願しました。「厚かましい真似をお許しください。やむを得ずこんな所業に駆り立てられたのです。家内が窓からあなた様のカブラギキョウを見てどうしても欲しくなり、望みが叶えられないときっと死んでしまうほどだったのです。」

すると魔女の怒りは少し和らぎました。そして彼女はこのように言いました。
「そういう訳なら、好きなだけカブラギキョウを取っていくといい。但し、条件が一つある。奥さんがもうすぐ出産する子供を私によこしなさい。子供のことは心配いらないよ。私が母親みたいに世話をするからね。」

男は恐怖のあまり魔女が求めることすべてに同意しました。そして、子供が産まれるとすぐに魔女が姿を現し、子供をラプンツェルと名付けました。ラプンツェルとはカブラギキョウのことです。そして、魔女は子供を連れて行ってしまいました。
(※カブラギキョウは学名Campanula rapunculus [カンパヌラ・ラプンクルス]、ドイツ語ではrapunzel [ラプンツェル]といい、淡紫色の花をつけ、ヨーロッパでは根や葉をサラダに用いるそうです)

ラプンツェルは世界中で最も美しい子供でした。彼女が12歳になりますと年老いた魔女は彼女を大きな森の奥にある塔の中に閉じ込めました。塔には階段も戸口もなく、天辺の高いところに小さな窓が一つあるだけでした。年老いた魔女が中に入ろうと思うときには、窓の下に立ってこのように叫ぶのでした。

「ラプンツェル、ラプンツェル、お前の黄金の髪を垂らしておくれ。」

といいますのも、ラプンツェルの髪は驚くほど長く、金糸を紡いだように美しかったのでした。魔女の声が聞こえるといつも彼女は編んだ髪をほどき、窓からおよそ20ヤード(18メートル)下まで垂らします。魔女はその髪をよじ登ってくるのでした。

数年の間、二人はこのようにして暮らしておりましたが、ある日このようなことが起りました。一人の王子が馬に乗って森を抜ける途中で塔のそばを通りかかったのです。近寄ってみると誰かがいとも甘美に歌っているのが聞こえましたので、王子は呪文にかかったようにじっと立ち尽くし、耳を傾けました。それはラプンツェルでした。彼女は独りぼっちでしたので、美しい声を森中に響かせて時を過ごそうとしていたのでした。王子はその声の持ち主に会いたいと切望し、塔の戸口を探しましたが無駄でした。そこで馬に乗って帰っていきましたが、あの歌声がどうしても耳から離れませんでした。彼は毎日森を訪れては耳を傾けました。

ある日のこと、王子が木の後ろに立っておりますと、あの年老いた魔女が近づいてきてこのように叫ぶのが聞こえました。
「ラプンツェル、ラプンツェル、お前の黄金の髪を垂らしておくれ。」

するとラプンツェルは編んだ髪を垂らし、魔女はそれをよじ登りました。

「つまりあれが階段なのだな」と王子は言いました。「それなら私もあれを登って運試しをしてみよう。」


今回はここまでです。

テキストはプロジェクト・グーテンベルグのThe Red Fairy Bookに所収されているものを用いました。

次回をどうぞお楽しみに。

「ラプンツェル」第2回はこちらからどうぞ。


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