29. 杪夏 7日目の蝉
朝、携帯に連絡が入った。
「祖父が朝方亡くなりました。」
近い未来に来るだろうと覚悟はしていたが、まさか今日だとは思わない。
でもそれが死というものなのか。
知らされたとき、不思議と涙は出なかった。
なんでだろう。
大人になって強くなったから?
まだ、現実味を帯びていない。
私はいつも通り、急ぐ訳でもなくシャワーを浴びた。
歯を磨いて。シャツを纏う。髪を整えようと洗面台の鏡をのぞく。
滲んだ私の顔が写った。
よかった。私はまだ私だった。
灼熱すぎてトンボも低空飛行をする午後。
私のかわりに、蝉たちが大声を上げて泣いてくれている。
もっと立派な姿を見せられていれば。
後悔はいつだってまとわりついて、
悲しみも無力さも、すべてをひきずって生活は続いていく。
あなたは死んだけど
私はもう少しこの世界で生きるよ。
晴天の霹靂。
願いは安らかに。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?