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懲戒処分・懲戒解雇とは

先日、富士そばという店舗名で複数の店舗を展開している会社が、労組幹部二人を懲戒解雇したというニュースを読みました。
ニュースの内容はこちら↓↓↓
https://www.asahi.com/articles/ASP25574WP23UUPI003.html

この記事を読んでの私の感想としては、この会社が行った懲戒解雇は大丈夫かな、です。

今回労組側は争う姿勢を明確にしているので、懲戒解雇を受けた労組幹部の2名は、恐らく団交では解決しないでしょうから、裁判所に地位確認を求めて提訴するのではないかと考えます。そうすると結局、懲戒解雇が無効ではないこと(懲戒解雇無効の評価障害事実)を会社側が立証しなければなりません。かつ、懲戒解雇が無効ではないことの事実につき一応立証ができたとしても、社会通念上そういった事情の下で懲戒解雇できるのかといった社会的評価の問題もあります。今回の懲戒解雇には伏線として、未払いの残業代や雇用調整助成金の不正受給といった問題があるようですので、会社が労組の行動を嫌悪した結果、労組の幹部2名を、切った、という疑念が付きまといます。

今回会社側は、労組幹部2名が書類を改ざんしたというようなことをいっているようですが、改ざんした事実を立証すること(証拠で証明すること)は相当ハードルが高いように思います。そもそも改ざんという評価になるのかどうかも疑問ですし(正しく書き換えただけなのかもしれませんし)、仮に何とか改ざんを立証できたとしても、それが懲戒解雇という懲戒処分で最も重い処分に値するのか、本来であれば出勤停止程度が妥当な処分なのに懲戒解雇をもって臨んだとしたら、それは結局労組を嫌悪した会社の過重な処分という評価にもなりかねません。

解雇には、いわゆる普通解雇と懲戒解雇の大きく2つの解雇があります。いずれも、事業主(使用者)が労働者に対してその労働者との労働契約を一方的に解約する法律行為であることに違いはありませんが、その法的な根拠は異なります。普通解雇は事業主が有する労働契約上の解雇権の行使であるのに対して、懲戒解雇は事業主が有する労働契約上の懲戒権の行使になります。普通解雇は、会社の経営環境が悪化したときに人員整理を目的として行う整理解雇や、労働者の職務遂行能力等が会社の求めるところを満たさないあるいは満たさなくなったというような事情の下で行う解雇(これを「狭義の普通解雇」といったりすることもあります。)であり、会社の都合で行うものです。対して、懲戒解雇を含む懲戒処分は、労働者が企業秩序違反効をを行ったときに、事業主がこれに対する制裁罰として科す処分であり、労働者の責に帰すべき事由によるものです。

普通解雇にせよ懲戒解雇にせよ、就業規則の作成義務がある事業場では、就業規則に、その事由を記載しなければなりません。もっとも普通解雇の場合、仮に就業規則に記載のない事由で労働者を解雇した場合には、確かに労基法違反の疑義(労基法第89条違反)は生じますが、私法上の効力としては、就業規則の解雇事由が例示的に列挙されていると考えられる限り、解雇理由に客観的に合理的な理由(に該当する具体的事実)があり、社会通念上相当である場合には、解雇有効となりえます。

