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パワハラの解決 その1

労働者の立場でパワハラの解決を図る場合、大きく二つのことが考えられます。一つは勤務先の事業場で上司等からパワハラを受けた場合に、パワハラの再発防止を事業主に求めること、いわゆる職場環境の改善を求めることです。もう一つは、パワハラを受けたことにより精神的苦痛を生じこれを慰謝するための慰謝料請求や、うつ病に罹りこれを治療するための治療費等が発生した又は休業や退職等により逸失利益が発生したなどの場合の損害賠償請求などの私人間の民事上の請求です。

以上のうち、労働者が事業主に対してパワハラの再発防止等を求めることについては、労推法上の事業主の雇用管理上の措置義務に基づいて、実現することができます(雇用管理上の措置義務については私の過去の記事を参照ください⇒改正労働施策総合推進法)。

昨年6月1日に改正労推法が施行されました。中小企業については準備期間が設けられ、改正労推法の適用は令和4年4月1日からとなります。労推法は正式名称を「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(=労働施策総合推進法)」といいます。労推法の最大の改正点は、この法律をパワハラ防止法と言ったりすることもあるように、パワハラ防止に関する規定が設けられたことです。

労推法はいわゆる行政法です。つまり労推法は行政機関(実際の執行機関は各都道府県労働局雇用環境均等部(室))が事業主に対して指導等を行う際の規範となる法律です。
パワハラに関しては同法で、パワハラを定義した上で、パワハラに関する労働者からの相談及び相談に対する適切な対応についての事業主の雇用管理上の措置義務が規定されています(法第30条の2第1項)。また事業主は労働者がパワハラ相談を行ったことを理由として解雇等労働条件について不利益な取り扱いをしてはならないことを定めています(法第30条の2第2項)。行政機関(各都道府県労働局)は同法に基づき、事業主に対して必要な資料等の提出や、報告を求めることができます。また、労働局は事業場で同法で定める雇用管理上の措置義務違反が認められる場合は、事業主に対して、助言、指導または勧告(いわゆる行政指導)をすることができます(法第33条第1項)。事業主が労働局の勧告に従わない場合は、労働局は、ペナルティとして、勧告に従わなかった旨を公表することができます(法第33条第2項)。

労働者がパワハラを受けた場合、まずは、企業が設けているパワハラ相談窓口に相談をすることになります。事業主は、労働者からパワハラ相談を受けた場合、事実関係について迅速かつ正確に確認(調査)しなければなりません。事業主は、パワハラの加害者とされる者と被害を受けた労働者との主張に相違があるときは、周囲の第三者に対しても聴き取り調査等を行わなければなりません。調査の結果パワハラの事実を確認した場合には、事業主は速やかに、パワハラの加害者に対して適正に措置を講じるととともに、被害者に対しても適正に配慮のための措置を行わなければなりません。なお、事業主の行う調査によってはパワハラの事実関係を的確に判断できない場合には、労推法第30条の6に規定する労働局の調停を申請するあるいは他の中立な第三者機関に紛争の処理を委ねる等の方法により解決を図らなければなりません。

もっとも、企業の中には、労働者からのパワハラ相談に対する対応が不十分な例も多くあります。特に中小企業では、来年4月1日の労推法適用後もパワハラ窓口が設けられなかったり、パワハラ相談窓口はあっても有名無実で機能していないなどといったことが多く予想されます。
このような場合、労働者としては、労働局や労基署に設けられた総合労働相談コーナーに相談して解決を図るということが考えられます。

総合労働相談コーナーで労推法上のパワハラに関する相談を受けた場合、"事業主に対する雇用管理上の措置義務という観点”から、労働局が対応することになります。

まずは、労推法第30条の5に基づく、紛争解決の援助のための「助言」を事業の使用者に対して行います。この助言制度はあくまでも紛争解決援助制度に基づくものですので、労推法第33条1項に基づく行政指導(是正勧告)とは異なります。
是正勧告は、労働局が事業主に対して資料の提出や報告を求め調査を行い雇用管理上の措置義務違反を認めたときにある程度強制力を以て行うものです。もちろん行政指導なので、何らかの処分を事業主に課すものではありませんが、是正に応じない事業主に対しては、その旨を公表するという、ある種のペナルティーが科せられることになります。

これに対して労推法第30条の5に基づく紛争解決の援助のための助言は、個別労働関係紛争解決促進法に定める個別労働関係紛争解決のための助言と同様に、労使間での自主的な紛争解決を促すための、事業主に解決を図って下さいね、とお願いをするようなものです。ここで行う助言は、労働者からの申し出に基づいて、総合労働相談員が事業の担当者(使用者)に架電して、事業主の講ずべき措置義務に関して各措置が講じられているかどうかを聴き取り、措置が十分に講じられていないようであれば、速やかに改善をして、再度パワハラを受けた労働者からの相談や調査等を行うように求めるものです。助言を受けた事業主が助言に従って適切に措置を講じパワハラを受けた労働者からの相談等に応じ調査を行い、パワハラの事実を確認した場合には加害者への措置や被害者への配慮等を適切に講じれば、当然助言で解決になります。仮に助言を受けた事業主がその内容を無視して何ら措置義務について改善を図らず、パワハラを受けた労働者の相談等に応じなかったとしても、紛争解決援助のための助言ですから、それ自体は行政指導ではないので、そこから直ちに企業名が公表されるといったことはありません。

もっとも、労推法第30条の5に基づく紛争解決援助のための助言を行ったときに、パワハラに係る事業主の措置義務に関して改善が図られず、パワハラを受けた労働者に何らの解決ももたらさなかった場合、総合労働相談員の行った助言の内容は、労働局の紛争調整官や指導員が引き継いで、労推法違反の有無を確認するために、労働局の雇用均等・環境部(室)指導課が、事業主に対して労推法第35条や同法第36条に基づいて、資料の提出や報告を求めるという行政上の調査が行われることになります。そして労働局の事業場に対する調査により事業主の雇用管理上の措置義務違反が確認された場合は、労働局が事業主に対して是正勧告等の行政指導をすることになります。なお36条に基づく報告に応じない事業主に対しては労働局は当該事業主に対して20万円以下の過料を科すこともあります。

パワハラを理由とする職場環境改善については、労推法に基づき解決を図ることができます。

中小企業については、改正労推法の適用は来年の令和4年4月1日からです。今から約1年間に、相談窓口の設置等措置義務について対策を講じなければなりません。待ったなしの1年間となります。

パワハラを原因とする慰謝料を含む損害賠償請求については民法の不法行為や債務不履行に基づいて民事的に解決を図ることになります。これについては次の機会に。

文責:社会保険労務士おくむらおふぃす 奥村 隆信
(ホームページ http://e-roumukanri.link


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