見出し画像

患者さんを捉える  ー股関節術後に歩容の改善を目指した症例ー

以下に記す症例について、見方、知識の使い方、考え方の流れが参考になれば幸いです。

情報)
70代の方である。
右大腿骨頚部骨折で人工関節置換術施行、急性期病院の理学療法1ヶ月後、回復期病院へ転院する。

現在、T-cane歩行は自立し、歩行スピードも実用的なレベルまで回復している。
受傷前は活動的な生活を送っていた。そこで歩容の改善を目標に理学療法を進めている。
但し、痛みはない。

歩容の問題として体幹が右傾斜し、重心が左側にある。

歩行の状態)術側である右下肢中心の歩行周期

TSw      MSw      ISw      PSw      TSt      MSt      LR      IC


Q) 何が問題か?

A) 体幹は歩行周期全般で右に傾斜している。
しかし、その傾斜の程度が歩行周期で変わる。

Q) どのような変化か?

A) 右立脚期よりも左立脚期で大きい。

TSt          MSt          LR          IC

上段は左立脚期 下段は右立脚期


Q) 傾斜が最も大きいのは左MStであるが、この原因は?

左MSt


A) 左立脚期の歩行周期で、骨盤と足部の位置の変化から骨盤の左方移動がある。

TSt           MSt           LR         IC 


Q) 骨盤の側方移動と体幹の傾斜の関係は?

A) 重心は骨盤にある。
骨盤が左側方移動すると、重心線を支持期底面に入れようと、体幹を右傾斜させる。

Q) 骨盤の側方移動の原因は?

A) 股関節が内転位なため、左股関節外転筋の低下を疑う。

Q) 評価では?

A) 左右差はなく、問題なかった。

Q) 他には?

A) 膝関節の側方動揺や内反変形、外側縦アーチの低下も考えられる。

Q) 評価では?

A) 左右差はほぼなく、問題なかった。

Q) では、何か?

A) 下肢に問題がないので脊柱を疑う。

Q) どのような?

A) 脊柱の側弯である。

Q) 脊柱のどのような側弯か?

A) 左凸の側弯である。

Q) 左凸側弯が左右立脚期の傾斜の違いを説明できるか?

左MSt


右MSt


A) この時、遊脚側の骨盤を引き上げるために、体幹の側屈筋が働く。

左MStでは右側屈筋が働くので、左凸側弯を助長してしまい、体幹の右傾斜が強まる。

左MSt

逆に、右立脚期では左側屈筋が働くので、左凸側弯を押さえるため、体幹の右傾斜が減る。

右MSt


以上の左右立脚期の体幹傾斜の変化からアプローチで変えられる可能性がある。

Q) 評価では?

A) 腰椎で左凸側弯が確認された。
また、左側屈筋の緊張が右に比べて低かった。

この緊張の低下は
左凸側弯により、左側の組織が伸張され
その結果、椎体の左側は関節包や靱帯の支持が右に比べて強なる。
その分、筋による安定化を行なわなくて済むことから来る
と考える。

Q) ここで、左ICは右ICに比べて股関節が内転位である。

左IC        右IC


この状態で立脚期に入ると、股関節が内転位なので、股関節外転筋が伸張されて機能が低下し、骨盤の左側方移動が起こる。

上記で述べたように、重心は骨盤にあるので、骨盤の左移動に対して、体幹を右傾斜させて、重心線を足底に納めようとする。

左MSt


よって、この左ICの股関節内転も問題と考える。

これも左凸側弯と関係するか?

A) 左凸側弯はカップリングの影響で、体幹を右回旋させる。

Donald A.Neumann 原著 嶋田 智明 他監訳:筋骨格系のキネシオロジー 原著第2版 より引用


そこから正面を向くために、体幹を正面に戻すと、今度は、左骨盤が後方回旋位になる。

左骨盤が後方回旋の状態で、左下肢を振り出すと、股関節では内転筋が優位に働く。

Q) 評価では?

A) 左右の腸骨を触りながら歩行させると、左骨盤は右に比べて後方に位置していた。

また、矢状面で左右の歩幅を見ると、左は右に比べて歩幅が狭かった。
これも骨盤後方回旋を間接的に読みとれる。

右歩幅        左歩幅


Q) アプローチは?

A) 左凸側弯を減らすことである。

Q) 方法は?

A) 左を下にした側臥位になってもらい、凸の部分にクッションを入れて10分ほど寝てもらう。
これにより、左凸部分の左側屈ROMを行なう。

写真はイメージ


次に、端座位で左骨盤の挙上(出来る範囲)で行なう。これは休みを含めて5分間実施した。
これにより、左体幹側屈筋の緊張を高めて、ROM後の可動域を維持させる。

Q) 結果は?

A) 目に見える大きな変化はなかったが、本人としては軽くなったと言った。
軽くなったのは、余計な筋の作用が減ったことなので、1週間続けた。

アプローチ1週間後、変化があったので、アプローチをそのまま続ける。

歩行の状態)左立脚期の歩行周期

TSt         MSt        LR       IC      TSw

上段はアプローチ前 下段はアプローチ1週間後



最後までお読み頂きましてありがとうございます。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?