これに対して懲戒解雇は、罪刑法定主義類似の原則が働くこともあり、就業規則に懲戒処分の種類として懲戒解雇が規定されており、かつ懲戒解雇に該当する具体的事実が限定的に列挙されていなければ、そもそも事業主は労働者に対して懲戒解雇処分をすることができないと考えられています。なおかつ、そういった懲戒処分に関する規定は使用者にて労働者に周知する手続き(労働者が懲戒処分規定がある就業規則等を見たいといった場合にいつでもその労働者がそういった就業規則を見ることができる状態にしておくこと)が踏まれていなければその効力を生じないとされています。懲戒処分規定がないとか、懲戒処分が規定されている就業規則が周知されていないというような場合には事業主が懲戒解雇を含む懲戒処分をする権利を放棄していると考えても良いでしょう。罪刑法定主義とは、刑事訴訟手続き上、国家が人を裁き刑罰を科すには前もってどういった行為がどういった刑罰に該当するか法律等によって明示されていなければならないという考え方です。これは為政者が人を裁くときに恣意的判断により刑罰が科せられることを防ぐためにあり、かつ人々も予めどういった行為が犯罪に当たるかを知ることにより犯罪行為を行うことを抑止することにもなります。懲戒処分も、使用者によってこれが恣意的になされると、労働者は安心して働くことができません。したがって懲戒解雇を始めとする懲戒処分は、前もって就業規則等に規定されていなければ使用者は労働者に対して懲戒処分を科すことができません。そもそも、労働契約は労使対等の立場で締結するものですから、労働契約の包括的な内容として予め懲戒処分規定や懲戒解雇規定が就業規則等で明示されて、労使間で労働契約を締結するときに懲戒処分規定や懲戒解雇規定を含めて包括的に合意しておく必要があります。尤も労働者が会社に入社するときに、いちいち使用者に対して「どういった懲戒処分がありますか」などとは聞かないとは思いますが、たとえ労働者が会社に入社する前に就業規則の懲戒処分規定や懲戒解雇規定を知らなかったとしても、就業規則が周知されていれば、懲戒処分の内容も労働条件として含めて労働契約を締結したことになります。

会社が労働者に対して懲戒処分を科す場合には、いくつかのルールがあります。先に挙げたように、懲戒処分は罪刑法定主義類似の原則が働くのですが、これに付随して、懲戒処分は、処分の対象となる行為を労働者が行ったときに現に規定されている懲戒処分の種類しか適用することができません。例えば、労働者が同僚に暴力行為を働いたときに、暴力行為を行った労働者は出勤停止処分とする、といった規定がなかったとします。しかしその後に暴力行為を行った労働者は出勤停止処分とするといった規定を新たに設けてこれに基づいて遡って同僚に暴力行為に及んだ労働者に出勤停止処分を科すことはできません。
また、一つの行為に対して二つ以上の懲戒処分を科すこともできません。二重処分の禁止です。例えば、労働者が事業場内で同僚の財布からお金を盗んだとします。これに対して使用者がそのお金を盗んだ労働者に対してまず出勤停止処分を科して、その後に更に戒告処分を科すようなことはできません。こういった二重処分を科している例を私は散見します。先日も会社の使用者からのとある相談で、問題を起こした社員を懲戒解雇したいのでその前にまず出勤停止にしたいが問題ないかと尋ねられました。そこで私はその使用者に対して、労働者の出勤停止期間中の賃金をどうするのかと聞き返したところ、使用者は私に、賃金は払わないと回答しました。そうすると、この場合の出勤停止は懲戒処分として科している可能性が高く、なおかつその後に懲戒解雇処分を科すと、同一事由に対して二つの懲戒処分を科していると判断される虞があります。出勤停止が懲戒解雇に値するかどうかを判断している期間だとすると、その期間は使用者による当該労働者に対する休業の指示になりますので、労基法第26条に基づく休業手当の支払いが使用者には必要になるのです。
そのほかにも、平等取扱いの原則(例えば、通常、遅刻1回につき1時間分の賃金を減給するという処分を科している場合に、ある労働者だけは1日の平均賃金の半額を減給するといった処分は平等の原則に反することになります)や、相当性の原則(例えば、3日間無断欠勤した労働者を懲戒解雇するような処分は、通常は重きに失すると評価されます)、適正手続きの原則(少なくとも懲戒処分対象労働者については本人に弁明の機会を付与すべきですが、そういった機会を設けずになされた懲戒処分は手続きに瑕疵があったとして懲戒処分が無効と判断される虞があります)などがあります。

文責 社会保険労務士おくむらおふぃす 奥村隆信
http://e-roumukanri.link/

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