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Fantasystar第2回公演台本 「Company~Symphonic Music City~」

この台本は、Fantasystar第2回公演(https://www.youtube.com/watch?v=3oAeWxoEtCo)で使用したものとなる。
※段落を数個空けている文章はト書き
こちらの台本を何かしらのかたちで使用したいという方がいらっしゃったら、女王ローザのTwitter(https://twitter.com/Rosa_Vtuber)のDMまでご一報頂きたい。
--------------------------------------------------------------------------------------Company~Symphonic Music City~ 
作:女王ローザ
監修協力:天野声

【登場人物】
ヨハン…輝縁ソル
シャーリー…奏音リリィ
オベロン…女王ローザ

エレン…ティエン
マルコ…はくのうつる
審査員A…ティエン
審査員B…ショコラ
審査員C…はくのうつる
歌手…ショコラ
市長…ショコラ

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《音楽の都ムジーク》

    エレン、マルコが談笑している

エレン「それにしても、マルコとこうしてゆっくり話をするのも久しぶり                    ね。
    ハイスクール以来かしら?」
マルコ「そうだね、それくらいになるかな。
              エレンがこの街でレストランをやるって聞いた時には、結構驚いた                 ものだよ。」
エレン「あら、意外だったかしら?ハイスクール時代にも話していたと思う
         けど、私は音楽を聴きながらゆっくりくつろげる、おしゃれなお店          をやりたかったの。」
マルコ「あぁ、言われてみれば、そんなことを言ってた気がするな。
    確かに、この音楽の都ムジークなら、君の理想を実現できるだろう          ね。」
エレン「むしろ、あなたがこの街に引っ越してきた話の方が驚きよ。」
マルコ「ハイスクール時代に話さなかったっけ?俺は作曲家になりたいん                   だ。
      音楽が主要産業のこの街なら俺もやっていけそうだと思って、引っ                 越してきたんだ。」
エレン「確かにこの街なら、音楽はお金を稼ぐ手段になるわね。
    ここで最も有名な音楽家のオベロンは、音楽だけで莫大な富を築い               ているくらいだもの。
              でも、ムジークの音楽は、遊びじゃやっていけないわよ。」
マルコ「分かっているよ。
              それに、ムジークで売れてる音楽って、伝統あるクラシックやそれ                 に近いものなんだろう?
    俺はヴァイオリニストだから、相性はいいはずだ。」
エレン「あなたが昔私に送ってきた甘ったるい曲みたいなものは、この街で          は相手にされないわよ。」
マルコ「その話は忘れてくれ…
              そう言えば、さっきエレンが話していた『変わり者のピアニスト』                  ってどんな人なんだい?
               聞いた限りじゃ、この街でかなり悪目立ちしてるみたいだけど。」
エレン「だから、言ったでしょ。『変人ヨハン』。
    彼、よく私のお店に来るんだけど、そのたびに『僕の曲をここの                   BGMにしてみないか?ここの雰囲気にピッタリだと思うんだ!』っ               てしつこいのよ。」
マルコ「この街だと、音楽が売れるか売れないかって、死活問題なんだろ                    う?」
エレン「そうだけど、ヨハンのつくる曲って、私の店じゃ使えない曲ばかり                なのよ。
    ずっと聴いていると、耳に残るタイプのやつ。」
マルコ「なるほど、確かにそれはちょっと…変かもね。」
   
    ヨハン、通り過ぎる

エレン「噂をすれば、ね。今歩いていった人が、その変人音楽家のヨハン                   よ。」
マルコ「あぁ、あれが噂の。」
エレン「…といっても、彼、もう音楽家辞めるって話だけど。」
マルコ「そうか、それは残念だな。
              彼の音楽、参考になるかなと思ったんだけどね。」
エレン「あなたもこの街で音楽をやっていくつもりなら、ヨハンのようなは        み出し者にならないように気をつけることね。」
マルコ「肝に銘じておくよ。」

  
《変人音楽家ヨハン》

    舞台の上にヨハンが登場し、一礼する
      小声で話す審査員たち

審査員A「また変人音楽家だよ…毎回毎回、懲りないもんだ。」
審査員B「どうせ、今回もロクなものじゃないよ。」
審査員A「よくもまあ、毎回コンクールに顔を出せるものだ。
                 誰も聴く気がないのにな。」
審査員B「これで自分の音楽は革命だ、なんて豪語してるんだから、手に負                    えないよ。」
ヨハン「それでは、聴いて下さい。」

    ヨハン、ピアノの演奏を始める

審査員C「やっぱり、アイツはダメだな。」
審査員A「君、今すぐ演奏を中止しろ!」

    ヨハン、演奏を止める

ヨハン「何故ですか!?まだ僕の音楽は始まったばかりですよ!?」
審査員B「今のが音楽ですか?ふざけるのも大概にしてください。」
ヨハン「ふざけてなんかいません!クラシックではないですが、これは僕の               音楽です!」
審査員C「もう結構。市長もお怒りだ。即刻舞台を降りたまえ。」
ヨハン「こんなのおかしいじゃないか!
               特定のジャンルだけを称えて、それ以外はゴミ同然か!」
審査員C「おかしいのはお前の方だ!さっさと出ていけ!
                この後にはオベロンが控えているんだ!」
ヨハン「ああ、出ていってやるよ!この偏屈者どもめ!
    僕の音楽を理解出来ない奴らに聴かせる曲なんてない!」

    ヨハン、舞台から歩き去る

審査員A「全く…アイツがいると、このコンクールの空気が悪くなる。」
審査員B「大丈夫、次はあのオベロンの番だから。」
審査員A「おお、そうだった。
                 今回も、審査するまでもなくオベロンの優勝だな。」

    オベロン、拍手に迎えられて登場する

審査員C「オベロン、今年も楽しみにしている。」
オベロン「お任せください。
                  今回も、この街にふさわしい名曲を用意させて頂きました。」
    
    優雅なクラシック音楽が流れる
    ヨハン、会場を後にする

ヨハン「市長の息がかかった人間では、まるで話にならない。
    この街じゃ、自分の好きな音楽をやっていけそうにないな。
    …いや、諦めるにはまだ早い。
              僕の音楽の理解者を探そう!    
    例え僕一人では評価されなくても、他の人間なら、僕の音楽の良さ                を引き出せるかもしれない。
    この街にも、流行に流されず、僕の音楽を理解してくれる人がいる                に違いない!」

