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母の日のプレゼント

彼は50代の商社に勤めるビジネスマンで、日々仕事に追われる生活を送っていた。
昨年、突然母が亡くなったとき、彼はある重要な海外プロジェクトを任されてまさに忙しさの絶頂にあった。そのため、突然の不幸の知らせを故郷にいる兄から電話で知らされ、電車の中で慟哭し、深い悲しみに包まれた。しかし、仕事が契約直前だったため、母の次の日の葬式には間に合わなかった。そして、その事実が彼の心をその後、ずっと苦しめていた。

母の日が近づくにつれ、彼の心はますます重くなっていった。母への感謝や愛情を示す機会を逃したことを後悔し、寂しさに包まれていた。ある日、彼は母の実家で形見である古い手紙を見つけた。その手紙には出生の秘密や子育てをしていたころの母からの温かい言葉が綴られており、彼の心を癒してくれた。
母の日が近づくにつれ、彼は母に何か特別なことをしたいと思うようになった。プレゼントを贈ることはできないが、少なくとも母に感謝の気持ちを伝えることはできるはずだと考えた。そこで彼は、母が愛した花を母の墓に植えることを決めた。
母の墓には遠く、交通の便も悪い場所にあったが、彼はそれを理由にせず、母のために時間を割いた。ある週末、彼は仕事を休んで花屋に行き、母が好きだった赤いバラを数本買った。そして、そのまま車に乗り、母の墓所に向かった。
墓所に着くと、彼は花を植える場所を探した。周囲には静かな風景が広がり、心休まる時間が流れていた。彼は赤いバラを丁寧に植え、その姿を見つめながら母への思いを馳せた。そして、静かに手を合わせ、母に感謝の気持ちを伝えた。
その日、彼は母に会えない悲しみを感じながらも、彼女の思い出を大切にし、母の日を迎えた。彼は母が彼に残してくれた愛と温かさを心に留め、新たな一歩を踏み出した。そして、母がいない今でも、彼の心の中にはいつも母の存在があることを感じていた。

母の日が過ぎ、仕事に戻った彼は、仕事と家族とのバランスを大切にすることを心に誓った。母の存在が彼に与えた教訓を忘れることなく、今後の人生を歩んでいくことを決意したのだった。


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