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    少しの資源で生きていく庶民な私の買ってよかったもの備忘録。

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わたしたちの結婚#26/夫の家族とご挨拶の延期

今となっては、なかなかすごい時期だったな、と思うのだけど、その頃は都道府県を超えて移動することは控えた方がいい、というマナーが存在した。 不要不急の外出、とか、自粛、とか、そんな言葉が世間を席巻していた。 「というわけで、こちらの両親への挨拶はしばらく控えて欲しいそうなんだ」 水族館の帰り、夫は申し訳なさそうに私にそう言った。 夫の実家は遠方で、私も気にかけていた。 「そっか。それは仕方ないね。最近はWEBのテレビ電話で挨拶する人もいるみたいだよ。そういう形も考えた

    • わたしたちの結婚#25/楽しい気持ちと空飛ぶイルカ

      恋人ができたら何がしたい? そんな憧れは、誰にでもひとつふたつあると思う。 私にとって、そのひとつが水族館だった。 素敵な彼と、水族館に行く。 あまりにもベタなデートで、少女漫画の主人公は大抵デートで水族館に行く。 けれど、集客力のあるコンテンツが何もない田舎で生まれ育った私の日常に、水族館はなかった。 だからこそ、憧れていた。 キラキラ光が反射する水を見上げて、のびのび泳ぐ魚を見る。 もちろん彼と手を繋いで、彼は魚を見つめる私を見て微笑むのだ。 彼女が可愛く

      • わたしたちの結婚#24/両親への挨拶とこぼれた涙

        1時間に1本、多くても2本しか電車が停まらない駅の閑散とした改札を通って、夫は現れた。 田舎に似つかないしゃれたジャケットを羽織り、ヨックモックの紙袋を下げている。 緊張したようすもなく、朗らかに片手を挙げて、私に到着を知らせた。 「電車で来たのは初めてだけど、なかなか味のある駅だね、君の地元は」 「変なところはないかな?とはいえ、着替えは持ってきていないけど」 夫は自身の身なりを確認してから私の顔を見た。 「大丈夫。今日はバラが綺麗に咲いているから。ふたりともご

        • わたしたちの結婚#23/庭のバラと育てる理由

          庭のバラが見頃だった。 母は満足そうに見つめた。 「どうしてバラを育てようと思ったの?もともとバラが好きだったの?」 私はこれまで不思議に思っていたことを聞いた。 我が家の庭は、それはそれは古めかしい和風の庭で、松や紅葉が主役だった。 その庭の真ん中に、たくさんの鉢植えでバラが丁寧に育てられている。 和風な庭にバラが調和しているとは、なかなか言い難かった。 「好きじゃなかったわ。バラなんて、育て方も知らなかったもの」 母はさらりと言った。 「じゃあどうして」

        わたしたちの結婚#26/夫の家族とご挨拶の延期

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        • わたしたちの結婚
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        記事

          わたしたちの結婚#22/夫の部屋と旅の計画

          この日は特別な日だった。 とはいえ、この頃は特別な日だらけの週末を送っていたので、特別であることがある意味日常だったのだけれど。 そんな日々のなかでも、夫がはじめて家に招待してくれたこの日は、私にとってとても嬉しい日だった。 これまで踏み込んでいなかった部分の夫の一面を知ることが出来ると思うと、やっぱり嬉しかった。 * 夫の暮らす街には、大きな公園があった。せっかくなので、手を繋いで公園をぷらぷら歩いた。 お互いの仕事のことや、休みの取りやすさなんかを話した。

          わたしたちの結婚#22/夫の部屋と旅の計画

          わたしたちの結婚#21/故郷とバラの花

          忘れられないお誕生日会の後、夫は私を家まで送ってくれた。 私の家は、高速道路を飛ばしても2時間かかる場所にあった。 「いつも、こんなに遠いところから会いにきてくれてたの?」 夫は驚いていた。 洗練されたビルからどんどん離れ、田園風景をずんずん進んだ。 「この街で出会った人々の中で、君だけは流れる時間が違う気がしていたんだ」 夫はからかうように笑った。 「なに、田舎者っていいたいの」 私はわざとムキになったようなことを言った。 こんな風に気を許した会話が出来る

          わたしたちの結婚#21/故郷とバラの花

          わたしたちの結婚#20/プロポーズとティータイム

          白い大きなお皿に、一口サイズのサンドイッチ、パイ、タルトが乗っていた。どれも繊細で、食べてしまうのがもったいないくらいだった。 アフタヌーンティーのはずなのに、まず始めに白い大皿がサーブされたことに少し驚いた。 少し戸惑いながらも、サンドイッチに手を伸ばす。 そんな少しの驚きを楽しむように、直後に立派な3段のいかにもアフタヌーンティーというセットが運ばれてきた。 一口サイズのケーキが4種類、さらにスコーンにマフィン。幸せとトキメキを具現化したような存在がそこに並んでい

          わたしたちの結婚#20/プロポーズとティータイム

          わたしたちの結婚#19/プロポーズの日と待ち合わせ

          「今日はどこで結婚式なの?」 行きつけの美容師さんが聞いた。 友人の結婚式のたびに予約していたら、ヘアセットイコール結婚式だと覚えてくれたみたいだ。 私は少しはにかんで、 「今日は違うんです。今日は私がプロポーズしてもらう日なんです」 美容師さんは、目を丸くして驚いた表情をして、 「彼、彼女にそんな重要なネタバラシしちゃってて大丈夫なの?」 とケラケラ笑った。 「じゃあ、とびきり綺麗にしなくちゃ」 そう言い終わる頃には、美容師さんはすっかり職人の顔をしていた。 いつ