    ヨハン、去っていく  

《路上の歌姫》

    歌手の家で、ヨハンが楽譜を片手に持って、歌手につめ寄る

ヨハン「だから何度も言った通り、君の歌声が、僕の曲を活かすのに必要な               んだ。」
歌手「もう出てって!私はこんな歌、歌う気はないの!
           それに、あなたはもう音楽家を辞めたのでしょう?
           だったら、私にこれ以上関わらないで!」
ヨハン「ああ、僕は音楽家を辞めた。
              この街で音楽をやる上で、僕には必要ない称号だからな。
              だけど、そんな肩書に何の意味がある?
              この音楽はきっと売れる!信じてくれ!」
歌手「でも、売れてないじゃない。」
ヨハン「それはこの街の人間が、古臭いクラシックしか聴いてないから                       だ。」
歌手「それの何がいけないの?いいから、もう帰って!」

    オベロン、歌手の家にやってくる

オベロン「おやおや。誰かと思えば、ヨハン君じゃないか。」
ヨハン「オベロン…!」
オベロン「困るなあ、勝手に割り込んできては。
                 彼女には元々、私がアポを取っていたのに。」

    歌手、ヨハンを押しのけて、オベロンに駆け寄る

歌手「お待ちしておりました、オベロン様。」
オベロン「やあ、お待たせして申し訳ない。
                  今日はあなたのために、とっておきの曲を用意してきましたよ。
       そういうわけだから、ヨハン君。君にはご退席願いたい。
                 これから彼女と曲のことについて話をしないといけないので                            ね。」
ヨハン「それは僕も同じだ。」
オベロン「おや、そうだったのか。
                  どれ、今度はどんな粗悪品を持ってきたのかな。」

    オベロン、ヨハンの持つ楽譜を奪う

オベロン「はははははは。何だい、この曲は。
                  仕事柄色んな曲を見てきたけど、こんなに酷いものは初めて見                       た。
                  自分のいびきを録音して書き起こしたというなら、実に素晴らし                   い作品だ。
     コンクールの時のも相当だったが、これは傑作だ。 
     ヨハン君、君は才能がある。芸人としてのね。」
ヨハン「黙れ!お前に僕の音楽の何が分かる!」
オベロン「分かるとも。
                  この曲が、君の独りよがりなポエムだってことがね。
     …ではお嬢さん、向こうの部屋で楽曲についての話を致しましょ                     う。」
歌手「はい、オベロン様。」

    オベロン、歌手の肩に手を回す
    オベロンと歌手、去る
    ヨハン、歌手の家を出ていく
    
    シーン変わって街の中
    ヨハン、ゴミ箱に楽譜を乱暴に捨てる

ヨハン「これで、この街の知り合いには全員声をかけたことになる。
              だけど、誰も僕の音楽を認めようとはしない。
    エレンのレストランに行って、もう一回だけ頼んでみよう。
              それがダメなら…僕がこんな街で音楽をやる意味はない。」

    ヨハンが歩いていると、どこからか歌声が聞こえてくる(きらきら                星の英語版)

Twinkle, twinkle, little star,
How I wonder what you are!
Up above the world so high,
Like a diamond in the sky.

 Twinkle, twinkle, little star,
 How I wonder what you are!

When the blazing sun is gone,
When he nothing shines upon.
Then you show your little light,
Twinkle, twinkle, all the night.

 Twinkle, twinkle, little star,
 How I wonder what you are!

ヨハン「よくいる路上歌手か。
              この街だと、通りすがりの音楽家に拾ってもらえる可能性は高い。
              結構堅実なやり方だ。反吐が出る。」

    ヨハン、立ち止まって耳を澄ます

ヨハン「…この歌、童謡か?変わった人もいるもんだ。
              どうせ、僕と同じように誰にも聞いてもらえていないのだろう                       な。」

     ヨハン、少し悩んだ後に、歌のする方へ歩いていく
    シャーリー、歌っている
    ヨハン、足を止めて聴き入る
    ヨハン、聞こえるか聞こえないかくらいで、「How I wonder what                 you are」と口ずさむ
    歌が終わる
    ヨハン、思わず拍手をする

シャーリー「ありがとうございます!!
      私の歌をちゃんと聴いてくれた人は、あなたが初めてです!」
ヨハン「いや、僕は別に…たまたま通りかかっただけだ。」
シャーリー「それでも嬉しいです。
                      私、いつもこの辺で歌っているので、良かったらまた聴きに来                       てくださいね。」
ヨハン「僕だって暇じゃないんだ。
              人に歌を聞かせたければ、それこそオベロンの曲に歌詞でもつけて                 歌えばいいじゃないか。」
シャーリー「私もクラシック音楽は好きなんですけど、今はこの歌を歌って                      いたいんです。
        この歌って、歌詞やメロディが優しくて、聴いていると一緒に                        歌いたいって気持ちになりませんか!?」
ヨハン「馬鹿馬鹿しい。そんなんじゃ、この街では生きていけない。
    誰でも歌えるような曲に金を払う人間なんて、偽善者か酔っぱらい               くらいだ。」
シャーリー「私、お金が欲しいから歌を歌っているわけじゃないんです。」
ヨハン「この街で音楽を続ける理由なんて、金稼ぎ以外にないだろう。」
シャーリー「いいえ。
       私が歌を歌うのは、私の好きなものを、他の人にも届けたいか                       らです。」
ヨハン「だけど、君の歌は誰にも聴いてもらえていない。」

    シャーリー、ヨハンのセリフを遮る

シャーリー「でも、あなたが・・・聴いてくれました。」
ヨハン「……忠告だけしておくよ。君の考えは、この街ではつまらないもの                と切り捨てられるだけだ。売れない音楽に、価値はない。」

    ヨハン、去っていく

シャーリー「…あの人、とても寂しい目をしてた。
      いつかあの人にも笑ってもらえるかなぁ…
        よーし、もっと頑張ろう!」

    シャーリー、元気に走り去っていく

《二つの音が交わる時》

    エレンのレストラン
    ヨハン、楽譜を持ってエレンと話をしている

エレン「あなた、また来たの? 
              言っておくけど、あなたの曲はうちでは使えないからね。」
ヨハン「いや、今度の曲なら、このレストランで食事を楽しむ人たちの邪魔               にならない。
              今回のは、ラブソングじゃない。
              童謡をリスペクトした、明るくて楽しい雰囲気の曲だ。
    頼む、この街で頼りになるのは、もう君しかいないんだ。」
エレン「この際だから、ハッキリ言わせてもらうけど。
    ヨハン、あなたの曲は、使い物にならない。
    この店で使ったら、お店の雰囲気を変えてしまう。
    だから、私は何度頼まれたって、あなたの曲は受け付けない。」
ヨハン「…そうか、分かったよ。
    おつりは要らない。もう、ここに来ることもないだろうから。」
    
