黛冬優子/SOS で アイドル「ふゆ」を知る


今までいろいろなアイマスのブランドに触れてきたが、半年前にようやくアイドルマスターシャイニーカラーズを始めた。
そんな新米Pの私だけれど、黛冬優子さんのソロ曲「SOS」を聴いて、居ても立っても居られなくなり筆をとった。

そもそも私がアイマスシリーズを知ったのは高校生の頃、346プロ所属アイドル・一ノ瀬志希さんの「秘密のトワレ」に衝撃を受けたことがきっかけで、それからはアイマス楽曲をゆるゆると漁るという楽しみ方をしていた。
アイマスはとにかく曲が良い。ササキトモコさんやTAKU INOUEさん、田中秀和さんのアイマス曲を好んで聴いている。
しかし正直なところ、アイマス好きを名乗っていながら曲を漁ってはたまにアニメを観たりリズムゲームをしたりする程度しかコンテンツに触れていなかった。

そんな私が、アイドルマスターシャイニーカラーズというゲームでアイマスシリーズの曲以外の楽しみ方を知った。コミュを通してアイドルの生き様や考え方を知ることで、最高なアイマス曲の数々をより深く楽しめるようになったのだ。


黛冬優子さんについて

アイドルマスターシャイニーカラーズ(略称:シャニマス)のサービスが開始した当初からのプレーヤーである弟に毎日布教されていたにも関わらず、重い腰をあげてアプリをインストールしたのは昨年の秋になってからだった。

特に下調べもせず無限10連で気になった子を担当しようかな〜という軽い気持ちでガチャを回していた。まるで絵画のような美しいカードのイラストやSSRのアニメーション演出に圧倒されていたら、とんでもないアイドルに出会ってしまった。あの香川照之のように。


馬鹿みたいにちょろかったと思う。
黛冬優子さんのことなんて何も知らなくて、もちろん彼女の所属するユニットも楽曲も知らなかった。でも、この十数秒足らずのアニメーションでわかる彼女の二面性やアイドル性、ティーンの女の子らしいファッションやヘアメイク全てが私の好みであり、憧れの女の子そのものだった。


「冬優子」と「ふゆ」

シャニマスではまずW.I.N.Gというシナリオをプレイするところからスタートする。担当アイドルをW.I.N.G.という新人の登竜門的な大会で優勝させるためにプロデュース活動を行うというものだ。

冬優子ちゃんのシナリオは街中で彼女をスカウトするところから始まる。「アイドルはとっても魅力的な女の子だけがなれる特別な存在」「ふゆとは正反対の女の子ばかり」真剣な目で話す冬優子ちゃんのアイドル観や自己評価の低さに共感したのを覚えている。

誰にでも愛されて誰にも嫌われないために猫を被り、素顔を見せないという生き方にも、自己評価の低さと本当の自分を受け入れられない気持ちが表れている。アイドル活動を始めたばかりの頃は、プロデューサーに対してでさえ猫を被って接してきた。アイドル活動を行う上でそんな偽の姿をどう扱っていくか、どう自分と向き合うかというのが冬優子ちゃんにとっての課題の一つだった。

もし私がシナリオ担当だったら、プロデューサーが彼女に猫を被らなくても良いと訴えかけ、ありのままの姿でアイドルとして輝いていくという物語を書いていたと思う。
しかし、冬優子ちゃんは偽の自分も本当の自分なんだと受け止めた。猫を被った一面も"可愛くて完璧なアイドル「ふゆ」"に昇華して、アイドル活動を行う上での強みにした。この彼女なりの答えの出し方がとても好きだ。

きっと、アイドルは誰にだって「アイドルとしての顔」があるはずで、私たち顧客側が知らない素顔もあるのだろう。
そんな夢がない話、と思うかもしれないけれど、ふたつの顔がある方が「アイドルとしての顔」という理想の自分の姿がいっそう輝きを増して、見る人に夢を与える存在になれるという人もいるのではないだろうか。
それに、冬優子ちゃんが「ふゆ」として戦うということは、これまでの人生における対人コミュニケーションで培った経験や試行錯誤の結晶である「ふゆ」を武器にするということであり、それは過去の自分を否定しないことを選んだということになる。この選択はプロデューサーからの助言あってのことだけれど、本当にかっこいいと思った。その強さと覚悟に惹かれた。



ストレイライトの「ふゆ」

シャニマスではイベントやカードのコミュなどで冬優子ちゃんの「冬優子」や「ふゆ」としての生き方や魅せ方を知ることができる。

「ふゆ」以外を他人に見せるのを拒む冬優子ちゃんだったが、「ふゆちゃんより冬優子ちゃんの方がいいっすよ!わたしは冬優子ちゃんって呼びたいっす!」と彼女の心にずかずかと入り込む2人の女の子とユニットを組むことになる。

冬優子ちゃんが理想のアイドル像「ふゆ」を貫くのは「アイドルは愛されなければいけない」という強い信念があるからで、「Straylight.run()」というイベントシナリオではそんな冬優子ちゃんと対称的な考えをもつ同ユニットのメンバー、芹沢あさひとのぶつかり合いが描かれている。その他イベントやメインシナリオ、サポートカードなどのコミュでは「ふゆ」や「冬優子」の他に、ストレイライトとしての「ふゆ」についても描かれている。

ストレイライトの楽曲は、アイドルらしいかわいい曲というよりサイバーパンク的なかっこいい曲が多い。衣装も黒をベースに蛍光色を取り入れたスタイリッシュでクールなデザインのものが多い。楽曲の歌詞もユニットメンバーの素のままの生き方や考え方が反映されている。
そのため、ユニット曲を披露するときの冬優子ちゃんは紛れもない「ふゆ」ではあるものの、素の「冬優子」らしさも垣間見えるのだ。それが"ストレイライトのふゆ"としての魅力だと思っている。