          わたしたちの結婚#19/プロポーズの日と待ち合わせ

          わたしたちの結婚#18/空色のワンピースと旅立ちの準備

          「どうしたの?お洋服たくさん出して」 洗濯物を部屋まで持ってきてくれた母が私に声を掛けた。 私は、次の週末にプロポーズしてもらうことと、その日に着ていく洋服を選んでいることを告げた。 気に入っているブラウスとスカートのセットで行くか、きれいめな紺のワンピースで行くかを迷っていた。 「鞄は?」 母は頷きながら聞いた。 「これか、これ」 学生時代から使い倒した革の鞄を見せた。 母は神妙な顔をした後、 「出掛ける準備をして。服を買いに行きましょう」 と母に似合わぬ強い口

          わたしたちの結婚#18/空色のワンピースと旅立ちの準備

          わたしたちの結婚#17/予定外のデート

          「たいへんだ!」 LINEを開くと、大きなクマの絵のスタンプがそう伝えた。 既読をつけるとすぐに電話がかかってきた。 「プロポーズの日に、婚約指輪が間に合わないらしいんだ」 夫はとても慌てた声でそう言った。 ルースから作る指輪は完成に3週間ほどかかるらしく、大型連休もあって通常より遅れているそうだった。 なくてもいい、と私は言ったけれど、夫はそういう訳にはいかないと頑なだった。 「だって、パカってしなくちゃ」 拗ねた子どもみたいに、そう言った。 「じゃあ、100

          わたしたちの結婚#17/予定外のデート

          わたしたちの結婚#16/アフタヌーンティーの練習

          「なるほど。これがティースタンド」 夫は神妙な面持ちで頷いた。 いかにも無骨な男子である夫とアフタヌーンティーセットのツーショットは、なかなかにちぐはぐしていた。 可愛らしいレース風のあしらいのペーパーナプキンや、ピンクのお皿が華やかに並ぶ。 「下から食べるみたいだね。ほら、サンドイッチ、スコーン、デザートの順番で食べていくんだ」 夫は得意げにウェブサイトで手に入れた情報を披露しながら、大きな手で華奢なサンドイッチをつまむと、パクりと一口で食べる。 「自分としては

          わたしたちの結婚#16/アフタヌーンティーの練習

          わたしたちの結婚#15/キラキラとその重み

          TSUTAYAでゼクシィを買った。 分厚くて、辞書みたいだ。 パラパラと開いてみる。 ほとんどが結婚式場の案内だった。 そんな中、お目当てのページを見つけ出す。 婚約指輪。 夫が、どんなのがいいか選んでおいて、と言ってくれたもの。 アクセサリーをほとんどつけない私にとって、未知の世界だった。 定番の一粒ダイヤのもの、小粒のダイヤが散りばめられたエタニティリング、リングに飾りがあしらわれたもの、、、婚約指輪と一言で言っても、多様なデザインがあるようだった。 先に結婚

          わたしたちの結婚#15/キラキラとその重み

          わたしたちの結婚#14/仲人さんとのお茶会

          「で、本当にこの人でいいのね」 喫茶店で向き合って座ると、彼女は真剣な眼差しでは私に確認した。 彼女はベレー帽がよく似合う、可愛らしいおばあさんで、夫の仲人さんだった。 私が頷くと、隣に座った夫は嬉しそうに微笑んだ。 「まったく。すっかり締まりのない顔をするようになったんだから」 言葉とは裏腹に、仲人さんは嬉しそうだった。 夫の登録していた結婚相談所はとても古風なところで、専任の仲人さんがお見合いについてきてくれたり、喫茶店で直接相談できたりするらしい。 夫は婚

          わたしたちの結婚#14/仲人さんとのお茶会

          ようこそ特売ブロッコリー

          スーパーの入り口すぐに、ブロッコリーが売られていた。 特売!98円! ブロッコリーの相場は分からなかったし、少し小ぶりな気がしたけれど、ちょうどブロッコリーが欲しかったのでかごに入れた。 少し進むと、普段の野菜売り場にもブロッコリーが売っていた。 産地も同じで、なんと98円。 見ると、こちらの方が瑞々しく、大ぶりだった。 ふむ。なるほど。 まんまとスーパーの戦略に乗せられてしまったらしい。 カゴの中のブロッコリーを取り出して、目の前のブロッコリーと比べてみた。

          ようこそ特売ブロッコリー

          わたしたちの結婚#13/山上のティータイムと夫の告白

          晴れて“お付き合い”することになったわたしたち。 次のデートは山に行くことになった。 冬の間は止まっているリフトは、春になると動き出すらしく、今年のリフト再開ももうすぐらしい。 「なるほど、じゃあリフトの再開に合わせて行くんだね」 私はリフトに乗って、景色を見に行くのは楽しそうだな、と思った。 「違うよ、リフトが動く前に行くんだ」 「リフトが動き出してしまったら、人で混雑して、景色どころじゃないからね」 夫は不思議なことを言った。 「でもリフトは動いていないん

          わたしたちの結婚#13/山上のティータイムと夫の告白

          わたしたちの結婚#12/訪れた春と繋いだ手

          婚活をしている。 そんなことはすっかり忘れてしまうほど、私たちは旧来の友人のように、当たり前に週末を楽しんでいた。 この日は桜を見に来ていた。 雪深い季節に出会った私たちのもとにも、光さす春が訪れていた。 満開の桜が続く道を歩いていた。 そんな時、夫の言葉で、私は私たちが婚活中であることを思い出した。 「真剣交際に進んでくれませんか」 私は桜から目を離し、夫を見つめた。 「ロンさんはまだ婚活を始めたばかりだ。まだ選びたいと思う。選んでもいい。でも、自分はもうロン

          わたしたちの結婚#12/訪れた春と繋いだ手