    ヨハン、お金を置いて、店から出ていく
       マルコ、店に入ってくる

マルコ「やあ、遊びに来たよ。」
エレン「ああ、いらっしゃい…」
マルコ「どうしたの?浮かない顔だね。
              さっきヨハンが店から出ていくのを見たけど、何かあったのか                       い?」
エレン「彼がまた、自分の曲をこの店で使ってくれって頼みに来てね。」
マルコ「それで、何て言ったの?」
エレン「あなたの曲は使い物にならない。
              この店で使ったら、お店の雰囲気を変えてしまうって言ったのよ。
              そうしたら彼、もうここに来ることはないって言って、出てっちゃ                 ったのよ。」
マルコ「さすがに言い過ぎだよ。
              君がいくらあの人の曲が嫌いだからって、何もそこまで言う必要は                 なかったんじゃないか?」
エレン「私、彼の曲好きよ。何か変かしら?」
マルコ「え?だって前に、ヨハンの曲は耳に残るって言ってたし、それに今               だって使い物にならないとか店の雰囲気を変えてしまうとか言った                 じゃないか。」
エレン「このお店で彼の曲を使ったら、お店が明るくて楽しい雰囲気になっ                ちゃうでしょ?
    それも魅力的だけど、私の目指す雰囲気とはちょっと違うのよ。
    それに、ヨハンの心地良いメロディーの曲は、ここで使うにはもっ                たいないじゃない。
    彼の曲は、もっと大勢の色んな人に聴いてもらった方がずっと良い               と思うの。」

    マルコ、深いため息をつく

マルコ「それ、多分全部悪い意味に解釈されていると思うよ。」

    エレン、首をかしげる

    シーン変わって、店の外
    ヨハン、ゴミ箱に楽譜を投げ捨てて、その場を去ろうとする

      シャーリー、鼻歌を歌いながら登場
      シャーリー、ヨハンに気が付いて、ヨハンが捨てた楽譜を拾い上げ                 る

シャーリー「ん?」

ヨハン「結局、僕の音楽はこの街では受け入れられなかった。
    もう、この街に僕の居場所はない。」
シャーリー「あ、この前の方!ご機嫌よう、いいお天気ですね。」
ヨハン「君には、僕の機嫌が良いように見えるのか?とんだ能天気っぷりだ               な。」
シャーリー「ごめんなさい、そんなつもりは…
      あの…これ、あなたが書いたものですか?
      あなた、もしかして…音楽家さん?」
ヨハン「その称号はもう捨てた。
              それに、そこに捨ててあるのは、楽譜なんかじゃない。
              文字通り、ゴミだよ。」
シャーリー「ふんふんふん…
                     心に音を。奏でてごらん。君が歌えば。皆笑顔に。」
ヨハン「いや、待て。僕はそんな歌詞、書いてないぞ。」
シャーリー「ごめんなさい。私が勝手につけてみました。」
ヨハン「何なんだ、そのひねりのない歌詞は。」
シャーリー「この楽譜を見ていたら、言葉が浮かんできて。
      あなたの音楽、とっても楽しいですね!」
ヨハン「楽しい?僕の曲が?」
シャーリー「ええ。私、あなたの曲の虜になっちゃいました。」

    ヨハン、目を丸くする 

ヨハン「…ありがとう。そう言ってもらえたのは、初めてだ。
    だけど、君がいいと言ってくれた
    この曲も、ムジークでは全く価値がないと評価される。
シャーリー「そんなことないと思います!」
ヨハン「いや。僕の曲はこの街では売れないんだ。
    どんな音楽でも、売れなければ意味がない。」
シャーリー「売れることが、音楽の全てじゃないと思います。」
ヨハン「君はまだ若いから、そんなことが言えるんだ。
              僕も昔はそう考えていた。
      だけど、現実は甘くない。結果が全てなんだ。」
シャーリー「皆、あなたの音楽の良さを知らないだけです!」
ヨハン「どうかな。この街の連中は、クラシック以外は音楽と認めない。」
シャーリー「知ってますか?クラシックだって、その当時の音楽の風潮に逆                       らってつくられていったものなんですよ。」
ヨハン「っ…確かに。君、見た目のわりに博識だな。」
シャーリー「えへへ、友達の受け売りなんですけどね。      
      なので、あなたの音楽も、これから分かって貰えるようになり                      ますよ。」
ヨハン「本当にそう思うか?」
シャーリー「はい!・・あ!私、あなたの曲、歌ってもいいですか?」
ヨハン「いいのか?」
シャーリー「もちろんです!」
ヨハン「ありがとう。
              でも仮に君が歌ったとしても、誰も聞いてくれないかもしれない。
    僕と一緒に居たら、君を取り巻く環境は今よりもっと悪くなる。
      それでも、一緒に、新しい音楽をつくってくれるか?」
シャーリー「はい!
                      私、自分の好きなものは、自分の好きな人たちに届けたいんで                       す!」

    ヨハン、右手をシャーリーに差し出す

ヨハン「まだ名乗っていなかったな。僕はヨハンだ、よろしく。」
シャーリー「私はシャーリーと言います。
      どうぞよろしくお願いします、私の音楽家さん!」

    シャーリー、ヨハンと握手をする


《最初の一歩》

    ヨハンの家
    ヨハン、ピアノを弾いている
    ドアをノックする音

シャーリー「ごめんください。
                     こちら、ヨハンさんのお宅でよろしいでしょうか。」

    ヨハン、演奏を中断して玄関を開ける

ヨハン「都合がいい時に来てくれとは言ったが、まさか昨日の今日で来ると               はな。」
シャーリー「えへへ…あ、もしかしてまずかったですか?」
ヨハン「いや、構わない。ちょうど曲の構想を練っていたところだ。」
シャーリー「わあ、楽しみです!曲ができたら、作詞はお任せください。」
ヨハン「君が作詞か…不安があるな。」
シャーリー「大丈夫ですよ。
                      昨日だって、いい感じの歌詞をつけたじゃないですか。」
ヨハン「昨日というと、あの心に何とかっていうやつか。」
シャーリー「心に音を。奏でてごらん。君が歌えば。皆笑顔に。
      ほら、いい感じでしょう?」
ヨハン「まるでセンスを感じないな。」
シャーリー「えー、そんなぁ。」
ヨハン「…センスはないが、悪くはない。」
シャーリー「今何か言いました?」
ヨハン「いや、曲も歌詞もどうせ僕がつくることになるから、場を和ますジ               ョークとしては悪くないと思ってな。」
シャーリー「ちょっと!それってどういう意味ですか!」

