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アフターコロナを見据えて大注目 「令和3年3月より適用する公共工事設計労務単価」とCCUSが繋がってるって話

1.まえがき


令和3年2月19日(金)正午、昨年より実に6日も遅れて国土交通省の設計労務単価が公表されました

国内の公共工事はもちろん、民間工事額にも大きな影響を及ぼす重要な調査

1年前とは何もかもが変わったコロナ禍中で初めての調査・公表となるので、トムロ総研として大変興味深く、直近の経済動向などを多数確認し結果を予想しつつ前週の8日(月)から待っていました

パッと見て驚き、じっくり見て落胆

最後は「大変だ」という感想です

順を追ってその意味を説明をしていきます

まず、背景となる情勢を簡単に振り返りましょう

2.令和3年2月までに起きたこと

疫病の拡大に加えて、大雨、大雪、地震の被害がたびたび発生しました
再度の非常事態宣言の発令 後手後手(にならざるを得ない)ながらも法律の改正
感染を避けつつ生活様式の激変を受け入れて行動するのも試行錯誤となり、当たり前の作業に2年前の3倍も4倍も気力体力を必要とするようになりました

国の具体性に乏しい指示の中、自治体、企業、国民の懸命な努力と犠牲によって何とか今があります

3.政策と建設業界

3次に及ぶ補正を矢継ぎ早に繰り出したうち、国土交通政策の大きな流れは、コロナ禍に対応したICT、i-Constractionに代表される省力化、非接触化、国土強靭化計画の2期目5ヵ年の延長、より身近なものとしては現場の週二閉所への取り組み強化、建設キャリアアップシステム(CCUS)の本稼働が挙げられます

CCUSは設計労務単価と並び、トムロ総研が最も注力している研究テーマの1つです
この2つは大変密接な関係を持っていることについても説明していきます


さて、労務費調査結果の前に、専門誌、国土交通省統計で建設業の背景を知っておきましょう

 まずは最新の資料で令和2年分の主要ゼネコンの収支を見ます

a.売上高のマイナスが目立ちますが、もっぱら民間工事の影響で公共工事は盤石です 粗利が二桁とは好調と言っていいでしょう


b.最新の建設労働需給状況(令和2年12月)です

主要8職種で0.4%の不足

過去6ヶ月間ほとんど変わっていません 不足と実感できる数値ではありませんね ただしSNSで調べると個別の業者間での不足感はあるようです



c.民間工事と公共工事の出来高推移です

公共工事の下支え効果がよくわかります


d.きりが無いのでこの位にします 国土交通省の調査によると、コロナ禍が企業収益の悪化や人手不足の理由にはならないのです 土木工事主体にはなりますが、公共工事がこれらの安定に大きく寄与していると考えられます これは後で重要になるので覚えておいてください


4.公表単価の確認と評価

ではいよいよ公表単価について 全体像を解説していきましょう
国土交通省のHPより、



資料1

後の評価で改めて触れますが、今回の調査結果で大変興味深いのは、(2)特別措置※「前年度を下回った単価は、前年度単価に据値する」という特別ルールが用いられたことです 私の記憶ではこう公言されたのは調査の歴史上はじめてです  理由は、新型コロナウイルス感染症の影響下であること ここをよく覚えておいてください

全国全職種平均で前回調査比1.2%上伸 20,409円は過去最高値

実は、2月19日には設計労務単価以外の労務単価についても以下の3職種が同時に公表されています

・令和3年度 電気通信関係技術者等単価について 大臣官房技術調査課

・令和3年度 設計業務委託等技術者単価について 大臣官房技術調査課

・令和3年3月1日から適用する機械設備工事積算に係わる標準賃金 総合政策局 公共事業企画調整課

煩雑になるのでリンクは貼りませんが、確認したい方は国土交通省のプレスリリースで検索してください

とりあえず今は、「へぇそうなんだ」とだけ理解していただければ結構です

後で説明します


資料2

この棒グラフは毎年使われていますので、既視感のある方も多いでしょう

設計労務単価の変遷を見るには最も適したグラフである一方、ここに秘められた不都合な真実にお気付きのかたはそう多くないと思います

トムロ総研のnoteを読んでいただいている方はご存じでしょうが 後でまとめて解説します

ここでは、前年度からの伸びが195円で、年々伸び率が鈍化していることを確認してください


資料3

近年、必ず資料2棒グラフとペアです トムロがわざと緑の雑な線で囲ったところ2ヶ所、国交省が本当に言いたいのはここです なぜ隅っこに書かれているか 重要事項は隅っこや欄外であることが多いのは積算基準やマンションの広告を読み慣れた方ならお判りいただけるでしょう

