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Jeff Parker『Forfolks』

Bandcampに掲載されていたライナーノーツを翻訳してみました。

Matthew Luxによるライナーノーツ

昔、ジェフと一緒にバンドを組んでいたとき、私はレコードにライナーノーツをつけてはいけないと言っていた。音楽以外の情報を伝えることはよくないと考えていたからだ。音で伝えられないことは、聴き手に委ねるべきだと。そのような考えを持ちながらも、興味を持った音楽については、レコードのジャケット(海外では国内盤みたく別個に解説書が付いていなく、ジャケ裏に直接印字されている)やCDのカバー、それにカセットのJカードなど、ありとあらゆるものを貪り読んでいた。長い年月を経て、ついには自分のアルバムを作ることになったが、私はいわゆる「認知的不協和」に直面したのだ。というのも、文脈(コンテクスト)は、鑑賞者が楽しむ芸術の中で、自らの居場所を見つける助けになることを認めざるを得なくなったのだ。その文脈は、ジェフ・パーカーのように、"あまり評価されていないが影響力のある"アーティストには特に必要である。

私がジェフに出会ったとき、彼は、私や私の友人たちと同じくらい音楽の趣味が広い初めての大人(私が18歳なのに対して彼は24歳)だった。彼は、エリック・ドルフィー(Eric Dolphy)、デ・ラ・ソウル(De La Soul)、70年代のマイルス・デイヴィス(Miles Davis)、そしてダニー・ハサウェイ(Donny Hathaway)が好きだった。最初に一緒に演奏したのは、私の両親のアパートのリビングだった。私たちは、それぞれの友人を連れてきてグループを作ることに決めた。彼はSara P. Smith(トロンボーン)を、私は高校時代のバンド仲間であるChad Taylor(ドラムス)を連れてきた。その日、Chadと私は確かに劣勢だったが、すぐに打ち解けた。その数週間後、「Bop Shop」で定期的に開催されるジャムセッションで、私はガールフレンド(今の妻)に「ジェフに注目してみて。彼は有名になるよ」と言った。

パーカーが移り住んだシカゴは、限界を押し広げようと熱くなっている若いミュージシャンたちで溢れていた。しかし、パンク、ディスコ、ジャズなど、それぞれのバックグラウンドを持ちつつも、同じ志を持った仲間たちが集まり、素晴らしいバンドが徐々に生まれていった。ジェフと一緒に「Hothouse」に(Ernest Dawkin’s)New Horizons Ensembleを観に行ったこと、その数週間後に「Empty Bottle」にトータス(Tortoise)を観に行ったこともよく覚えている。その数ヶ月後、彼はその両方のバンドに参加していた。彼は、90年代のシカゴ・サウンド(シカゴ音響派)を作るため、異なるスタイルを持つプレーヤー同士のつながりを築くことに尽力した。

ジェフがソロで演奏するということは珍しいことだ。彼は異常に無私無欲なインプロバイザーで、しばしばバンドメンバーの貢献に重きを置く。彼は、3音で十分なところを3音で演奏するようなことはない。しかし、今回は彼は一人でレコーディングしている。彼の頭の中で作られた音楽を具現化するため、彼自身のアイデアだけが加わっている。今回の8曲では、パーカーがどのように音を紡いでいるのかを知ることができる。

この30年間、彼は驚くほど多様なアーティストやコラボレーターと共にサウンドにこだわってきた。プロのミュージシャンは多くのスタイルに精通しているのが普通だが、それは通常、自分がどこにいて、何が起こっているのかをリスナーが正確に理解できるようにするため、ジャンルごとの"典型的なお約束"を次々に展開していくことを意味する。例えば、ギタリストは、ディスコやファンクでナイル・ロジャース(Nile Rogers)のようなリズムを弾いたり、ブルースでB.B.キング(B.B. King)のお気に入りのフレーズを弾いたり、スタンダード曲でウェス・モンゴメリー(Wes Montgomery)のフレーズを弾いたりする。パーカーはこのようなあからさまなことはほとんどしない。彼の能力は申し分ないが(一度スタジオで、一緒に仕事をしていたミュージシャンに頼まれて、スティーリー・ダン[Steely Dan]のアルバムからのアウトテイクみたいなソロをやったことがある)、彼はジャンルにとらわれず、絵画のように音楽を彩るアプローチをとっている。彼のユニークなアプローチは、「音」を大切にしているからこそ、さまざまな場面で生かされている。パーカーの演奏からは、ブラック・ミュージックの幅広さをはっきりと感じることができる。彼は古代から続くミュージシャンの地続きにいるのだ。

ここでの構造は、背景と前景という私たちの先入観に挑戦を仕掛けてきている。全てのレイヤーが前に出てきている。私たちは、伴奏やメロディ、あるいは「ソロ」ではなく、完全に統合された音の展開を見せられているのだ。ソロアルバムは、しばしばアーティストが自分の技を見せるための口実となる。「他のミュージシャンに邪魔されず、自由に空想を膨らませることができる」という考えからだろう。しかし、"繊細さ"のために費やした時間は、幸いな事に、ここに収録されている全ての曲に現れている。『Forfolks』では、「グレート・アメリカン・ソングブック」のスタンダード曲が、多層的な即興演奏、セロニアス・モンク(Thelonius Monk)の曲、そして25年前にパーカーが作曲したいくつかの曲にしっかり馴染んでいる。

モンクとはうまい例えだと思った。二人ともそれぞれの世代で最も進歩的な音楽運動に深く関わっていて、当時はどちらもあまり有名ではなかったが、20年ほど後に世界が彼らに追いつくまで、彼ら独自の方法でやり続けていた。私は幸運にも、30年前に初めてジェフ・パーカーを聴いたとき、何か特別なものを目の当たりにしていると気づくことができた。

Listen to "Forfolks"

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