    玄関の戸がノックされる

シャーリー「ヨハンさん、どなたかいらっしゃったみたいですよ。」
ヨハン「来客の予定はなかったはずだが。大方郵便物か何かだろう。
    シャーリー、ちょっと確認してきてくれ。」
シャーリー「私がですか?
                     専属歌手になるとは言いましたけど、召し使いになったわけじ                        ゃありませんからね。」

    シャーリー、玄関の戸を開ける 
      オベロン、右手を挙げてにこやかに微笑む

オベロン「おや、これは驚いたな。
                  ここはヨハン君の家だと思っていたのだけどね。
     まさか、こんな素敵な女性が出迎えてくれるとは。」
シャーリー「オ、オベロンさん!?
                      今、ヨハンさん呼んでくるので、少々お待ちください!」

    シャーリー、慌ててヨハンのいる場所へ 

シャーリー「ヨハンさん、凄いお客様がおいでですよ!
                      今お待たせしているので、早く行ってください!」

    シャーリー、ヨハンの背を押す

ヨハン「おい、押すな。
    全く…一体誰だというんだ。」

    オベロン、片手を軽く挙げる
       ヨハン、顔をしかめる

オベロン「やあ、ヨハン君。元気そうで何よりだ。 
     曲が売れないからさぞかし落ち込んでいるかと思っていたのだ                       が…要らない心配だったみたいだね。」
ヨハン「オベロン…何でお前がここに来たんだ。さっさと帰れ!」
オベロン「おいおい、来客に対してひどいなあ。
     時に、そちらのお美しい方は、ヨハンに何か弱みでも握られてし                   まったのですか?
                  私で良ければ相談に乗って差し上げますが。」
シャーリー「人聞きの悪いこと言わないでください。
                      私はシャーリー。ヨハンさんの専属歌手です。」
オベロン「へえ、あのヨハン君に専属歌手が、ねえ。
                  何があったのかは知らないけど、シャーリーさんも随分と厄介な                   奴に捕まりましたね。
                  お悔やみ申し上げます。」
シャーリー「ご心配には及びません。
                     ヨハンさんの曲は、いつかこの街の…いいえ、世界中の人に愛                        されるものになります。
        私はそのお手伝いがしたいと思い、自分の意志でヨハンさんの                         専属歌手になりました。」
オベロン「そうですか。これは失礼致しました。
     ヨハン君、将来有望な女性を巻き込むだなんてね。
                  見下げ果てたね。」
ヨハン「いい加減にしろ、オベロン。
              お前に付き合っているほど、僕らは暇じゃない。」
オベロン「おや、そんなことを言ってもいいのかい?
                  今日は折角、君たちにとって良い話を持ってきてやったというの                   に。」

    オベロン、懐からチラシを取り出してヨハンに渡す 
       ヨハン、乱暴に受け取る
    ヨハン、シャーリー、チラシを読む

ヨハン「『第55回ムジーク音楽コンクール開催のお知らせ』…
              今度の音楽コンクールのことなんて、この街の人間なら誰でも知っ                 ているだろう。これがどうした?」
シャーリー「あ、このチラシの下の方見てください。」
オベロン「『今大会より、市長推薦による本選優待制度を設けます。
      従来のコンクールでは、予選を勝ち抜いた者だけが本選出場の                       権利を得られました。しかしながら、惜しくも敗退した音楽家                       の中にも、未来を担う人材が眠っているかもしれない。
      この制度は、市長自ら本選へ出場する音楽家をシード枠として                       推薦することで、より一層音楽家の方々が切磋琢磨できる場を                       つくるというものであります。』
      うんうん、これは実に素晴らしい制度だと思うよ。」
シャーリー「つまり、予選抜きで本選に出られる制度があるってことです                           か?」
オベロン「その通り。
     実はこの制度の栄えある指名枠に私が選ばれたようでしてね。
     私としては、予選も含めて多くの方に私の音楽を聴いてもらえれ                   ばそれで良いのですが…それよりも、未来あるヨハン君にこそ、                    この枠を使ってもらいたいと思い、ここに足を運んだという訳で                    す。
     勿論、シャーリーさんも一緒に出られるように取り計らいます                      よ。」
シャーリー「そんなことができるんですか?」
オベロン「私は街のコンクールで何度も優勝している、いわばこの街の音楽                   家代表ですからね。それくらいの融通なら、効かせてあげられま                   すよ。
     それに、私としても、ヨハン君の素晴らしい音楽を、大勢の人に                   聴かせてあげたいのですよ。」
シャーリー「良かったですね!これでいきなり本選に出場できますよ!」

    ヨハン、チラシを破り捨てる

シャーリー「ちょっと、ヨハンさん!?」
ヨハン「断る。僕を本選に出して、大勢の前で恥をかかせたいだけだろ。
              このふざけた物言いから、お前の魂胆が透けて見えてるんだよ。」
オベロン「私としては、善意での申し出だったんだけどね。
                  それに、これはまたとないチャンスだ。
                  もしかしたら、君の余興に可能性を感じてくれる人がいるかもし                   れないからね。
     本選は、この街の全ての人間が注目する。
     そこで目立てば、君は大道芸人として華々しいデビューを飾るこ                   とができると思うんだが、どうかね?」
 ヨハン「お前のくだらない戯言に付き合う義理はない。早く出ていけ!」
シャーリー「ヨハンさん、落ち着いてください。
                     オベロンさんも仰っていたように、本選はこの街の皆が注目し                        ます。
                    そこでヨハンさんの音楽を演奏すれば、この街が変わるきっか                       けになるかもしれませんよ。」
ヨハン「いいかシャーリー。この誘いを受ければ、僕たちはあいつのお情け               がないと本選に上がれないんだと、思われることになるんだぞ。
              君はそれでいいのか!?」
シャーリー「最初はそう思われてもいいじゃないですか!
      音楽は、自己顕示の道具ではありません!」
オベロン「話し合いは終わりましたか?
                  私はコンクールの準備があるので、どうするかを今お聞かせ願い                   たい。」
ヨハン「さっきも言っただろ。断る!」

    シャーリー、食い気味に

シャーリー「そのお話お受けします!」
ヨハン「シャーリー!」
オベロン「承りました、そのように。では、私はこれで。」

    オベロン、立ち去ろうとする
    オベロン、首だけ振り返る

オベロン「せいぜい恥をかかないように、練習してくるといい。
     稚拙な演奏でも、街の子供たちなら喜んでくれるだろう。
     楽しい時間を過ごせることを祈っているよ。」

