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La Rosita 急場しのぎのキューバ料理

タイトルは単なるダジャレだが、ある時期、かなりの頻度でキューバ料理を食べていたときがあった。

90年代半ばのマンハッタン。ラテン系の料理といえば、まず思いつくのはメキシカンかブラジルのシュラスコというのは他の都市でも同じかと思うが(最近はペルー料理急上昇かな?)、ニューヨークに結構、ご飯と味噌汁のように、ご飯と豆と(ライス&ビーンズ)、なにか肉料理と野菜料理がセットになったような定食の店が結構あった。とくに西側の上の方、スパニッシュ・ハーレムまではいかなくても、Broadwayで100th Stあたりからちらほらあった。

それらが、キューバ料理なのか、プエルトリコ料理なのか、正直よくわからないが、ご飯がつくので、中華料理に次いで、海外にいる日本人にはありがたい飯屋であった。1人でふらりと食べに行ったり、テイクアウトしたり、知り合いが訪問してくると、まさに、急場しのぎでキューバ料理でもと行ったが、日本人知り合い系はたいがい大満足して食べていた。

「キューバ料理はキューバで食うより、マイアミかニューヨークが美味い」と断言していたのは誰であったか。知り合いだったか、TVで誰かがいったのを見たのか。僕のキューバ料理の経験は、このマンハッタンに5年くらい居た時のもの。けっこう美味い、日本の洋食のようなB級グルメというような印象の食べ物。

その後、1998年に初めてキューバのハバナに訪問したが、たしかに、先の断言のとおり、そこで食べた料理はいまひとつであった。

ホテルの朝ごはんの卵も、ニワトリ栄養失調なのか、卵の黄身の色が薄くてまずかった。晩飯はなにを食べたか忘れたが、記憶にないくらい。素材の問題なのか、僕が観光客の行く界隈しかいかなかったせいか。

街角のカフェだったかで、ギターの弾き語りのけっこううまいお兄ちゃんがいて、数曲歌ってもらって、それはとてもよかったが、その時彼からたしか当時で円で1000円くらいの彼のカセットテープは、その演奏とは似ても似つかないひどいもので、だまされたんだかなんだか(なんで自分はうまいのにわざわざ下手なテープを売りつけたのか謎)。2泊3日くらいの滞在で結論付けてはいけないのだが、キューバは期待が高すぎた分、いまひとつだった。きらいな国ではないのだが、むしろ好きな国なのだが、経験はいまひとつ、飯もいまひとつ。

でも、キューバ料理の、僕の頭の中でのステータスは高い。キューバ料理のこのディッシュがいいというのが実は特にないので、矛盾はしているが、キューバ料理の店があったら行きたくなる。

Broadwayに面して、100何番目かのStreetを越えたあたりに、La Rositaというキューバ料理の店があった。一見、デリのような、ダイナーのような作りの店だったが、それはお世話になった。飯も、とても美味かった。

なにか特徴がある凝った料理というより、わかりやすい、定番な洋食という感じ。大人数でいくと、Arroz con polloという定番のトマトソース味のチキンライスをかならず頼んでいたが、これが大盛で最高の味だったなあ。食べきれないとドギーバッグにして翌日食べても美味かった。翌朝、卵でオムライスみたいにして食べたこともあった。

あと、ビフテキみたいのとか、フライド・チキンも美味かった。僕は食に関してはおおざっぱなので、記憶にあまり詳細が残っていないことが多い。最近、古い知り合いに会って昔話するひとつの楽しみは、人によって、意外な詳細の記憶があって、それを懐かしそうに語ってくれること。そうするとその思い出がこちらにも蘇ってくる。この、La Rosita も、その頃の知り合いに会えば、もっとほかの、美味かった料理たちが思い出せるかもしれない。

デザートに必ずflanというプリンを頼むのだが、味は日本のプリンと全く同じ。よく「esquina 角 (かど)のがあったらください」と頼んでいたが、それは滅多に出てこなかった。誰かスペイン語系の知り合いに教わった、こだわりの注文法だったが、ここのプリンは一つづつ固まらせる日本のと違い、20cmx30cmくらいの大きいのを四角く作ってから何十個かに分けるので、四隅の角のが、カラメルが染みてて美味しいというからくり。

いつもがやがやしてて、活気がある店だった。

ある時、La Rositaの前をミュージシャンの知人と歩いている時、中で恰幅のいいラテン系のオヤジが飯を食っていたのが見えたので、ふと、「Tito Puente (ラテン・パーカッションの大御所* )みたいなおっさんだな」と呟いたら、そのミュージシャンの知人は窓を覗いておっさんをガン見してあっさり、「あれ本物。本物のTito Puente。会ったことあるので」。

店は、ググってみたら、10年くらいまえに惜しまれながら閉店したらしい。

あのトマト味のチキンライス、また食べてみたかったなあ。

*  ティト・プエンテ(Tito Puente, 本名:エルネスト・アントニオ・プエンテJr, 1923年4月20日 - 2000年5月31日)は米国・ニューヨーク出身のラテン音楽・ミュージシャン。「マンボの王様」、「ラテンの王様」とも呼ばれ、ティンバレス、ヴィブラフォン、キーボードなど複数の楽器を起用に演奏した。また、作曲家・編曲家・バンドリーダーとしても足跡を残した。1940年代から活躍しペレス・プラードらとともに、50年代マンボブームの立役者の一人でもある。

(タイトルの写真は、グーグルしたらでてきた、たぶんこの店のもの。キューバン・サンドウィッチという看板は記憶にはないのだが)

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