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SiDイントロダクション「MissingAllMe」

 いい午後だった。
珍しく太陽は出ていたし電磁風も吹いていなかった、おまけに露天のラジオ端末からは初期のパンクロックメドレーが流れている。
100年以上残っている本物の名曲だ。

なのに、なぜ俺は重い頭を抱えて裏路地を歩いているのか…。

「クソッ、どうなってやがんだ!」

昨晩のことは覚えていない、いつも通りどこかの酒場で飲んだくれ、ゴミ箱ででも寝てたのだろう。
不可解なことは3つ、一つは「なぜか体が機械になっている」ことだ。
このご時世義体化してる奴は少なくはない。
生身より使い勝手が良く、丈夫だからだ。
しかし俺は生身であることに拘っていた。
自分自身の体で人生を歩むことを誇りに思っていたのだ。
腕一本、目の球一つでさえ義体化した覚えはない…と思う。
というのも2つ目、記憶が無いのだ。
しかし完全に失われたわけではない。
シドと言うイカした名前は覚えているし、自分の思想も習慣も覚えている。
いや、記録されていると言ったほうが正しいのかもしれない。
捻り出そうとしたが個人情報らしきものは名前以外には見つからなかった。

急を要する3つ目はなぜか頭がもげかけている(比喩ではない)ことだった。
首の皮一枚、いや首のコード一本で繋がっているため視界は悪夢の様だし腕に抱えて視点も低い。
こんな姿環境課にでも見られれば「クリーニング」とやらをされるに違いない、何としてもそれだけは避けねば。

暫く路地を進み、スラム街の方へ出てこれからどうするか思案していると、派手なツナギの人物が話しかけてきた。

「君、随分珍しい出で立ちだねぇ。流行ってるのかい?」

どうやらこの男とも女とも得体のしれない人物は、初対面の人間に、いや機械だが。嫌味を言うのが趣味らしい。

「実は記憶が混濁していてな、自分が何者なのか分からんのだ。俺を知らないか?」

「君とは初対面だけどその義体がロックアウト製だって事は判るよ、たぶん強い衝撃で液体メモリが破損したんだろう。」

「やけに詳しいな。どうにかなるのか?」

「何を隠そう僕は天才メカニックさ、どうしてもと言うのならうちのピットでバックアップを見てみようか?
ついでにその見苦しい首も繋げてあげよう。」

何やら話が出来すぎている上に怪しすぎるが、他に宛もない。
俺はこのリアムと名乗る得体の知れない人物に付いていくことにした。

 一体俺は何処へ消えたのか?
これからのことを考え、腕の中の頭が熱くなるのを感じた。

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