理由は積極的に伝えたくないからです 察してくれよということです 

20,409円は官積算で使う金額であって、民民取引で使えるものではありません 直接労務費に幾つかの経費を計上することで工事の予定価格が決まります 一方、公共発注機関が民民取引を拘束することはできません 20,409円に先の経費分を加算したら28,777円になります、これが民民取引の価格構成に等しいですから強制はできないけど参考にしてください、と言っているのです

設計労務単価をそのまま民民取引に使われては、実態調査をすればするほど調査結果は下がるのです 建設業の健全な成長において下請け叩きに利用されては困るのです ご理解いただけたでしょうか

毎年(といっても総研名で公にしているのは2年目ですが)この仕組みの啓蒙活動をしていますがなかなか浸透しません ここは国交省の代わりに私が今後も広報していきます

そんな設計労務単価は例年2月14日に公表される確率が高いのですが、今年は異例の遅さ(理由は後述)だったので、つい私が業を煮やしてツイッターアカウントで18日に呟いてしまいました


これには伏線があって、あとで書きますが牽制の意図を含んでいます まずどこから年収700万円が出てきたか説明します

これらの年収目標は海外企業を参考に、令和2年4月の国交省資料にはすでに明示されています 国交省が決めた目標額ではなく、各工種の業団体が提示しまとめたものです

国土交通省 令和2年4月 各職種の能力判定基準・各職種における賃金目安(年収)の設定状況について


実際は設計労務単価52職種を網羅しており、より詳細な業務経験年数、所有資格などの条件で区分けされています

ここで示されているレベルが建設キャリアアップシステムそのもので、所持を許可されたカードの色とリンクします

さて、私が2月19日の公表の日を待ちきれず先のツイートをしたのにはきちんとした理由があります 2月15日(月)から公表日までの大変スリリングな出来事を時系列に日刊建設工業新聞の記事で辿ってみます

2月15日(月) 業の筆頭団体の1つである日建連の定例理事会で、任期満了に伴い山内会長が退任のあいさつをしました その中でCCUSが軌道に乗らなかったことに言及 早急に建設従事者の処遇改善を求めました 処遇の改善とは何か 週休2日制は既定路線で法の施行まで待つのみですから これは確実に設計労務単価のことを指していると判断しました 

ここからは推測です トムロ総研は当日公表の可能性が最も高いと思っていました おそらく調査結果はもうまとまって国交大臣の承認を待ち公表の準備に入っていたところ、山内会長の発言に反応しいったん差し止めたのではないでしょうか


さらに、同日は自民党品確議連も総会を開催しており、国会議員から「(公共工事の)労務単価をしっかり上げていかなければいけない」と指摘されていたのです

これに対して、国交省 青木局長は新しい設計労務単価について「近々公表すべく最終調整をしている 新型コロナウイルスの影響をどのように取り扱うかなど大変難しい最終局面 頑張っていきたい」と発言しています

ここでほぼ決まった集計結果を1からやり直そうと考えても不思議ではありません


続く2月16日(火) 同議連は公共工事設計労務単価・技能者単価の引き上げを発注者責任として行うことを国交相に要望書として提出 設計労務単価と併せ他の労務単価についても格段の引き上げを自民党議員から強く求めるという過去例のない胸熱の展開となっていました





関連して2月17日(水) 首相官邸で成長戦略会議(議長・加藤勝信官房長官)を開き、新型コロナウイルスの感染拡大が経済に与えた影響を議論した


どうでしょう 

タイムリミットを過ぎてなおギリギリまで業団体、議員連盟が本省局長および国土交通大臣に直談判していたのです 調査結果はそれとして、絶対に政治的判断という名目で直近にない伸び率と額を公表するはずだと思いませんか 国交省統計で人手は足りている、民間工事の出来高は落ちていても収支はまだまだ健全だとしても、です