そんな中、"ストレイライトのふゆ"ではなく、1人のアイドル・黛冬優子としての初ソロ曲が発表された。

SOS/黛冬優子

感動した。ストレイライトの「ふゆ」とは違う一面を見せつけられた。
これが彼女の理想とする「ふゆ」か。シャニマス世界のファンが応援している「ふゆ」はこういうアイドルだったのか…………
なんて魅力的なアイドルなんだろうって、感動した。女性アイドルの推しが1人増えたような感覚になった。

シャニマスのヘビーユーザーであるダ・ヴィンチ・恐山さんがポップリンクスの宣伝動画で、現実世界に架空のキャラクターを落とし込み、実在する人間として生きるキャラクターをイメージすることを「顕」と表現していたけれど、この曲を聴いたときの私はまさに「顕」していた。

自分語りばかりで申し訳ないけれど、私は女性アイドルが好きで、いわゆる"楽曲派"を自称している。楽曲派というのはアイドルのキャラクター性やビジュアル、パフォーマンスのスキル以上に楽曲を重視し、アイドルの曲を聴くことを楽しむファンのことを言う。
アイドルの曲というのはそのアイドルのコンセプトやアイデンティティを表現したものであり、曲を聴くだけでもなんとなく歌い手に対してイメージできるようなものが多い。

私が好きな3次元のアイドルユニット「フィロソフィーのダンス」を例に挙げる。このユニットは「Funky but chic(ファンキーだけど上品に)」というコンセプトに沿って、ファンクやR&Bを基本としたダンスミュージックの中に哲学の要素を織り交ぜた知的で上品さのある楽曲が売りのひとつであり、楽曲がユニットのイメージに直結している。

ここで冬優子ちゃんの話に戻る。今回の「SOS」は、冬優子ちゃんの好むユメカワイイ系のファッションからイメージできるようなkawaii future bass的な音楽の中に、カッティングや切なさのあるメロディラインが随所に散りばめられていて、きゃぴきゃぴとしたかわいらしさだけではなく、人生のすいも甘いも知っているような、どこか大人っぽいイメージを受けた。この曲のもつ要素が冬優子ちゃんの作り上げた「ふゆ」というアイドルはこういうコンセプトのもと磨き上げられてきたのだと知ることができて、本当に嬉しかった。冬優子ちゃん自身の考え方や想いを歌っているわけではないのに、冬優子ちゃんにしか歌えない曲になっている。アイドルソングって、こういうものなんだろうなと思う。

それに、なんだか化粧品やバレンタイン時期のチョコレートのCMなんかに起用されていそうな、女の子の憧れのような楽曲になっているのが素晴らしい。
(これは余談だけれど、韓国で活動する日本人女性アイドルのYUKIKAさんの曲を起用した今年のガーナのバレンタインCMが「ふゆ」のイメージに近かったのでぜひチェックしてみてほしい。早く冬優子ちゃんにガーナのCMオファー来ないかなあ。)



「SOS」の話に戻ろう。全般にわたって"アイドル黛冬優子"の解釈が一致しすぎているけれど、特に2番のサビ終わりの間奏で追い討ちをかけるように涙腺を刺激させられる。この間奏が本当にずるい。
片思いのほろ苦さと甘さのかたまりのような間奏に乗せて、軽やかにステップを刻む冬優子ちゃんの姿が自然に思い浮かんで視界が霞む。

それに、少し寂しげな中にあたたかさのあるこの感じ、アイドル(特にハロプロ)の卒業コンサートで、卒業するメンバーがその子のために書き下ろされたオリジナルのソロ曲を、その日のために用意された綺麗なドレスを着て歌い踊るあの感じにすごく近いような気がした。

アイドルを卒業する冬優子ちゃん(?)が冬優子ちゃんのために作られた最高の晴れ着を身に纏って、「ふゆ」を体現したような彼女のためのソロ曲を自信に満ちた姿でパフォーマンスする。その姿を妄想しながら、まるで冬優子ちゃんは卒業コンサートでソロ曲を歌う元モーニング娘。道重さゆみさんのようだと思った。彼女特有の語尾が上がる歌い方もふゆを彷彿とさせる。

コンサートで「SOS」を歌い上げる冬優子ちゃん。間奏の間に客席に手を振りながらメインステージにいるあさひと愛依ちゃんのもとへ軽快な足取りで向かい、合流した3人はふゆをセンターに同じ振り付けを踊る。キラキラ輝くふゆを見た客席のファン達はライトグリーンのペンライトを片手に泣き崩れる、というところまで妄想した。激ヤバ怪文書をネットの海に放出してしまいすみませんでした。

おわりに

今回、冬優子ちゃんのソロ曲が発表されたことで、ファンの見る「ふゆ」としての黛冬優子の解像度が一気に上がったように思う。
プロデューサーという立場でもあり、ふゆのファンの女ドルオタでもある私は、この曲を聴いて確実にふゆのトリコになったのでした……………。

アイドルマスターシャイニーカラーズでは、冬優子ちゃんの他にもたくさんのアイドルが存在する。283プロに所属しているアイドルは一見どの子も"良い子"で、人として大きな課題があるようには見えない。
しかし、そんな女の子たちかアイドル活動をきっかけに、自分でも気付けないほどの繊細な悩みや、言葉では言い表せないような複雑な想いや感情が、些細なことから露わになるのがシャニマスの面白いところだと思う。

シャニマスのリアルで深みのあるシナリオの数々のおかげで楽曲の楽しみ方も広がり、シャニマス中心にアイマスへの好きが日に日に増している。生活が潤っている。みんなもレッツ、シャニマス。

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