サイレン

夜の真ん中で鳴りつづけるサイレンはゆるい周波数で私を弱くした。横たわって夜の暗さに目を慣らすことしかできない。そんなことにしか使われていない私の体は、朝が近づくほど衰えていくみたいだった。マットレスに浸透していく涙がわかる。思ってもいないごめんなさいを積み重ねることは、良い意味で愛してるだった。怯えは愛ゆえってあの人に聞いたことがある気がするし、その人は適齢でしっかりした人としっかりした結婚をしてしっかりした子供を育ててしっかりした毎日を送っている。そのとき、私は将来ドレスと体のあいだにお金を挟まれるような女になるのか、全くわからなかった。1番合っているようでまったく合っていないから、性格診断はするなって、そうやって言ってたよね、先生。私はこの歳になってもお母さんの胎盤を食べてしまいたいと思ってる。CHANELよりGUCCIより卒アルの端に座ってるあの子が良いし、さようならなんて書かなければ良かったし、すっごく大人っぽくなったよね、なんて成人式のあと、祭り、その人たちのだれかの話。脱がす者、脱がされる者、脱ぎたがる者、みんなで過去を箸でつつきながら5%のお酒を適当に呑んで吐いた。
あの時確かにサイレンは鳴ってたの。絶対あの人とは付き合ってたし、指輪のサイズも聞かれてた。朝のニュースは幸せそうだったし、占いも良かった。ご両親にも挨拶に行っていて、得意料理も褒めてくれた。あとはドレスを選ぶだけだった、そのはずだった。
私のサイレンは遠くなっていって、デキ婚の友達の良くない噂をイカの刺身と一緒に飲み込んだ。卒アルの○○しそうな人ランキングってあなどれないよね、と得意気に笑うクラスメイトの下の名前を私は覚えていない。
今日も鳴ってる。

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