見出し画像

ビジネスにおけるデザインとは

 一般的に「デザイン」と聞くと、グラフィックデザインや建築意匠など見た目の問題を想起しがちだが、近年これらの見た目に関わるデザインを狭義のデザインと定義し、ユーザー体験やビジネスモデルなど、より広範なものをデザインの対象とする広義のデザインという考え方が生まれ、ビジネスへの活用が進められている。デザイン思考やサービスデザイン、UXデザインといった流行りの用語もこの広義のデザインに位置づけられる。一方でデザインという言葉が対象とする範囲が広がったことにより、組織や人によってデザインが指す内容が異なり、わかりづらさを生み出している。今回私が留学先で学んだビジネスデザインとは、顧客(ユーザー)起点でビジネス課題を解決するための方法論を指す。

  顧客起点とは読んで字の如しであるが、そもそもビジネスで成功するためにはDesirability(顧客ニーズがあるか)、Feasibility(リソース・技術的に実現可能か)、Viability(経済性・持続可能性があるか)の3つの要素を満たす必要があり、そのうちDesirabilityの検証からスタートすることを指している。言われれば当たり前のことのように感じられるが、現実には顧客ニーズを検証しないまま技術や社会トレンド、競合環境を起点にして商品やサービスが生み出されるケースが多い。

 顧客起点で問題解決を行うためには、前提として事業者は顧客のことを理解できていないという前提に立ち、顧客を理解し対処すべき問題の定義に時間をかける必要がある。顧客理解の方法には、定量データ(購買データなど)と定性データ(行動観察やインタビュー)を分析する方法があるが、ビジネスデザインでは特に定性データを重視する。近年デジタルの普及により定量データを収集しやすくなり、それらを活用した意思決定が普及しているが、定量データではWhat(現象や結果)は明らかになるが、How・Why(顧客の行動の動機や因果関係)を明らかにするのは難しいとされている。特に社会環境の変化が激しく顧客ニーズが変化しやすい昨今では後者のHow・Whyを的確に捉えることが問題解決の助けになるとされており、ビジネスデザインではこの部分を重視している。個人的には定量、定性ともにメリット・デメリットがあり、相互に補う形でうまく組み合わせていくことが必要だと考えている。

 こうした定性データの取扱は主観的になりがちなため、そこから正しい効果を得るためには一定の専門性が要求される。インタビューを例に上げれば、「顧客は自身のことをうまく言語化できないため直接ニーズを聞いてはいけない」「誘導質問から得た回答はデータとして活用してはいけない」など、数多くの注意点がある。また、データの解釈・分析において調査者のバイアスを排除するための手法も抑えておく必要がある。こうした方法論を知っていれば、主観性を回避し顧客課題に関する良質な仮説構築やエビデンスに基づく意思決定が行えるようになる。

 また、ビジネスデザインにおいてはアイデアの可視化が重要視される。プロトタイプ(試作品)を作成し、早期に顧客や社内からフィードバックを受けることで、本格的にリソースを割く前に解決策が顧客課題を解決しているかの確認や仮説の修正が行える。この際のプロトタイプは必ずしも高精度なもの(3Dモデルや模型など)である必要はなく、検証したい内容に応じて、手書きのイメージや仮のプレスリリースなど簡易なもので十分なケースも多い。「群盲象を評す」という言葉もあるように、人は言葉や文字から全く異なるものをイメージしてしまうケースが非常に多く、どんな形でもアイデアを可視化することでより具体的な議論が促進されたり、認識のズレを解消することができ、社内外のコミュニケーションを円滑に進めることができる。

 このように顧客起点でまず課題を正確に定義し、アイデアを可視化しながら解決策の精度を高めていくのがビジネスデザインの方法論である。一部専門的なスキルやファシリテーション力が要求される場面もあるが、その大部分はプロセスやマインドセットの問題であり、何か特別なスキルというより課題解決に対する態度であるともいえる。社員一人ひとりがこの態度を身につけることで、顧客起点で課題・機会の仮説検証を反復しながら新しいビジネス、既存業務改善の成功確度を高めることができると考える。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?