そこまで思う理由のもう一つにこんな事実があります

このまま援助が無ければCCUSの運用資金がかさみ2020年度末に100億円にならんとする赤字解消のため、業団体は国交省から昨年10月に少なくとも16億円を建設業振興基金に寄付させられています しかも寄付は2度目

CCUSの収支バランスがおかしい理由はただ一つ 加入者のメリットとされている賃金、年収アップが全く無いからです 加入には費用が掛かりますが、就労履歴や取得資格や経験年数に応じた年収アップが支出を補って余りあるものなら一気に普及するでしょう  

2月18日の私のツイートの根拠は以上の事実からです 届くとは思っていなくても、マイナスや小刻みな上げはありえない状況だぞという思いで発信しました

まさかそれを裏切ってくるとは思いませんでした

前年度からの伸びが195円で、年々伸び率が鈍化しているにもかかわらず、踊る過去最高値を更新!の文字

この傾向と表現は、同日公表の他の労務費調査結果でも全く同じです

冒頭の(2)特別措置※「前年度を下回った単価は、前年度単価に据値する」というルールを思い出してください 対象となった単価は〈 〉がついています 正確に数えるのは苦行だったのでおよそ推定で、据値は全体の70%位でしょうか あまりのことに、コロナ禍で労務費が下がったケースがあるかSNSで問いかけてみました 私の発信力などはたかが知れていますが、下がったという方はいませんでした

5.総括します

設計労務単価公表までをスリリングな展開と感じたのは私だけかもしれませんが、今までと違う日常ではなおさら年収が上がらないと担い手の確保が出来ません CCUSは年収アップを筆頭に建設行政の様々な問題点を解決する手段として膨大な時間と費用をつぎ込んできています 設計労務単価とその運用がCCUSで謳う年収アップそのものですから、目標年収を見込めない設計労務単価に価値は無いし、加入の増えないCCUSも失敗に終わるということです   会計検査院もさすがに見逃せないでしょう 大変な事態です

日本の建設労働者数は490万人と言われます 就労人口に占める割合は決して少なくありません どんな世界でも満足している者は声をあげません だからと言って不満の声を上げるのが少数派ではありません 今回の設計労務単価決定における国交省の判断は誤りですし、それを繕う策も稚拙としか言いようがありません 年度内の見直しが出来ないルールはありません 国交省としての新たな策に期待します

※句読点改行がめちゃくちゃです 読みづらくて申し訳ありません 詰め込むだけ詰め込んで体裁を整える時間も気力もありませんでした ここまで読んでくれた方に謝意と我慢強い認定します


2月22日追記

2月24日追記

設計労務単価公表値について、当事者どころか局長が語るなどということは私の記憶では史上初です

青木局長曰く、「特別措置はマイナスの影響を避けるためにも合理的なものではあるが、4割超の地域・職種で賃金レベルが下がったのも事実。原因が何であれ、賃金を引き上げ、担い手を確保し、適正な利潤を得るといった持続可能な建設産業としての分岐点に立っている」としています

ここから想像できる重要なことが4点あります 

1⃣特別措置前は、地域と職種の組み合わせ2,400余りのうち40%以上が昨年の単価を下回った...お、驚いたぜ
2️⃣その原因?よく分からねぇ...毎年当たり前にこの位のブレは起きているのか?どのくらい下回ったかだって?そんなこと言えねぇ💧言える訳ねぇ💧てか、そんなの関係ねぇ!コロナのせいだ!
3️⃣政策的判断で去年と同額にする!これ位なら財務省もダメとは言わんだろ!
4️⃣何故なら平均195円アップすれば担い手確保できるし、建設業界は適正利潤を保てるんだぜキラン✨

分かりやすくするためにちょっと演出しました ふざけてませんよ

+195円で担い手と適正利潤が得られると本気で思っているなら、CCUSなんてカネ喰いシステム要らないですよね
もう1つ。
調査結果も自由自在に操れるって認めましたね
コロナのせいにするなら千歳一隅のチャンスですから、10%位上げるべきでしたね まだ間に合うんじゃないですか




ありがとうございます