    オベロン、去っていく 

ヨハン「…勝手なことをしてくれたな。
    こうなったら、オベロンに勝てる曲をつくって、何としてでもアイ                ツの鼻をへし折ってやる!」
シャーリー「勝手に決めちゃったことは、謝ります。
      だけど、そんな暗い感情のまま曲をつくるのはダメですよ。
      ヨハンさんの曲は、明るくて、皆を笑顔にできる力があると思                       うんです。    
                      あなた自身も楽しい気持ちで曲をつくらないと。」
ヨハン「やると決まったからには僕も腹をくくるけど、それでも生半可な曲               をつくっていては駄目だ。
    今までとは違う、全く新しい曲をつくらないと、悔しいがオベロン                には勝てない。」
シャーリー「ヨハンさんとオベロンさんの因縁は私には分かりませんが、今                      回のコンクールでは、ヨハンさんの音楽を広めることが大切だ                        と思います。
       私も、勝つための曲より、歌っていて楽しい曲を歌いたいなっ                       て。」
ヨハン「どちらにせよ、これが最後のチャンスになるかもしれないんだ。」
シャーリー「最後のチャンス?それってどういうことですか?」
ヨハン「市長は、今やオベロンの腰ぎんちゃくだ。
              オベロンがその気になれば、市長の権力で、この街での音楽活動の                 禁止だってできるだろう。
    アイツは僕に恥をかかせるだけじゃなく、そこまでやる男だ。
    だから、何としても大衆の力を借りて、オベロンに勝たないと全部               無駄になる。」
シャーリー「ヨハンさんの考え、だんだん分かってきました。
      でも、それはそれとして、勝つことにこだわりすぎるのは、良                       くないと思います。」

    シャーリー、ヨハンの周りを歩き回る

シャーリー「ヨハンさん、音楽の意味って何だと思いますか?」
ヨハン「音楽の意味?自分を表現するものってことだろう。」
シャーリー「それもあるかもですが、私は、音楽の意味ってもっといっぱい                       あると思うんです。」

    シャーリー、ヨハンの前で止まる

シャーリー「それをこれから、確かめにいきませんか?」
ヨハン「音楽の意味を確かめる?」
シャーリー「いいから、私についてきてください。行けばきっと分かります                       から!」

    シャーリー、ヨハンの手を取って、家を飛び出す
       ヨハン、つられて飛び出す

《頂点のアダージョ》  

    市長の部屋
    オベロン、ドアを開けて入室 
    
オベロン「市長、大変お待たせ致しました。」
市長「あぁ、オベロン!よく来てくれた。    
   わざわざすまないな。」
オベロン「いえ。他でもない市長の頼みであれば、どうということはありま                   せんよ。」
市長「それで、例の件は?」
オベロン「ご安心を。ヨハンはこちらの策にまんまと乗りました。」
市長「素晴らしい!君から直々に相談があった時は驚いたが、これであの目            障りな男をこの街から排斥できるな。」
オベロン「そう言えば、ヨハンの専属歌手を名乗る女性がいました。」
市長「その専属歌手とやらは、どんな奴だ?」
オベロン「シャーリーという田舎娘で、別にどうということはありません。
     ヨハンがこちらを警戒している分、彼女を少し煽ったら簡単にこ                   とが進みましたよ。」
市長「であれば、問題はないな。
   ヨハン…この街の歴史あるクラシックを馬鹿にし続けた、音楽の敵め              が。
   今回のコンクールで、あの耳障りな雑音を 二度と弾けないようにし            てやる。」
オベロン「その意気です。時に市長、報酬の件はお忘れなく。」
市長「勿論だ。今回も、オベロン、君の優勝は保証しよう。
   君はこの街のことを誰よりも愛し、伝統あるクラシック音楽を市民の            ために作り続けてくれている。
   私はクラシック音楽こそが、最も美しい音楽だと常日頃から思ってい            る。
   君もそうだろう?」
オベロン「ええ、勿論です。私にはクラシックしかありませんし、それを奏                   で続ける場所もこの街しかあり得ません。」
市長「オベロン、やはり君は、この街の音楽を担うのにこれ以上ない人物                だ。
   私が市長の座を降りる時が来たら、君にこの街の輝かしい未来を託し            たい。」
オベロン「もったいなきお言葉を賜り、恐悦至極にございます。
                  ですが、この街の今後の発展のためにも、市長にはまだまだ頑張                   ってもらわないといけませんな。
     政治面に関しては、市長の方が遥かに優れておいでですから。」
市長「君はお世辞がうまいな。
   そうだ。この前話した、音楽家の作曲 依頼 料金についてなんだ                が、君以外の音楽家に依頼したら、追加で事務手数料が発生するよう            な仕組みを考えている。
   勿論、ふんだくった手数料は折半しよう。
   これで市民から君への依頼をもっと増やすことができるだろう。」
オベロン「何と、そこまで私のために!ありがとうございます。
                  このオベロン、より一層励んでいく所存でございます。」
市長「期待しているよ、オベロン。
   どんな時代でも、歴史と伝統が文化をつくる。
   私はこの街を、由緒正しいクラシック音楽の街にすると誓った。
   そのためにも、君とはこれからも一緒に歩んでいきたいものだね。」
オベロン「勿論です。我が身は、音楽とこの街に捧げていますから。
     …失礼、そろそろ時間ですので。」
市長「おや、そうか。今度のコンクールも、楽しみにしているよ。」
オベロン「えぇ、それでは。」

    オベロン、部屋を出る 

オベロン「…従順な姿を演じるのも疲れてきたな。
     それにしても、馬鹿な奴だ。自分がいいように使われていること                   にも気づかないなんてな。
     まあ、そっちの方が私にとって都合がいい。
     これで、市長の権力をつかって、あの低俗な音楽家気取りのプラ                   イドをへし折れる。
     奴さえこの街からいなくなれば、この街の音楽は全て私が制御で                   きる。
     よその街では落ちこぼれと罵られたが、もう誰も私をそんな風に                   思わない。
     もう少しだ。もう少しで、私は完璧な音楽家になれる。
     コンクールが楽しみだ。」

    オベロン、笑いながら去る    

《音を楽しむ》

    ヨハン、シャーリー、街の中を歩く 

ヨハン「それで、一体どこへ行くんだ。そろそろ教えてくれてもいいだろ?」
シャーリー「いくつか候補はあるんですけど…あ、ちょうどいいので、ここ                        でお茶にしませんか?」
ヨハン「まあ、構わないが。
    …ちょうどいい?」

