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大学受験がない前提で高校生までにやっておくべき勉強

0.はじめに

 高校までに勉強というものは、大学受験というものに規定されているといっても過言ではない。
 そして、その大学受験を何のためにやるかといえば、「少しでもかっこいい名前の大学に合格したという称号を得るため」である。
 この「かっこいい名前の大学」すなわち「偏差値が高い大学」に合格した人間は「努力する能力」があると勝手に見なされ、大企業などでの採用におけるスクリーニングでふるい落とされることを回避できるからである。
 しかしながら、大学受験を無視し、放送大学などで「将来いつでも学びたいことを勉強したり、研究したいことを研究したりできる」ようになることを目指すとなると、高校までで力を入れるべき科目と、目指すべき習熟度というのは結構変わってくると思われる。
 その点について考えてみたい。

1.評価方法

 評価方法については、SからEまでの「ランキング」と「習得するレベル」の2つに分けて考えてみる。
 ランキングについては下記のとおりである。 

S:後で勉強するのが大変で、かつ応用範囲の広いもの。
A:場数で補うことは可能だが、後で勉強するのが大変で、応用範囲が広  
いもの。
B:場数で習得に時間がかかるが、最低限の慣れがないと場数まで進めないもの。あるいはかなり広い領域で大学での勉強にに進むのために必須なもの。ここまでが「高校で体系的にやっておくべきもの」となる。
C:体系的にやっておかなければならないほどではないが、部分的にやっておくべきもの。
D:やりすぎ注意な学問だが、かじっておく分には悪くないもの。
E:わざわざ高校までで無理にやりこむ必要のないもの。趣味の世界以上の意味がないもの。

2.科目ごとの評価

数学

ランキング:「S」
習得目標:現行高校で学んでいる数学の基本的な問題を教科書を見て理解しながら解けるレベル。

 数学は一度つまずくとまずその先が理解できず、かつ独力での習得がかなり大変な科目であるにもかかわらず、数学ができるかどうかでほぼすべての学問領域で重要な分析ツールを使えるかどうかを左右するという絶大な影響力をもたらす科目である。そのため、とりあえず現行高校で習得できる範囲をすべて「理解」できるレベルまでは仕上げておく必要がある。これができないと大学での学問はほぼ無理といっても言い過ぎではない。
 なお、数学ができると万が一日本語が通じない世界に行ってもとりあえず「役に立つ一線級の仕事」ができる可能性がある。(英語はどんなにできても絶対ネイティブには勝てないため、英語で一線級の仕事はできない。英語が日常会話をこなせる程度でも数学ができるほうがなんとかなりやすい。)
 なお、受験で出てくるような難問を解く意味は全くない。というよりも、そんなものがあるから数学でつまずくやつが多くなる。
 なお、私は中学ぐらいでつまずいてそれ以来苦手になっているため、40過ぎてもやり直している。

現代文

ランキング:「A」
習得目標:とりあえず読書感想文がちゃんと書けてそれなりにまとまった文章の読み書きができるレベル。

 現代文は日本語の「読み書き」ができるようになるために必須の能力である。
 大学での勉強でも仕事でも文章を読み書きする機会はいくらでもあるため、「読むこと」と「書くこと」ができるかどうかは当たり前であるが身につけておかなければならないことである。
 最低限という意味では読書感想文というものは優秀で、とりあえず「読む」ことと「書く」ことをある程度練習する機会になる。それなりに練習すればこのノート程度の駄文はかけるようになるため、後は場数を踏んだり人に読んでもらったりして鍛えれば、より良い文章を書くことは可能である。
 しかしながら、数学と比べるとまだ高校を卒業してからでも「場数」で補える可能性が高いので、数学よりランキングを一つ落としてAとした。

英語

ランキング:「B」
習得目標:英語の文の構造がなんとなく理解できたり最低限伝わる発音ができるレベル。

 英語は学問をやる際に応用範囲が広く、ぜひとも身につけておきたい技術である。
 そう考えると「いやSだろ」という意見も出てくるだろうが、使わないとあっという間に劣化するうえ、磨きなおせば結構何とかなる領域であり、また、結構習得できるかは「やる気次第」の要素がある。
 そのため、「後で何とかなる」度が数学や現代文よりはかなり高いので、Bとした。

物理

ランキング:「B」
習得目標:高校でやる範囲一通りと実験・観察のレポートをどうにか書けるレベル

 物理は自然科学をやるうえで、基礎となる学問である。
 物理ができないと化学や地学ができず、化学ができなければ生物に関する理解も遅れるため、他の「理科」よりは重要である。
 また、実験と観察の手法を学ぶこともやっておきたい。これに慣れているかどうかは結構大きな差になる。
 ただし、数学ができると理解しやすさがぐっと上がり、後で勉強しようがあることと、社会科学や人文科学まで応用範囲がないところから、Bとした。

体育

ランキング:B
習得目標:体の鍛え方と体調管理の方法がわかるレベル
 ある意味最も現代の学校教育で失敗している部分。
 無駄にスポーツで優劣をつけたりするよりも、体の鍛え方と体調の整え方を覚えさせるほうが意味がある。そういう意味ではむしろボディビルダーこそ体育教師にピッタリである。
 学ぶ分には後でいくらでも学べるが、実行そのものについて若い時に習得していれば習得しているほど役に立つ。結構基本的なことが多いので、やっておくことは意味がある。
 なお、ここに家庭科などで学ぶ「栄養学」も入る。

