喧嘩できることも、無責任に好きって言えることも。

 喧嘩ってできればしたくないです。
ただ、喧嘩すらできない相手に片思いしているほうがよっぽどつらい。
無責任に、好きって言えないのも、休日に連絡するのをためらうのも、
自分が社会的に問題のある立場で抹殺されるべき存在に立っているのも、
相手が大切にしているものを大切にしたいのに、それをすると自分の好きを
どこに押しやったらいいのかわからないこの感情も状況もすべて、
すべて、滑稽で悲しくて。

2年前、ずっと片思いしていたひとから連絡先を交換したわけでもないのに急にLINEがきて、私のしゃべらないでただ静かに想うだけにしようモードがいつの間にか解除されて、その人とプライベートな話をするようになって、
その時に「奥さんと喧嘩してさ」って。

喧嘩できるのって、喧嘩できる距離感だからだよね。
相手に自分の気持ちを伝えたいと思って、しかもそれが許される相手であって、しかもお互いにどうにかしたいって気持ちがあってこそだよね。
そうじゃないケースもあるけど。

私の好きを静かに埋葬する予定で、途中まで順調だったのに、
勝手に気持ち知りもしないでこじ開けて、気持ちだけ大きくさせて、
でも好きって伝えられない相手で。
貫き通す気もないし、距離を置いて忘れようって頑張ってる。
自分のためでもあり、相手のためでもあり、相手の大切な人たちのためでもあり、私のことなど知らないまだ小さい子のためでもあり、
社会の秩序のためでもある。

感情などなければよいのにと、この2年間、死にたい気持ちも含めて
思ったことが幾度となくあって、今だって一日も早く死ねたら本望だって思ってる。健康な体、優しい家族、恵まれた職場、そういったものがあっても、それでもまだ私は死にたい気持ちがぬぐえない。自分を自分で救えなかった。ひたすら海に沈んでもがいている自分を、上から船に乗った私が静かに黙ってじっと見つめているだけの日々だった。

大好きな歌の歌詞に「好きだとか無責任に言えたらいいな」っていうのがあって。
世の中の大半は、好きって思ったら、相手に伝わるように行動して、言葉を交わせて、どんな状況でも好きって言葉だけは平等に伝えられて、どう受け取られようが、好きって伝える権利は等しく与えられて。
それが、等しく与えられたスタートライン。

休日に連絡をしないようにして、クリスマスとかお正月、ゴールデンウイークには一緒にいられなくて、2人きりの食事にも買い物にも誘えなくて、職場で2人で少しでも長く話せば、いくら仕事の内容とはいえ「距離が近い」と言われ、周りの人を巻き込んでみんなで飲みに行っても「あの二人、何かあるの?」って言われ、肝心なあなたの気持ちはさっぱりわからず確認もできず、私の好きも行き場を失って浮遊していて。

感情を操作できたら、もうこんな思いしなくていいのにね。
忘れよう忘れようとしたら忘れられないって聞くから違うことに熱中しようと努力して、連絡先もトーク履歴も非表示にして、あなたのことをできる限り思い出さない時間を増やすようにした。職場で合っても、気持ちがそれないように仕事に一生懸命に取り組んで集中した。

それなのに、やっと忘れたころに、唐突に連絡してきて、
都合よく飲みに行こうよって言われて、
そんなの、勝手すぎるし、本当なら全部気持ちぶちまけて
気まずい空気でもなんでもいいから、無責任に伝えてみたかった。
全部、無責任に、今までの想いも、今の想いも、自分がどうしたいかとか、
そういうのを、全部受け止めろなんて言わないから、
ただ聞いてほしかった。どこにも埋葬できないまま、自分の中でなんとかしろって言われてるみたいで、でもあなたは自分の周りの人たちと今も、
いつもと変わりない日常で、変わりない会話で、過ごしているんでしょう。

好きな人の幸せを願える人間に私だってなりたい。
自分が自分がって言っているのは、愛じゃなくてただの自分本位で一方的な恋。
わかってるのに、携帯を開いて、非通知に設定しているあなたからの連絡がないかなって最近はまたすごく考えてしまう。
非通知にしたりしなかったり、トーク履歴を非表示にしたり、時々また表示して読み返したり、明日は出勤日かなとか、そうやってじたばたしてるのももう、いい加減辞めたい。

どうにもならない率99.9%、いや100%に限りなく近いのをわかってて、まだもがくのかな私は。
周りが結婚していくのを手をたたいて笑顔で見送りながら、
周りが仕事を辞めて子育てに専念する様子を、成長していく人の子供を
SNSの写真でふとした時に視界に入れて少し複雑な感情を持ちながら、
それでもどうにもならないこの感情と一緒に、
暗くて音のしない部屋で一人で生きなきゃいけないのかな。

もうすぐ、あと少しで、物理的に離れられる時がきて、
それまでに自分が社会的な過ちを犯さないように自制しながら、
頑張って生きていきます。

どうにもならないものにとらわれすぎたこれまでの時間は今は意味をなしていないけれど、いつか少しでいいから笑える程度には風化されてほしい。

あなたからの飲みの誘いはすべて、静かに断ろうと思っています。
あの時一緒にみんなで飲んだのが最後。あなたは最後だとわかっていなくても、私の中では最後だった。もう次はない。だからどうか、自分の家族を大切にしてください。ただそれだけです。

こんなに実にもならない恋をしたなら、もしも誰かに今後
無責任に好きって言えたとしたら、逆に戸惑うかもしれない。
どうか私の頭から、記憶ではなく風景として静かに去っていただけたら。
今はそれしか考えられません。