    ヨハン達、カフェに入る 

シャーリー「ここ、ヨハンさんを連れてきたかった場所の一つなんです。」
ヨハン「このカフェが?何の変哲もないカフェだと思うんだが。」
シャーリー「よーく耳を傾けてみてください。あ、私レモンティーで。」
ヨハン「一体何だというんだ。コーヒーと角砂糖五つ。」
シャーリー「凄い飲み方しますね。」
ヨハン「僕の勝手だろう。僕はこの飲み方が好きなんだ。」
シャーリー「ヨハンさんの飲み方はさておき…ほら、よーく音楽を聴いてみ                         てください。」
    
    二人、音楽に耳を傾ける
    飲み物が運ばれてくる

ヨハン「…随分と古い曲を流しているんだな。」
シャーリー「気づきましたか。素敵でしょう?
      それに、周りのお客さんの様子もみてください。」
ヨハン「皆、とても穏やかな顔をしている。
              時間をつぶしたり仕事をしたりではなく、音楽を聴くためだけにこ                 こに来ているのか?」
シャーリー「はい、私もたまに来ますが、こうして音に包まれる時間って、                       何かいいなって思うんです。
                      そう思いませんか?」
ヨハン「確かに、レストランでオベロンの曲を聴かされるよりは、はるかに                いいな。」
シャーリー「もう、またオベロンさんを引き合いに出して。」
ヨハン「僕だって好きで言ってるんじゃない。
              どこに行ってもオベロン、オベロンで、嫌気が差しているだけだ。
              …ここは、案外悪くない。」
シャーリー「気に入ってもらえたようで何よりです。
      さ、そろそろ行きましょうか。」
ヨハン「もう行くのか。
    それで、次はどこに行くんだ?」
シャーリー「それはまた…」
ヨハン「ついてからのお楽しみ、なんだろう?」

    シャーリー、微笑む
    ヨハン、薄く笑う
    お金を机に置き、店を出る 

    ヨハン達、教会にやってくる

ヨハン「今度は教会か。」
シャーリー「はい。そろそろ始まると思うので、楽しみにしててください                           ね。」

    聖歌隊の歌が披露される

ヨハン「讃美歌か。中々いいな。」
シャーリー「ヨハンさんがちゃんと何かを褒めているの、初めて見まし                               た。」
ヨハン「僕を何だと思ってるんだ。
              教会音楽は嫌いじゃない。欲にまみれたこの街の音楽とは違って、                 純粋でいい。
      それに、こうした合唱も、人々がいい表情で歌うから好ましく思                   う。」
シャーリー「私、ヨハンさんのことをずっと堅物だと思っていました。
                     ごめんなさい。」
ヨハン「良く言われる。気にしていない。」
シャーリー「なんだ、謝って損しちゃった。」

    聖歌隊の歌が終わる 

ヨハン「君には礼を言わないとな。だいぶ創作意欲がわいてきた」
シャーリー「どういたしまして。
                     実はあと一か所、お連れしたい場所があるんですが、いかがで                        すか?」
ヨハン「この際だ。最後まで付き合おう。」
シャーリー「はい。では、行きましょう。」

    ヨハン達、教会を後にする

    ヨハン達、路地の一角にやってくる
    ジャズ音楽と、人々の歓声が聞こえる

シャーリー「うわあ、今日はいつも以上に人が来てますね。」
ヨハン「ストリートミュージシャンか。特に珍しくもない」
シャーリー「本当にそう思いますか?」
ヨハン「いや、これだけ熱気があるのは見たことがないな」
シャーリー「ですよね」
ヨハン「なるほど…演奏者だけじゃない。観客がいてこその一体感か」
シャーリー「そうなんです!」

    音楽が徐々に小さくなっていく 

シャーリー「ヨハンさん。今日色々見て回ってみて、何か感じましたか?」
ヨハン「ああ、君が何で僕を連れまわしたのか。
              その意味が、ようやく理解出来た。」
シャーリー「聴かせてください。」
ヨハン「今日聴いてきた音楽は、いずれも売れるための音楽ではなかった。
    だが、それを聴いていた人々は、皆笑顔だった。
    …音楽は、楽しんでこそだ。」
シャーリー「はい、私もそう思います。
      音楽は、誰かと比べるものじゃない。
      その人が好きな音や歌詞が、音楽になるんだと思うんです。」
ヨハン「ああ…何でこんな簡単なことを忘れていたんだろうな。
    僕も最初は、僕自身が楽しいと思える曲をつくっていたんだ。
    何で、忘れていたんだろう。」
シャーリー「ヨハンさん…」

    ヨハン、シャーリーの両肩に手を乗せる    

ヨハン「シャーリー、僕は決めたよ。
    僕たちが心から楽しいと思えるような音楽をつくろう!」

    シャーリー、乗せられた手に自分の手を重ねる

シャーリー「はい。一緒につくりましょう。
      私たちの音楽を!」

    二人、去っていく

《奏音》

    ヨハン、楽譜に音階を書いている
    シャーリー、緊張した面持ちでそれを見つめる
    ヨハン、筆を置いて楽譜を天高く掲げる

ヨハン「…できた。できたぞシャーリー!これが、僕の音楽だ!」
シャーリー「おめでとうございます!とても素敵な曲になりましたね。」
ヨハン「いや、喜ぶのはまだ早い。
              これに歌詞をつけることで、この曲は二人の音楽として完成する。
      シャーリ―、ここからは君の力も借りたい。」
シャーリー「はい、お任せください。
      どんな歌詞がいいかなぁ…」 
ヨハン「この曲は、音楽は皆の希望になる、というイメージでつくったん                    だ。
    だから、歌詞も前向きな言葉を入れていきたい。」
シャーリー「なるほど。例えば…『手を取り合って』、とか。
                     あとは、『未来へ』とかですかね。」
ヨハン「君の言葉選びは、シンプルだな。」
シャーリー「あ、またそうやってセンスがないとか言うんですか?
                     私だって、頑張って考えてるんですよ!」
ヨハン「この曲は、この街の全ての人に届けるものだ。
              下手に難しい言い回しを使うより、君の考えるシンプルなメッセー                 ジの方が向いている。」
シャーリー「ヨハンさん、何だか雰囲気変わりましたね。」
ヨハン「変わったんじゃない。もとに戻ったんだ。」
シャーリー「今のヨハンさん、音楽をつくるのが楽しいって顔してます。
      私まで、楽しい気分になっちゃいます。」
ヨハン「この調子でつくっていこう。」
シャーリー「はい。あ、どこかでヨハンさんと歌いたいです!」
ヨハン「僕も歌うのか?
              それは構わないけど…一体何を言わせるつもりなんだ?」
シャーリー「そうですね…
                     心に光が差して、まだ見たことない明日へ一緒に歩いていこ                            う…みたいな。」
ヨハン「一緒に、というところを強調して、『手と手をつなぎ』とか、『共               に笑い』とかのワードを入れてみようか?」
シャーリー「なんだかんだ言って、ヨハンさんもノリノリじゃないですか。
      いいですね、それで行きましょうか!」
ヨハン「よし、このまま一気に進めていこう!」
シャーリー「はい!」