化学・生物

ランキング:C
習得目標:実験と観察をやりながらレポートがどうにかかけるレベル。
 化学や生物は、基本的に物理がある程度理解できないときちんと理解できない科目である。しかしながら、多くの人にとって実験と観察は物理よりも化学や生物から入ることになるし、そのほうが楽しくてわかりやすいことが多い。また、化学や生物特有の実験と観察における注意点などもあり、できるに越したことはない。
 体系的に勉強するのは大学に入ってからでもいけるが、存在に触れておくとやりやすくなるという意味でCとした。

地理・地学

ランキング:C
習得目標:自然と人間の「制約条件」を知っておく。
 地理も地学もあるいみ我々がよって立つ世界の制約条件を巨視的にみる学問であり、存在を知っておくだけで社会科学や人文学をやる際には必修というべきそ学問である。とりわけ地理を知らずに政治経済や歴史を語るなど論外である。
 それなりに応用範囲はいろいが、体系的な勉強は高校を卒業してからでもやりやすいため、Cとした。

古典・漢文

ランキング:C‐
習得目標:とりあえずいざというときに読めるレベル。
 古典・漢文は日本の歴史を学ぶ上ではないと厳しく、また、法学を学ぶ際にも昔の判例を読む際には結構文語調の判例が出てくるので、この方面を志すならやっておいたほうがいい分野である。これらの学問では「原典」に変えることを求められる。しかしながら、それらに興味がないとマジで全く必要がないので、応用範囲が狭い。法学でも分野によっては古典や漢文よりも読める外国語の数のほうがものをいうことがある。というよりもそのほうが多い。他のCランクの科目よりも応用範囲が狭いことから、C‐とした。

倫理

ランキング:D
習得目標:適当な論者数名の考え方の比較検討をそれっぽくできるレベル
 やりすぎ注意な科目その1
 倫理は、倫理は、とりあえず「人文学の人たちの言っている難しいけどかっこよさげな言葉」に騙されないようにするために、ワクチン的にやっておいたほうがいい学問である。
 しかしながら、下手にやりこむと人格形成上偉そうになったりするなど、弊害の多い学問である。
 体系的にがっちりやる必要はないが、「よくわからんけど容易じゃない」ことだけわかれば充分である。むしろやりすぎ注意な学問である。

政治・経済

ランキング:D‐
習得目標:巨視的な分析方法や仕組みをなんとなくそういうものとして知っておくレベル
 やりすぎ注意な科目その2
 倫理と同じく、とりあえず「人文学の人たちの言っている難しいけどかっこよさげな言葉」に騙されないようにするために、ワクチン的にやっておいたほうがいい学問である。また、現実的な分析方法を学ぶ上である程度役に立つツールではある。
 しかしながら、下手にやりこむとやっぱり人格形成上偉そうになったり、理論に走って現実を無視したりするなど、弊害の多い学問である。
 倫理と同じく体系的にがっちりやる必要は高校までは特にない。むしろあんまりがっちりやりこむと世の中の味方を誤る可能性がある。そういう意味で、倫理よりもランクを少し下げ、D‐とした。

歴史

ランキング:E
習得目標:やるのであれば古代・中世の一時代について資料比較をがっちりできるレベル。
 歴史からは人間はいろいろなことが学べる。
 結局のところ人間にとって最適な行動を学んだり、未来に起こることを予想したりするには過去から学ぶのが手っ取り早い。
 じゃあなぜEとしたか。
 過去の人を上から目線で比較したり偏った見方をしたりせずに歴史を学ぶには前提として学んでおかなければならない科目が多すぎるのである。
 少なくとも地理・地学は「必修」であり、政治経済もある程度知らないと現実に即した過去に対する評価ができない。そのうえで、相当量の論者の意見を読み込んで「質の良い」見解を探り出したりするためにはそれなりの現代文の技量が必須であり、テーマによっては外から見た見解を学ぶためには外国語の文献などにも当たらなければならないなど、まともに学ぶのが大変である。
 以上の基礎抜きで学ぼうとすると、教科書のように「なぜそのような行動をしたか」の検証がない無味乾燥なものになるか、「自虐史観」や「ネトウヨ式真の近現代史」のような一面的な判断しかできなくなる。
 そういう意味ではやらないに越したことはないうえ、後からいくらでも学ぶことはできる。youtubeにもガチ勢の良質なコンテンツはあふれているし、文献も解説も豊富だ。
 ただし、どうしてもやりたいのであれば、比較的冷静な検討が可能な古代あるいは中世の一時代について、様々な資料を比較検討し、通説とそれ以外の説の比較や「教科書での通説の変化」などをきちんと追うことをお勧めする。これをやっておくと近現代史を勉強したくなった時にも良質な意見を見抜けるようになる。ちなみに私のお勧めは平安末期から鎌倉初期である。理由としては、「吾妻鏡」「玉葉」「平家物語」など、検証できる資料(レベルも信用度も様々なもの)があり、追うべき勢力もそれほどとんでもない数ではなく、概略を理解するのが比較的たやすく(もちろん奥は深い)、それなりに戦乱もあるので飽きにくい。(戦国時代でもよいが、こちらは登場人物や登場勢力が多すぎて好きな人じゃないと理解するのが大変である。)さらに古典とはいえ日本語で勉強でき、歴史学者もあまり「現在の利害関係」と関係なくいろいろな説を展開するので、比較的まともに学びやすい時代だからである。

3.最後に

 最後に、私がここに並べた「ランキング」は、その科目の重要性を語るものではなく、あくまでも「高校生までの環境でないと学べないかどうか」が重要な要素となっている。また、ほかの科目を学ぶ上で前提となっている科目のほうが優先順位が高くなっている。
 受験というものをなくし、生涯学習という観点で高校までの科目を考えてみると、高校生までに学ぶべきことが結構変わ変わってくることがよくわかるかと思う。