    マルコ、ヨハンの家の前を通りかかる 

マルコ「…中々いい曲が思いつかないな。
              どんなに考えても、誰かのつくったもののパクリだって言われそう                 なメロディーしか出てこないし。
       俺って、作曲の才能ないのかな。」

    窓の外から、ヨハンとシャーリーの様子を見る

マルコ「あれは…隣にいる女の子は誰だろう。
    曲をつくっているのかな。そう言えば、コンクールももうすぐだっ                たね。
    それにしても…二人とも、すごい楽しそうだな。
    音楽って、こんなにも楽しく取り組めるものなんだ!
    よおし、俺も何だかやる気が湧いてきたぞ!早く帰って曲をつくろ               う!」

    マルコ、走り去っていく 

シャーリー「ここは、こっちの言葉よりこっちの方がいい感じじゃないです                       か?」
ヨハン「悪くない。だが、この後の歌詞がこうだから、敢えてこの表現でい               こう。」
シャーリー「それじゃあ、こことここ、言い方を少し変えてみて…」
ヨハン「なるほど、なら、これならいいんじゃないか?」

    場面暗転
    ヨハンとシャーリー、声を揃えて叫ぶ 

シャーリー「出来た!!」
ヨハン「出来た!!」

《コンクール当日》 

    ヨハン、シャーリー、舞台袖に控えている
   
シャーリー「うう…緊張してきました。
                      私、こんな大きな舞台に立つなんて初めてで…」
ヨハン「そう身構えることはない。僕たちはこの日に向けて、出来る限りの               準備をしてきた。
      あとは、ただやりきるだけだ。」
シャーリー「そうですよね。頑張りましょう!」

    舞台の方から、拍手の音が聞こえる 

シャーリー「もうすぐ出番ですね。
                     この次の方が終わったら、いよいよ私たちの音楽を皆に聴いて                        貰えるんですね!」
ヨハン「ああ。
    …僕たちの前はオベロンか。
              アイツ、徹底的に僕たちをコケにするつもりらしい。」

    割れんばかりの拍手  
    オベロン、客席に手を振りながら登場

オベロン「皆様、本日はお忙しい中お集まり頂きまして、誠にありがとうご                   ざいます。
     皆様に曲をお聞かせする前に、この場を借りて、皆様にお詫び申                   し上げたく。
     今回のコンクールでは、私の身勝手なお願いを市長にお聞き届け                   頂き、僭越ながら私めの方でお声かけさせて頂いた音楽家の方                       に、この本選で音楽を披露して頂けることとなりました。
       しかしながら、非才な私めが選んだ音楽家の演奏なぞ聴きたくな                     いと仰られる方も、中にはいらっしゃるかもしれません。
     皆様のお気持ちも重々承知の上でお願い致します。
     この後に続く音楽をご不快に思われましたら、どうぞ遠慮なく批                   判して頂きたい。
     真に音楽の何たるかを心得ていらっしゃる皆様からのお言葉を賜                   れば、きっと彼らも自分達の音楽を思い直すきっかけとなりまし                   ょう。」

    オベロン、両手を広げる

オベロン「前置きが長くなりました。
     それでは、拙いものではございますが、私めの曲にしばしお耳を                   傾けて頂けますと幸いでございます。
     この曲は、この音楽の街ムジークの、未来永劫に続く輝きを表現                   したものとなります。
     この美しい街と、そこを流れる音の旋律に想いを馳せてお聞きく                   ださい。」

    曲が流れる  
    観客たち、音楽に聞き入って静まり返る

シャーリー「オベロンさん、本当にヨハンさんのことがお嫌いなんです                              ね。」
ヨハン「僕が嫌い、というのもあるかもしれないが、それ以上に僕の音楽が               気にくわないんだろう。
    アイツは自分の音楽が絶対で、他はゴミとしか考えてないような男               だからな。
    シャーリー、この際アイツのことは気にするな。
              僕たちは、僕たちの音楽をやるだけだ。」

    しばらくして、音楽が終わる
    終わると同時に、拍手と歓声がわっと上がる 
     シャーリー、不安げにうつむく
    オベロン、恭しく一礼して、歓声に酔いしれる

ヨハン「次は僕達の出番だ。シャーリー、用意はいいか?
    …シャーリー?」
シャーリー「すみません。
                      もし、もし私達の音楽を誰も聴いてくれなかったらって思った                       ら、何だか怖くなってきて。
      オベロンさんの演奏で、あんなに皆が楽しそうにしていて。
      皆の笑顔が、私のせいでなくなっちゃったらって。
      おかしいですよね。ヨハンさんにさんざん偉そうなこと言った                       癖に、いざ本番になったら不安になっちゃうなんて。」

    ヨハン、シャーリーの肩に手を置く

ヨハン「音楽は、楽しいものだ。」
シャーリー「え?」
ヨハン「君が僕に教えてくれたことだ。
    これから僕達が披露する曲は、互いの好きな音と歌詞が合わさった               ものだ。
    誰とも、何とも比べようがない、唯一無二の音楽だ。
    大丈夫。僕達ならきっと、皆の心に響く音楽を届けられる。」
シャーリー「…ふふっ」
ヨハン「なんて、ちょっとかっこつけすぎたかな?」
シャーリー「そんなことないです!ありがとうございます!」

    オベロン、舞台袖に戻ってくる

オベロン「やあ。てっきり怖気づいて来ないかと思っていたが、まさか本当                   に来るとはね。
     会場は私が温めておいてあげたから、後は好きにやりたまえ。」
ヨハン「言われなくても、そうさせてもらうさ。」
オベロン「君たちにとって、コンクールの舞台に立つ経験は最後になるかも                   しれないからね。
                  悔いの残らないよう、せいぜい頑張り給え。
     いやあ、しかし申し訳ないことをしたな。
     君たちの出番は、私の前にしておけばよかったな。
     あの歓声を聞いただろう?
     これでは、あまりにも君たちが可哀そうだ。」

    オベロン、高笑いをしながら去っていく

ヨハン「気にするなシャーリー。」
シャーリー「はい。私はもう迷いません!
                      私たちの歌を、皆に届けたいから!」

    ヨハン、満足げに微笑む
    シャーリー、微笑み返す

ヨハン「じゃあ、行こうか。」
シャーリー「はい。一緒に!」

    ヨハン達、手をつないで舞台に進む


《Company》

     客席がざわざわする  
     ヨハン、シャーリー、何も言わずに舞台中央に進み、一礼する
     ヨハン、ピアノの前に座り、演奏の準備をする
     ヨハン達、互いに視線を合わせ、うなずく

ヨハン「それでは、聞いて下さい。」
シャーリー「『Company』」

    「Company」が流れる BGM:カンパニー

~Company~

Y : ヨハン
S:シャーリー 

(S)uh 手を取り合って 心弾ませる
ともに進む未来へ 視線を向けてゆく
(Y)僕たちが描いた 夢がそこにある
誰かが送る 拍手と歓声が
(YS)聞こえる×2
(S)たどり着くまで
(Y)支え合おう 互いを
(S)そこに手が届くまで
(Y)助け合おう 互いを そう
(YS)1人の折れた心 癒す
(Y)僕たちの
(S)私たちの
(YS)輪を守ろう
(YS)過ぎ行く日々の
(Y)出来事に
(YS)戸惑うこともある あぁ...
(S)心に雨が降り 差し出す傘を
その手とともに 握りしめてたいの
(Y)まだ 道なき道を行く 僕らの一歩
その先には 誰かの待つ声が
(YS)聞こえる×2
(S)ひとときでも
(Y)そう この夢は 確かに生きている
(YS)心に光差し まだ見ぬ明日を
(S)手と手つなぎ
(Y)仲間たちと
(S)ともに笑い
(YS)歩く
(YS)ああ 1人より2人の 2人よりもっと
(S)力強い
(Y)強い意志に
(S)その熱さに
(YS)抱かれ
(Y)進む
(S)今 楽しいの
(Y)楽しいと
(S)思えるの
(Y)楽しいと
(YS)人生を
(YS)ほら 架空の幻想も紡いでゆくと
(S)目には映り
(Y)耳に響き
(S)世界中に
(YS)きっと届く

    演奏が終わり、静まりかえる会場
    目を閉じて、微動だにしないヨハンとシャーリー
    すると、どこかから拍手の音が聞こえる

マルコ「ブラボー!」
エレン「とても良かったよ!」

    それに連鎖して、会場が温かな拍手と歓声に包まれる 
    ヨハン達、満面の笑みを浮かべ、客席に深々と一礼

《夢、希望、未来》

    明かりの落ちたコンクール会場
      参加者がズラリと並ぶ
      緊張した表情のヨハンとシャーリー
      苦々しい表情のオベロン

市長「第55回ムジーク音楽コンクール、栄えある最優秀賞受賞者は…」

    ドラムロール 
    オベロンにスポットライトが照らされる 

市長「オベロン・エレガンス!!」

    歓声が湧き上がる 
    明かりがつき、市長がオベロンに賞状を渡す

市長「オベロン、最優秀賞の受賞おめでとう!
   さすがはこの街を代表する、天才音楽家だ。」

    オベロン、賞状を受け取るも、無言のまま苦い顔

市長「そして優秀賞は…」

    市長、心底嫌そうに賞状を渡す

市長「…ヨハンとシャーリー。君たちだ。」

    ヨハン達、顔を見合わせる

シャーリー「ヨハンさん…!」
ヨハン「信じられないが、この賞状は本物だ。
    シャーリー、僕達の音楽が皆に届いたんだ!」
市長「続いて佳賞…」

    オベロン、賞状を床にたたき捨てる 

市長「オ、オベロン…?一体どうしたというんだ?」
オベロン「あれを聴いた上で、私が最優秀賞だと…?ふざけるな!!」

    会場が騒然とする  

市長「落ち着きたまえ。一体何の不満があるというんだ?」
オベロン「今まで私は、この街で売れる音楽をつくってきた。
     売れる音楽をつくる才能は、間違いなく私にはある。
     だが…」

    オベロン、ヨハン達を睨み付ける

オベロン「だが…私が演奏したときより、彼らの時の方が、観客の顔が輝い                     ていた。
     人々に愛される曲をつくったのは…私ではなく、彼らだ。」
ヨハン「オベロン……」

    オベロン、会場を後にする 

市長「ま、待ってくれオベロン!この街には君が必要なんだ!」

    市長、慌ててオベロンの後を追う 

ヨハン「オベロン…僕達の音楽を認めてくれた…ということか?」
シャーリー「少なくとも、私達の音楽はオベロンさんの心に響いていた。
      きっと、そうなんだと思います。」
   
    場面変わって、ヨハンの家にヨハンとシャーリーがいる

シャーリー「それにしても、オベロンさんのことは、ビックリしましたが…
      何とか無事に終わりましたね。」
ヨハン「そうだな。心の底から楽しいと言える演奏だった。」
シャーリー「はい、凄く楽しかったですね。
      それに、コンクールが終わってまだ二日しか経ってないのに、                       ファンレターや音楽のお仕事がいっぱい来てるんですよね?」
ヨハン「ああ、僕が変人音楽家なんて呼ばれていた頃からは、とても信じら               れないな。
    これも、君のおかげだ。改めて礼を言わせてくれ。」
シャーリー「いえ、お礼だなんて。
                     私も、ヨハンさんとこうして音楽活動ができて、とても幸せで                        す。
                     これからも、よろしくお願いします!」
ヨハン「こちらこそ。じゃあ早速だが…」

    ヨハン、楽譜を取り出す

シャーリー「あ、それって新曲ですか!?」
ヨハン「ああ。コンクールの時の感動が忘れられなくて、一晩で出来あがっ               た。」
シャーリー「どんな曲なんですか?私、また作詞したいです!」
ヨハン「そう慌てなくても、曲は逃げない。それで、次の曲なんだけど…」

       BGM:companyインスト 
    スポットライトがヨハンに当たる

ヨハン「僕達はこれからも、皆に夢や希望を与える音楽を奏でていく。」

    スポットライトがシャーリーに当たる

シャーリー「一人では難しいことでも、二人で、皆でなら乗り越えていけ                           る・・・。
      私たちは、そう、信じています。」

    二人にスポットライトが当たる
    
ヨハン「僕達の音楽が、皆の光になることを夢見て。」
シャーリー「明日へ。そして未来へ。」
ヨハン・シャーリー「「歩き続けよう。」」

   

    

    

    


    
    


      
    
     

    
    


    
 


    
      
       
  


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